第百十五話~討伐 四~
第百十五話~討伐 四~
左翼に続いて、俺たちがいる右翼にも奇襲が掛けられたのだが、シュネが事前に警戒網を敷いていたこともあって、俺たちが慌てることはない。奇襲などものともせずに撃退していると、俺たちへフィル・クーガンから迎撃するようにとの命令が下ったのであった。
さて、ここからはいつもの俺たちがやっている戦い方だ。
今までは、回りに先行して攻撃する存在が多数いたので、突出など行わずにいたのだ。俺たちの艦隊は右翼の中ほどに陣取り、俺が率いる攻撃部隊は前線と艦隊の中間辺りに展開していたのである。だがそういった動きも、右翼を預かるフィル・クーガンから迎撃命令が出たことで、気にする必要もなくなったというわけだ。
俺は機体性能を生かして、右翼の中を駆け抜けていく。最短距離での移動の為か、かなり味方の攻撃艇と接近することもあったが、別にかすりもしていないのでいいだろう。そう思っていたのだが、そういうこととならないようで味方から文句の通信が入ってきた。面倒だなとは思いつつ一応返信で詫びを入れるが、それだけで終わらせる。何より、接触してしまったのならばまだしも、実際には傷一つ付けていないのだから文句を言われるいわれもないのだ。俺てきにはな。
兎にも角にも、右翼を最短距離ですり抜けた俺は、右翼正面で展開している最前線とは別の、奇襲を仕掛けてきた宙賊がいるもう一つの最前線へと到着した。どの敵を狙おうかと物色しようとした矢先、このタイミングで味方の傭兵から救援の通信が入ってきた。どうやら、通信相手は元からこの辺りに展開していた傭兵が操る機体らしい。しかしてその傭兵だが、四機の敵から狙われていたのだ。しかし、何とか撃墜されずにいるので腕は悪くはないのだろう。とはいえ回避しかしていないところを見ると、このままでは遠くないうちに撃墜されるだろう。だからこそ傭兵は、平文で救援要請をしたというわけだ。
「なるほど。あれは、不味いよな」
「はい。七十五パーセント以上の確率で撃墜されます」
「ふむ。じゃあ、援護するか」
「ラジャー」
シエからの返事を聞いた直後、スラスターを吹かした俺は、宙賊の四機と傭兵の計五機で行われているドッグファイトに接近する。やがて敵機が有効射程に入ると、間髪入れずに攻撃を行った。俺が標的とした敵機は、傭兵を仕留めることに集中していたからだろう。宙賊は、碌な回避運動を行うこともなかった。それでも一瞬だけシールドが攻撃を防いだようだが、すぐに飽和状態となったのか機体を打ち抜かれている。その直後、宙賊の船体が爆散していた。
「まずは一つ」
≪増援だと!?≫
漸く俺の存在に気付いたようで、残りの敵機は動きが不安定となっている。そこに生まれた隙を見逃さなかったようで、ついさっきまで追い回されていた筈の傭兵は機体を加速すると包囲の環から抜け出している。そのまま逃げるかなと思ったが、そのよう気兵は反転すると反撃に移った。
曲がりなりにも四機相手にして回避し続けていたのだから、宙賊の操縦技術よりも傭兵の操縦技術の方が上だと俺は判断している。そしてその判断は、間違いなかった。その証拠に、俺が二機目を撃墜した頃と同じくして、反転して戻ってきた傭兵はすれ違い様に敵を一機だが撃ち落としている。すると最後の一機は、このままでは不利だと悟ったのだろう。機体を反転させると、この場から逃げようとしていた。無論、そのようなことを許すわけがない。俺はすぐに攻撃し、銃口より撃ち出された光は真っ直ぐ進んでいく、そして宙賊の宇宙艇を、後方からまっすぐ機体先端に向けて打ち抜いていた。
「三期目、撃墜っと」
≪いやー、助かった。感謝するぜ。あのままだと、ちとやばかったからな≫
「いや。中々の腕だろう。一対四で落とされなかったんだからな」
≪だけどあのままじゃ、ジリ貧だった。だから、感謝する≫
「了解」
その傭兵は、俺へ礼を言ったあと次の標的を探してだろう。この場から、離れていったのだった。
まずは三機ほど撃墜したわけだが、宙賊の宇宙艇はまだまだ飛び回っている。どうやら、宙賊の目的は右翼を突破のようだ。その証拠というわけではないが、攻撃点が集中している。実際、被害の状況から見て間違いはないだろう。だからこそ、一対四などといった状況が生まれたというわけだ。しかしこうなると、どうしても戦闘エリアが狭くなる。そうなると、速度が売りの飛行形態を保っているより人型の方が攻撃も迎撃も行い易い。やはり飛行形態は、一撃離脱を得意とする。こと機動に関しては、小回りが利く人型の方が上となるからだ。
「シエ、機動形態に変更」
「ラジャー」
キュラシエ・ツヴァイを飛行形態から人型に変更させると同時に、手にしているライフルを放つ。その直後、敵機が爆散した。やはり近くに標的が多数いる場合、腕にライフルを持って狙う方が短時間で撃破できる。俺は次々と標的を変えながら、ライフルを放っていく。百発百中とはならないが、それでも八割以上は命中させた。
≪おいおい! 何だその宇宙艇!! というか、人型ってどういうことだ!?≫
「あん?」
理由は知らないが、先ほど助けた傭兵から通信が入ってきていた。この戦闘空域から離れたのかと思っていたが、どうやら戻ってきたらしい。その傭兵だが、とても驚いている。その理由が分からず考えた俺だったが、そこで後続の祐樹やオルたちがこの場に到着する。彼らは俺が人型になっていたのを見たからか、到着と同時にキュラシエ・アインスとキュラシエ・ファルケⅡに分離していた。
≪はぁ!? 今度は分離しただと!≫
≪何だよそれ!≫
≪……かっけー≫
俺のところに通信が入っていた傭兵とは別の傭兵たちは、俺のファルケが変形した時以上に驚いている。通信が入っているのを気付いているのかそれとも気付いていないのかは知らないが、彼らは素っ頓狂な声を上げているのだ。しかもそれも、余程の驚きらしい。その洋子に、傭兵たちが操る宇宙艇の軌道がブレたりしているのだ。
しかし、ここまで彼らが驚いている理由が分からない。相変わらず攻めてくる宙賊をライフルで宇宙のごみへと変えながら、俺はツヴァイのコックピットで首を傾げていた。
≪なぁ、シーグ。さっきから通信を垂れ流しているあの傭兵は、何で五月蠅いんだ?≫
「さぁ。俺の方が知りたいけどな……よっと、撃墜数追加」
≪あっと。俺も、一機追加だ≫
俺と祐樹は、周囲の状況など無視したかのように騒ぐ傭兵を非常に迷惑だなと思いつつ、それでも敵機を片っ端から撃墜していく。すると間もなく、俺の機体に搭載されているコンピューターのシエから音声が流れてきたのであった。
「……あくまで推測ですが、彼らは知らないからではないでしょうか」
「どういうことだ、シエ」
「この銀河で広く公表されている情報の中に、変形する機能や合体・分離する機能を有した宇宙艇というものは存在しておりません」
「……つまり、始めて見るからあの傭兵たちは驚いていると?」
「ほぼ間違いなく、そうだと」
ああ、そうか。
フィルリーアでキュラシエシリーズの開発に成功してから、あまりにも普通に機体を乗りこなしていたから普通に忘れていた。そもそも機械への理解が殆どと言っていいぐらいにないフィルリーアは一まず置いておくとして、この銀河では確かに俺の駆るキュラシエ・ツヴァイや祐樹と俊とオルとクルドが乗り回しているキュラシエ・アインスのような人型の兵器というものが存在してはいない。もしあるとしても、それは人と同サイズの戦闘用アンドロイドやガイノイドくらいなのだ。そのアンドロイドやガイノイドにしても、俺たちが擁しているアンドロイドやガイノイドに比べて性能は劣っている。少なくともカタログスペックを見た限りでは、間違いなく下だと言えるのだ。
その上、シエが前述したように巨大人型兵器などについては影も形も見えない。それだけに、傭兵たちが驚いたのも無理はないのだろう。しかも傭兵という職種は、大概にして兵器に詳しい者が多い。その理由は主に二つあって、一つは元軍人がそれなりの数いるからだ。そしてもう一つの理由は、兵器の情報はそのまま自分たちの乗る宇宙艇の武装力アップに繋がっているからだ。武装のバージョンアップや最新情報は、そのまま自身の生き残る確率に直結する。だからこそ、兵器等の情報については敏感にならざるを得ない。そしてこれは、ギルドに所属するメンバーに関しても同じなのだ。
翻って俺たちはというと、この銀河に流通している既存の兵器などまず使わない。カズサなどの艦船は無論、俺たちが操るキュラシエも全てシュネが先頭に立って設計・開発した兵器を使っているからだ。これはシュネが提供してくれる兵器や道具の方が、性能が上だからに他ならない。ただ、あまりにも似通わないと藪から蛇となりかねないので、外観的には似たような武装にしていた。
「しまったなぁ。これは完全に、考えていなかった」
≪あっはっは! 俺もだ。いやー、かんっ、ぜんに頭の中から消えていたよ≫
「そうだよなぁ、祐樹」
完璧に巨大人型兵器などがないことを失念していた俺と祐樹は通信越しに話していたのだが、そこへ一つの通信が割り込んできた。
≪あなたたち! 会話にかまけていないで、さっさと敵を撃退しなさい≫
「分かっているって、シュネ」
≪それと、シーグ。気にしても仕方ないわよ。あの傭兵についても、キュラシエについても。だって、この仕事を受ける時点で、分かっていたことでしょう?≫
すまん、シュネ。俺は全く、気付いていなかったのだよ。
何せ俺の中では、あくまでクルドが持っていた故郷の危機を助けたいという思いに従った結果でしかなかったからだ。仲間の思いに応えた形であって、実はデメリットについては考えていなかったというわけだ。全く持って、申し訳ないのだがな。
「あー、その。すまん。そっちについても、考えてもいなかった」
≪……やっぱり、そうだったのね≫
「え? シュネは考えていたのか?」
≪ええ。だけど、仲間の……クルドの願いだもの。無下にする気もなかったから、結果は同じよ。シーグと同じにね≫
シュネはモニター越しにそう言いながら、笑顔を浮かべていた。いい笑顔だなぁ、惚れ直してしまいそうだぜ。
別連載の「劉逞記」もよろしくお願いします。
古代中国、漢(後漢・東漢)後期からの歴史ものとなります。
ご一読いただき、ありがとうございました。




