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第百十六話~討伐 五~


第百十六話~討伐 五~



 ついいつもの要領で、キュラシエ・ツヴァイを変形させたばかりか、キュラシエ・アインスとキュラシエ・ファルケⅡを分離させてしまう。その有り様を目の当たりにした傭兵たちから驚かれてしまったのであった。





 キュラシエの変形や分離を見た傭兵たちはまだ騒いでいるが、気にしてもしょうがないので無視をして宙賊を撃破していく。俺たちが立て続けに敵を撃破すると、驚きと一部喜びというか感動しているような傭兵たちも我に返った。しかし、それは当然だろう。何せこのままだと、俺たちの敵撃破数だけが上がって行くことになるからだ。それは即ち、傭兵たちのあがりが減ることとなる。俺たちのように、偶々たまたま戦力募集を受けたギルドに所属している者たちにしても、戦場などを渡り歩く生粋の傭兵にしても、自身が儲けられる機会が減るなど座して見られるわけがない。入ってくる通信からまだ俺たちが気にはなっているようだが、それはそれとしてその疑問は棚上げにしたらしい。遅ればせながら、宙賊の撃破に注力し始めていることがその証拠だった。


「さーって、次は、と……いた。落ちろ!」


 手にしているライフルの一撃で宙賊を撃墜する。しかも宙賊の宇宙艇を貫通した一撃は、その後方にいた宙賊に宇宙艇も貫いた。射線を乗せることで二機撃墜を狙った結果だが、それでも目論見通りの結果であれば嬉しくもなる。思わず小さく笑みを浮かべたのだが、その直後にコックピット内で警報音が鳴る。俺は咄嗟にスラスターを吹かしてその場から離脱したが、その直後にはついさっきまでツヴァイがいた場所を一筋の光が貫いていた。


「あっぶねー」

「油断大敵です、シーグヴァルド様」

「だな」


 寸でのところで避けたとはいえ、危ない状況だった。思わず呟いていた俺の独り言を聞いたシエから、忠告が入ってくる。実際、警告音がなければ、直撃していた可能性があった。だからこそ俺は、素直にその忠告は聞いておくことにした。

 取りあえず気を取り直したあとは、的確に敵を撃墜していく。敵の数が左翼ほどには多くはなかったこともあって、俺たちは迎撃に回された傭兵たちとともに敵の撃破を完了させていた。その後は、ツヴァイのセンサーと使用して、周囲の索敵を行う。しかし幸いなことに、レーダーに敵機らしき影が表示されることはなかった。


「取りあえず、撃破完了。かな?」

「……そう判断して差し支えないかと。また、カズサのレーダーにも敵性反応はないとのことです」


 どうやらシエは、カズサの方にも確認を取ってくれたようだ。レーダーの索敵範囲は、当然だがカズサの方が上となる。性能しかり、カバーできる範囲しかりだ。そもそもからして、カズサの方が船体の大きさに見合った大型のレーダーを搭載している。一戦闘用機体でしかないツヴァイとでは、初めからセンサーの性能など比べられるわけがないのだ。


「そうか。シエ、サンキュー。さて、敵がいないというなら、取りあえずカズサに戻るか」

「ラジャー」


 ツヴァイを飛行形態に戻しながら、祐樹たちへ戻る旨を伝えた。通信を受けて了解したみんなは、アインスとファルケⅡを再度合体させたあとで、俺のあとに続いている。その際に通信越しに入ってきた音声から、まだ傭兵たちが驚いたり一部が喜んだりしていたようだ。しかし、一々いちいち相手をしているのもわずらわしい。聞こえてくる通信は無視して、俺たちはさっさとカズサへ着艦した。

 格納庫にツヴァイを駐機させると、ドリンク片手に艦橋へと向かう。やがて到着した艦橋で、シュネへ戦況を尋ねる。すると奇襲をかけてきた宙賊を撃破した俺たち右翼と違って、左翼ではまだ混乱が回復していなかった。


「幾ら何でも、遅くないか?」

「どうも、左翼の奇襲が本命だったみたい。通信や望遠の映像からの判断だけど、腕がいいパイロットは左翼へ重点的に配置している感じね」

「それで、こちらには腕のいい相手が偶にいるぐらいで、手応えをあまりなかったのか」

「そうなの?」

「シュネさん、そうなのだよ」

「ふーん。そうだったのね」


 一瞬気が緩んだ隙を突かれたとはいえ、的確にこちらへ狙いをつけたような相手は確かにいた。だが、実際に相対した感じでは、その数はあまり多くないなと感じている。平均的という言い方が適当かは分からないが、兎に角、撃墜するのに苦労するような相手は少ない。お陰で撃墜数は稼げたので、その意味ではおいしいと言える相手ではあったけれども。


「それで、シュネ。これから戦況は、どうなると思う?」

「そうね。プライドを取るか実益を取るか……アループ子爵家の人間がどう判断するか次第だと思うわ」


 所詮、俺たちは雇われ兵でしかない。

 確かに独断専行は、ある意味で傭兵の専売特許みたいなところがあるとは聞いた。しかし俺たちは、生粋の傭兵ではない。稼げる分には否定しないが、わざわざ独断専行をしてまで敵の撃墜数を稼ぎたいとも思わない。そもそもからして、クルドがいなければこの仕事は受けていなかったと思っている。つまりこの仕事における報酬自体が、臨時報酬といえるかも知れないものなのだ。


「それで……シュネがもし司令官だったらどう判断するんだ?」

「え? わたくしがアループ家の指示を出す立場だったら? それは、簡単よ。敵の完全撃破という実利最優先で考えるわ。ただ流石に貴族の考え何て分からないから、何とも言えないわ。寧ろ、クルドにでも聞いてみた方がいいと思うわよ」

「クルド? あぁ、そっか。お貴族様の御曹司……だったもんな」

「悪かったな。元御曹司で」


 ちょうど、艦橋に入ってきたクルドから、クルドが文句を言われてしまった。どうやら、俺とシュネのやり取りを聞いていたらし……って! シュネ、通信をオンにしていたのか。その点はどうなのかと聞くと、不思議そうな顔をしたあとで気付いたかのように小さく声を上げる。その様子から、少なくとも通信が切られていないことは理解できた。


「あー、いや。そういう意味で言ったわけじゃない。それは、分かってくれ。俺が御曹司だったと言った理由は、お前なら貴族の考えは分かるだろうという意味のニュアンスを込めてそう言ったんだ」

「本当か~?」

「勿論だ。この、俺の目を見ろ! これが、嘘をついている者の目か?」


 俺は真面目に、クルドの目を見ながら言う。そのクルドも真剣に俺の視線を見返していたのだが、間もなくするとこらえきれないといった雰囲気を纏いながら吹き出していたのである。

 クルド。からかったな。


「笑わせるなよ、シーグ。冗談だよ、冗談。気になんてしてないから」

「ならば、俺も言わせてもらう。本当か~?」

「本当だ。見ろ、俺の目を!」


 その瞬間、俺とクルドは揃って弾けたように笑い声を挙げていた。



 それから、改めてクルドにアループ家の人間がどう判断するのかを聞いてみた。しかし、クルドから得られた答えというのは、分からないというものだった。その返事を聞いて思わずこけたのだが、それでもその意味を聞いてみる。ただ、少しジト目で見ながら、とはなってしまったが。

するとクルドは、頷いてから自分の考えを俺たちに告げたのだ。クルドに言わせると、自分が本当に次期子爵という数百年前のお家騒動時ならば、間違いなくプライドを優先させていたとのことである。しかし今は、普通の貴族ならあまり考えないというか考えようとしない傭兵を正規の軍と同様に運用するということ行ってまで討伐を実行している。この時点で、貴族のプライドはかなぐり捨てていると言ってもいいらしい。だからこそ、クルドには分からないとのことだった。


「……えっと、つまりはあまりにも考えが違いすぎていて、どういった判断をするか分からない。そう、クルドは言いたいのか?」

「そういうこと。ここは、我らが司令官殿たるフィル・クーガンからの連絡待ちでいいと思う。どうせ、連絡はしているんだろう?」

「ええ。勿論、しているわ」


 俺たちが右翼へ仕掛けられた急襲への対応は、フィル・クーガンからの指示によるものだ。それゆえに、敵奇襲部隊の撃破を完了した時点でシュネなりネルなりがしている筈だ。もしかしたらネルトゥースが連絡したのかも知れないが、誰が報告したところで結果に変わりはないという意味では同じなのだ。

 因みに連絡は、シュネが行ったとのことである。儀礼として、彼女がフィル・クーガンへの伝達を行ったそうだ。俺がツヴァイを操りカズサから出撃している時点で、艦隊の最高指揮者はシュネとなる。その彼女が、右翼を取り纏めているフィル・クーガンへ連絡するのが一番いいことに間違いはないのだ。



 取りあえず、フィル・クーガンからの指示待ちだということをみんなの意識として確認させた俺たちは、暫く休んでから再度出撃することにした。何せまだ、敵の拠点側にある最前線では戦いを行っている。敵奇襲部隊を左翼と違って首尾よく撃破したからだろうか、俺たちの右翼は敵を押し気味なのだ。下手をすると右翼だけが突出しかねない、それぐらい優勢となっていた。


「さーってと。そろそろ、戦場へ戻るとするか」

「そうだな。いつまでも休憩というわけには、いかないよな。金を貰っている立場だし」

「そういうことだな、祐樹」


 俺と祐樹の会話を皮切りにして、みんなも立ち上がる。そして各々おのおのが、格納庫へ向かい始めた。その途中で、艦橋にいるシュネから連絡が入ってくる。急いで艦橋へ戻ると、ある人物からの通信が入っていたのだ。その通信相手だが、我ら右翼の総司令官殿であるフィル・クーガンその人であった。

奇襲部隊を撃破したいまさら、どうして通信を入れてきたのだろう。その意図が分からず、俺は眉を寄せてしまう。そんな俺の表情に気付いたのかも知れない、フィル・クーガンが微苦笑を浮かべていたのだ。


≪そなたたち。悪いが一つ、頼まれてくれ≫

「頼み? 何をだ?」

≪左翼への救援だ≫


 フィル・クーガンからの言葉が持つ意味、それはアループ子爵家が貴族としての誇りよりも実利を取ったということなのだろう。多分。クルドの身の上に降り掛かった話を聞いたからか、アループ子爵家はガチガチの貴族だと思っていた。それだけに、俺としてはその指示に少々しょうしょう意外だと感じたものである。しかし、フィル・クーガンからの指示には続きがあった。果たしてその続きだが、アループ子爵家の本隊と相対している正面の敵に対して横から奇襲を仕掛けるというものである。その命令に俺は再度、眉を顰めてしまった。それは、祐樹や舞華やオルとキャスの兄妹、そしてクルドとサブリナも同じである。だが、シュネやセレンや俊の浮かべている表情は違っていた。


「なるほど。その手できたのね」

「確かにそれなら、実利一辺倒とはならないかしら。俊はどう思う?」

「詭弁のような気がするけどな」


 シュネとセレンと俊の三人は、フィル・クーガンから出た命令の持つ本当の意味みたいなのを理解しているらしい。しかもその理解は、どうも正鵠せいこくを得ているようだ。その証拠に、命令を出したフィル・クーガンの表情が、完全に微苦笑から苦笑へと変わっていたからだ。


≪他には、漏らさないように≫

「分かっています」

≪では、頼んだ≫


 シュネからの返事を聞いたフィル・クーガンは、最後にそう言うと通信を切る。理解しているらしい三人は別として、俺たちは実質置いてけぼりという名の放置プレイに晒されたのであった。

 頼むから、説明ぐらいしていってくれよ。フィル・クーガン!!

別連載の「劉逞記」もよろしくお願いします。

古代中国、漢(後漢・東漢)後期からの歴史ものとなります。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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