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第十話~拠点~


第十話~拠点~



 医療用バイオノイドとなるヘリヤの診察によって、キャスが難病の魔力過多症をわずらっていることが判明する。そんな彼女の治療をする為、彼女の兄であるオルと共に研究所へ転送した。

 その後、キャスはヘリヤと同じく医療用バイオノイドのイルタと看護師のバイオノイドとなるエルヴィへと委ねられたのだった。





 転送機が設置してある部屋から出る際に、転送機の操作をしていた彼らへ挨拶代わりに軽く手を挙げておく。それから部屋を出ると、そこには乗り物が二台待機していた。一台は数人乗りであり、もう一台は、さらに大型の乗り物であった。

 果たしてその乗り物だが、見た目はどちらもタイヤのない車両と言っていいだろう。なぜタイヤがないのかというと、それは必要がないからだ。この乗り物は、通路上を浮かんで移動するタイプの車両で、イメージとしてはリニアカーとほぼ同じといっていい。その為、タイヤが必要ないのだ。

 しかし、何ゆえ研究所内にこんな車両があるのかというと、研究所が山の地下に大きく広がっている為である。研究所はかなりの規模を誇るので、徒歩だとどうしても時間が掛かってしまう。そこで移動の際には、この車両……リニアカーを使って移動をするのだ。

 転送機のある部屋から出た俺たちは、その待機していた二台のリニアカーに分乗する。ストレッチャーによって運ばれたキャスや、心配そうな表情を浮かべながらも妹に付き添っているオル。それから、治療を行うスタッフとなるヘリヤやイルタやエルヴィ。それと医療関係者ではないが、アリナも大型のリニアカーに搭乗している。そして俺を含む残りのメンバーが、もう一台のリニアカーに乗り込んでいた。

 やがて全員が二台のリニアカーに搭乗すると、医療行為が行われるエリアへと向かった。このエリアだが、俺とシュネが憑依した体が一万年以上保管されていた場所でもある。それだけに、信頼度も高いエリアでもあった。

 やがて医療エリアに到着すると、すぐにオルとキャスの兄妹へ身体検査が行われる。この結果次第では、精密検査も行うこととなるというのがヘリヤの言葉だった。

 その様子をただ黙って見ていたのだが、やがて身体検査の結果が判明する。するとやはりキャスは、ヘリヤの見立て通り魔力過多症を患っていた。さらに彼女のもう一つの見立て、即ち兄妹揃っての先祖返りということも当たっていたのだ。


「それでキャスだが、治るのか?」

「はい。問題はありません。古代文明期には、治療法は確立していました。だからといって、気を抜ける程簡単でもありません。治療が難しいということに、変わりはありませんので」

「よくは分からんが、難しいことは難しいけど大丈夫ということか?」

「はい。その認識でよろしいかと。そして、無事に治療が終わったあとは自身で魔力操作を行うことになります。しかし、魔力過多によって体内の魔力はかなり乱れていますので、すぐに健常体けんじょうたいとなることは無理かと思われます。そこで暫くのあいだは、魔力操作用の魔道具を所持してもらうことになります。その状態で、少しずつ体内の魔力を安定させていきます」

「まぁいい、任せるぞ」

『はい。お任せください』


 専門的過ぎて治療のイメージも追いつかないので、正直にいえば理解できていない。だが、これ以上説明をされても理解できないことに変わりはないので、完全にヘリヤとイルタとエルヴィへ任せる決断をした。

 なお、これを世間では丸投げという。

 何であれ、治療に当たる三人の返事を聞いてから、検査室から出る。ただ彼女たちから、キャスの病気が完治する保証が得られたことにどこかで安心もしていた。

 因みにキャスだが、このあとに集中治療室へ移動する筈である。そこで、本格的な治療を開始することになっていた。

 さて、検査室から出たあとは、再びリニアカーへ乗り込む。その後、俺たちが向かった先は、生活空間が集中しているエリアだ。ここには俺やシュネの部屋とか、憩いの為にと作られた小さな公園などがある。事実上、俺とシュネの為だけに用意されたエリアといってよかった。

 これからはオルも、このエリアで生活することになるだろう。そして魔力過多症の治療が終われば、キャスも同様だった。


「いつ見ても、地下だとは思えないよな」

「全くよね」


 なおアリナだが、引き続いてオルとキャスの面倒を見てもらうことになっている。その為、さっきの医療エリアに残っている。つまり今は俺がビルギッタを、シュネがエイニを伴っているだけの状態だった。

 そんな彼女たちと共に、俺の部屋へ入る。すると、ビルギッタとエイニがすぐに台所へ向かった。すぐに食器が擦れるような音がし始めたので、どうやら彼女たちはお茶の用意する気らしい。それならば、そちらは彼女たちに任せて俺は椅子に腰を降ろす。すると対面には、シュネが腰を降ろしていた。


「さて、今後だけどどうする?」

「次に向かうとすれば、別方面よね。あの辺りには、もう鉱山の候補がないし」

「そうだっけ?」

「そうなの! ほら、見てみなさい!!」

「……あ、本当だ」


 部屋に備え付けのモニターに、わざわざシュネは行商を行ったエリド王国辺境地域周辺の地図を出す。するとシュネが言った通り、鉱石が出る候補としている鉱山など辺りに一つもなかった。


「それにしても、次は当たりを引きたいわね」

「以前は、期待外れだったからな」

「そうなのよね」


 そういいつつ、シュネは机に突っ伏した。

 今回行商を行った辺境地域の前に、やはり赴いた地域がある。そこには鉱山があるのだが、かなり有望視していた鉱山候補だったのだ。しかし現地で調べてみると、そこは当たりとはいえなかったのだ。

 事前の観測などから有力候補地の一つと考えていた場所であったのだが、予想よりも埋蔵量が少なかったのである。とはいえ、それなりには採取できたので完全に外れというわけではない。しかし空振り感が大きく、余計にはずれ感がぬぐえなかった。

 伊達に鉱山師が、山師といわれる理由をまざまざと見せつけられたと思えた瞬間でもある。だからといって、諦めるわけにもいかない。研究所の維持にも勿論だが、他に色々いろいろなものを作る為にも資源は必要なのだ。


「だからこそ、資源・資材は必要か」

「鉱山から掘り出した鉱物などから生成する時間の短縮はできても、資源だけはね」

「その為にも、手付かずの鉱山を見付ける必要があるわけだ。全くもって、ままならんなぁ」

「しょうがないわ、こればっかりはね。だけど、次も候補としては有力な筈……だから」

「頼りないな。だけど今度こそ、といいたいな」

「全くだわ」


 その後、引き続いてこれからの行動についてシュネと話し合う。部屋に備え付けてあるモニター上にエリド王国や、隣国のルドア王国の地図を映し出しながら何だかんだと意見をいいあう。だが、比較的近くにあってしかも超有望と思われる鉱山、しかも手付かずとなる鉱山が既に候補地となっているので、結局のところそこが目的地なることで話は終始していた。


「さて、現地近くまでだけど、やっぱり行商をしながらだよな」

「一番、見つかりづらいからね。だけど、オル君とキャスちゃんのこともあるし」

「あ、そうか。治療中のキャスは別にして、行商の場合はオルを連れていく必要があるか」

「そうなの。だけどオル君、キャスちゃんから離れるかしら」


 確かに、その問題はある。同じ村ならばまだしも、行商に連れて行くとなれば長期間離れることになる。治療が終わったあとならば別だろうが、そうでなければ治療中のキャスから離れることをよしとするとも思えない。契約があるからそれを盾にするという手もあるにはあるが、正直にいえばあまり使いたい手ではなかった。


「どうするかな。いっそのこと、キャスの治療が終わるまで出発を延ばすか」

「そうね。それが、いいかもね」

「じゃあ、行商を再開するまでは、久しぶりにのんびりするか」


 オルを行商に連れていく以上、できれば気持ちよく仕事をしてもらいたい。その為にも、キャスの治療が終わるか、最低でも病状が安定するかしたあとのほうがいいだろう。

 こうして、キャスの魔力過多症が治療されるか、または治療の目処がたつまで次の行商へおもむかないことにした。


「それでシュネ。キャスだけど、どれぐらいで治る見込みだ?」

「説明、聞いたじゃない」

「よく分からなかったんだよ」

「仕方ないわね。治療の目処めどは、立っているわ。だけどそのあとは、魔道具を使って魔力を安定させる時間が必要なの。だから、そのあいだはという意味でも、行商をしないというのはちょうどいいのよ……そうだ。魔道具も作っておかないと」

「シュネが作るのか? 俺はてっきり、アイモがつくるとばっかり思っていたが……」


 アイモとは、魔道具の製造を任せているアンドロイドだ。基本的に、シュネとアイモが魔道具を作っているのだが、二人の間では明確に役割分担がされていた。

 まずシュネの場合、作るのは希少な魔道具や特注品の魔道具作成である。つまるところ彼女は、新規の魔道具作成や魔科学や地球の科学から応用した完全にオリジナルとなる魔道具の作成などを行っているのだ。

 一方でアイモはというと、既に作られたことがあり、しかも使用実績がある魔道具の作成担当となっている。シュネが、新規品やオリジナル品に携わっていることもあって、過去にそれなりの数が作成された経験がある魔道具、要は既存品ともいえる魔道具の作成に携わる機会は必要とされない限りどうしても減ってしまう。そこで、シュネの代理として主にアイモが魔道具作成を行っているというわけだ。

 つまり、魔道具作成においてシュネの助手として存在しているのがアイモなのである。


「折角だからね。私が作るって言ったのよ」

「そうか。だけど、無理はするなよ。シュネはのめり込むと、徹夜するだろ」

「緊急に何かを作ったりしなくてはいけないわけでもないから、そんなことはしないわ。そこは、安心していいわよ」


 そういってから、シュネはテーブルの上にあるビルギッタの作ったクッキーを何個か口に放り込んだ。そして、飲みかけの紅茶を全部飲むと立ち上がる。それから俺に対してウインクをすると、エイニを伴って部屋から出ていった。

 その様子は実に楽しそうであり、昔からあまり変わらない。シュネは何かを作ったり研究したりというのが、子供の頃から好きだった。だが、それが原因でいじめられたこともある。しかし、その事実がわかるたびに主に俺が力技で解決していた。

 そして中学に入った頃には、俺もそう簡単に力を振るわなくなる。だがその頃には、シュネを直接いじめるような存在は地元だといなくなっていた。

 有り体にいえば、俺がそいつらの心をへし折ることで駆逐したのだ。

 そして高校に入った頃だと、シュネが自身で対処するようになる。実際、彼女も高校の頃には俺の実家で代々伝えていた武術である御堂流を護身術代わりに習っていたので、そう簡単に暴力行為に屈することはなかったようだ。

 それどころか、返り討ちにしていたこともしばしばだったようである。そうなるといじめは陰湿となるのだが、そこは彼女の天才的な頭脳の出番となった。詳細について詳しいことは知らないが、かなり苛烈だったらしい。何せいじめを実際に行った方が逆に泣かされてしまい、中には退学やら転校やらという選択をした奴もいたとかいないとか伝え聞いたぐらいだから相当だったのだろう。

 まぁ、自業自得ってやつなので同情する余地もないから気にもしなかったが。

 その時、ビルギッタが台所から部屋へ戻ってくる。彼女は今まで、俺やシュネや使った食器などを洗っていたのだ。


「では、シーグヴァルド様。何か御用がありましたら、お呼びください」

「ビルギッタも、お疲れさん」

「はい」


 その後、静かにビルギッタが部屋から出て行く。何となしに彼女を見送ったが、部屋が静かになると眠気が襲ってきたので、ひと眠りでもと考えてベッドに倒れ込んだのだった。


連日更新、続行中。


研究所での一コマ、ですかね。

何気に、シュネが子供の頃にいじめられていることが判明しています。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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