第百三話~闖入~
第百三話~闖入~
敵と思しき相手が繰り出してきた戦力を、俺たちはほぼ全滅させた。そしていよいよ、敵本拠地であろう小惑星を次の標的としたのであった。
一まず、こちらの被った損害を修理しておきたいところなのだが、流石に敵を前にしてのんきに修理なんてことをしている余裕はない。仕方なく俺たちは、そのまま小惑星へ向かうことにした。
艦船はそれでもいいだろうが、生身の俺たちはそうはいかない。周囲と敵に対する警戒、それから船の護衛は無人機のキュラシャーに任せると、旗艦のカズサへ着艦した。
一旦、キュラシエから降りると、飲み物を手にしながら艦橋へ入る。そこで、敵の動きがどうなっているのかについてシュネに尋ねてみた。それというのも、俺たちが着艦してから少ししたあと、船足が止まっていたからからである。すると、俺の問い掛けを聞いたシュネが、メインモニターを指し示す。どういうことだろうかと内心で思いながら視線を向けると、船を停めた理由が分かった。それは、敵の拠点であろう小惑星自体に問題があったからだ。
何とメインモニターの映像には、大小さまざまな砲門がこちらを向いている様子がしっかりと映っていたのである。ハリネズミだな、これは。
「見ての通りよ。このまま近付いても、負けはしないけど。できれば、調べたいのよ」
「なるほどな」
正面から艦隊で近付けば、間違いなく殲滅戦になる。それこそ、反撃ができなくなるぐらいに損害を与えなければいけないからだ。しかしそうなれば、ちゃんとした調査というのは難しくなるのだろう。戦闘終了後にサルベージを行うから、断片的には調べられると思う。だが、断片的である以上はちゃんとした調査にはならないかも知れないのだ。
つまりシュネは、これ以上の損害を与えないで敵の拠点を確保したいらしい。とはいったものの、どうやっても手段が限られてくる。ただ撃破だけなら、正面から攻撃すればいい。実をいうと、そちらの方が簡単なのだ。力押しすれば、それでいいだけなのだから。
しかし、シュネが拠点丸ごとを調べたいという希望を持っている以上、選択としては潜入して中から制圧の一択となる。そしてどうやら、シュネのお好みとしては潜入ののち制圧という手段のようだ。多分、科学者の血でも騒いでいるのだろうな。
調べてみないと分からないけど、今得られている情報から考えれば色々と不明な点が多い。特に魔力波を使っていた当たり、未知の技術となるだろう。元々シュネは科学者で、さらに言うと探求という方面で言えば若干マッド気味なところがある。ともなれば、さもありなんと言ったところなのだろうか。
「うーん。まぁ、可能と言えば可能か。幸い、死角もできているし」
「死角? ああ、魔術陣砲で吹き飛ばしたとこね。確かにあそこからなら、行けるわね」
「そういうことだな」
「じゃあ、お願いできる?」
「しゃーないか。シュネの頼みだしな」
「ありがとう」
こうして、敵拠点の制圧作戦が開始されたのであった。
制圧戦と言っても、以前に悪魔たちの移住先の惑星を占拠していたやつらの施設で行った方法をそのまま踏襲するだけでしかない。ネルをリーダーとしたガイノイドやアンドロイドたちを送り込んで実際に制圧を行う傍らで、俺たちは別動隊として敵拠点の中枢を抑えるというものだ。
しかし、これも問題はある。現在、敵拠点となる小惑星の構造を把握できていないことだろう。破壊したというか文字通り消滅させた部位近くであればどうにか分かるようなのだが、そこからある程度離れると外側からのセンサーでは反応がないらしいのだ。
彼女に言わせると、どうやらセンサーを遮断しているとのことらしい。その為に、システムが死んでいる個所以外はセンサーによる探査ができないのだ。何とも、面倒な話だな。
「じゃあ、実際に探索するしかないということか」
「そうなるよな! いやー、本格的だなぁ」
「……えっと、どうした祐樹。テンション、高くないか?」
「だって、わくわくしないか? ある意味、ダンジョン探索だろ」
まぁ、敵の拠点の探索をそう言うのならそうなのかも知れない。そうかも知れないけど、そういうものか?
何ともいえない祐樹の言葉に、首を傾げていた俺は意識せずにシュネの方を見る。すると彼女は、やや呆れたような表情をしながら肩を竦めて見せたのだ。だが、その気持ちは分かる。俺も今、似たような思いだからだ。
そういえばフィルリーアで行った悪魔の拠点探索や聖都潜入作戦でも、そして斗真たちの移住先となった惑星上に非合法拠点を作っていたシンジケートへの潜入の際も、当時はあまり気にしていなかったが祐樹は楽しげというかどことなく陽気だったような気がする。
ふと、俺などより遥かに付き合いが長い舞華や俊たちはどうなのかと思い彼らを見てみる。すると、舞華は仕方ないわねといった表情をしながら苦笑していた。俊に至っては、処置なしとばかりに頭へ手を置いている。だが祐樹と共に行動していたメンバーで、唯一違う反応をしているのはサブリナである。彼女は、とてもにこやかだったのだ。
一人だけ違う反応をみて、サブリナの浮かべている笑みの裏に何かあるのかと勘ぐってしまう。しかしながら、彼女にそういった雰囲気はない。強いて上げるとすれば、弟でも見ているかのように見えた。というか、俺にも経験がある。まだ俺が中学から高校に上がる頃、偶に実の姉から似たような表情というか視線を向けられたことがあるのだ。
当時は姉の仕草を見ると、何となく苛ついて不機嫌になったものである。今となっては、良き……いや良きなのかは分からないが、良き思い出だ。うん、そうしておくべきだろう。どこか俺の中で、何かが囁いているのだ。これ以上、掘り下げない方が安全と言うか安心するのだと。
「ま、まぁ。浮かれて油断さえしなければ、いいけど」
「分かっているって。任せろ!」
「本当かなぁ」
いまいち、不安が残らないでもない。だが、今までだって問題が出たことはない。気を付けさえしておけばいいだろうと、俺は割り切ることにする。大丈夫だろう……大丈夫の筈だ、多分だけどな。
敵拠点への侵入方法だが、ネルトゥースが囮となる。というか、ネルトゥースが操作する艦隊そのものを囮とするのだ。こうすることで敵の注意をそらしておいて、その隙に死角から接近して乗り込むというのが潜入の骨子である。前述したように、魔術陣砲で小惑星の一部を盛大に消し飛ばしているので、その場所がそのまま死角となっているからだ。
ここで生きてくるのが、工作艦の慣らし運転期間での経験となる。相手は宙賊であったとはいえ、ネルトゥースは独自に艦隊を指揮して戦いをこなしている。そこで得た経験を、この場で発揮すればいいだけなのだ。それに今回の場合、拠点を持った敵との戦いの経験も積めることとなる。つまりさらなる経験値獲得によって、ネルトゥースもレベルアップするのだ。
「じゃあ、ネルトゥース。あとは頼んだ」
「はい。お任せください、シーグヴァルド様」
艦橋のメインモニターに、一人の女性が映し出されている。その姿はネルによく似ている、というかほぼ同じと言っていいだろう。だが、厳密にいえば、少し違う。まず、身に着けている女性用スーツが違っていた。それに髪の色も違うし、何より眼鏡をかけているのだ。しかもその眼鏡を、右手の指でクイッと上げていたりする。
ともあれ完全に予想していなかった事態だけに、俺は目をしばたかせてしまう。そしてそれは、俺だけではない。オルや祐樹たちも、似たような状態になっていた。
「……えっと。これって、どういうこと?」
「折角だから、アバターを作ってみたの。もっとも作ったのは、ネルトゥースだけどね」
ああ。それで、ネルとよく似た容姿をしているのか。
そもそもネルは、ネルトゥースの頭脳体、要は移動端末としての存在となる。いわば、ネルトゥースの分身なのだ。元になったのはガイノイドだが、容姿についてはシュネとネルトゥースで話し合って決めたと聞いている。そこでのデータを使えば、よく似せたアバターも作るのも簡単というわけだ。
とはいえ、何でまたアバターなんて作ったのだろうか。既にネルがいるのだから、必要ない気はするが。
「それで、どうしてアバターを作ったんだ?」
「ただ話すより、映像上でも姿があった方がいいと考えたみたいよ。私が相談を受けたから、すぐにゴーサインを出してみました」
「……シュネ。面白そうだからと、許可しただろう」
「うん! もっちろん」
とてもいい笑顔を浮かべながら、俺に返答するシュネを見つつ内心で彼女の返答をある意味で納得していた。前から分かっていたことだが、シュネにはそういった部分がある。今回のように面白そうだからといった理由で、あまり深く考えずに物事を始めてしまうところがある。その辺りが、俺が軽くマッドが入っていると思っている点でもあるのだけれど。
ただ、別に嫌いじゃない。俺も面白そうだからと言って始めてしまうようなところはあるかなと、自分でも思わないでもないのだ。
「まぁ、いいか。確かに会話だけより、いいかも知れないからな」
「そうそう。やってみなくちゃ、分からないでしょ」
「そうだな……さて、と。おーい、お前たち。そろそろ戻ってこいよー」
「……はっ! あ、ああ」
俺の呼び掛けたことで、祐樹やオルたちの反応が順次戻ってきた。全員の意識が戻ってきたところで、漸く艦橋から出ていく。そしてもう一度格納庫へと向かい、それぞれが愛機に乗り込んでいた。
また、シュネのように乗り込む機体がない者は、ネル率いる制圧部隊が搭乗宇宙船へと乗り込んでいる。程なくして全員が搭乗したあと、俺たちは敵拠点を制圧する為に旗艦のカズサから発艦したのであった。
別連載の「劉逞記」もよろしくお願いします。
古代中国、漢(後漢・東漢)後期からの歴史ものとなります。
ご一読いただき、ありがとうございました。




