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第百一話~踏査~


第百一話~踏査~



 新造艦である工作艦の慣らし運転を兼ねた、不具合のあぶり出しテストを銀河辺境地域で行っていた俺たちだったが、それらも無事に終わりを迎える。特出とくしゅつした案件もなかったようで、建造に直接携わったシュネたちが胸を撫でろしていたのが印象的であった。





 こうして慣らし運転を兼ねたテストが無事に終了した俺たちではあったが、いまだに銀河辺境地域を航行していたのだ。しかしながらそれには、勿論理由がある。しかしてその理由とは、新造艦となる工作艦の慣らし運転中に起きたある出来事に由来していた。

 とは言うものの、慣らし運転や問題の精査中に問題があったわけでもない。では何が起きたのかというと、それはたまたまだがセンサーがある現象を感知したことに由来していた。

 それは、本当に偶然であったのだろう。何とセンサーが、魔力由来の波長を感知したのだ。しかし、それだけならばそれほど問題ではない。しかしながらセンサーが捕らえた魔力の波長に関しては、問題ないとは言い切れなかった。


「シュネ、それは何でなんだ?」

「魔力の波長に、明確な指向性があるからよ」

「……あー、よく分からないのだが。その指向性? とやらがあるのは、問題なのか?」

「当然でしょ」


 シュネに言わせると、当然らしいのだが俺にはよく分からない。しかもそれは俺だけではなく、オルやキャス。それに、祐樹や舞華やサブリナも同じである。もっとも、セレンやクルドや俊は様子が違っていた。それは彼らの表情が、俺などと違ってあからさまに驚きを現しているからであった。

 それはつまり、シュネの言葉の中に彼らを驚かす要素があったということになる。しかしながら、分からないものは分からないし理解できないことは理解できない。それゆえに、シュネへ尋ねてみたのだ。


「えっと。シュネ、簡潔に教えてくれ」

「つまりね。指向性があるということは、発信源となる物があるということなの。たとえば、アンテナとかね」

『……え?』


 シュネの言葉に、俺たちは驚いた。驚かなかったのは、既に驚いていたセレンとクルドと俊の三人である。だがよく考えてみれば、当たり前かもしれない。何せ三人は、既に一度驚いているのだ。改めてその事実を告げられたとしても、驚くことでもないのだろう……初耳だった俺たちとは違って。


「そ、それはつまり。俺たちのように、魔道具を使う存在がいるというのか!?」

「そういうことね。しかも、宇宙で運用できる規模の魔道具をね」

「マジかよ……」


 この銀河において宇宙で実用できるほどの大きさを持つ魔道具を運用しているのは、俺たち以外にいない……いや、いない筈であった。しかし少数とはいえエルフがいるので、個人で運用するような小型の魔道具は存在している。その魔道具に関してもほぼ門外不出といってよく、エルフ自身が所有しているかもしくはエルフの星でもない限りまず見掛けることなどないのだ。

 それであるにも関わらず、魔力を使用していると思える魔道具が存在している。しかもそれは、宇宙空間で運用することを前提としているらしい。それは明らかに、この銀河に存在する文明とは一線を画していると言ってよかった。何せ実際に使用している俺たちであっても、シュネという天才と今は亡き先代のシーグヴァルトという魔道具作成の天才がいたことで運用が可能となっているぐらいなのだ。

 もし、先代のシーグヴァルドが残した遺産ともいうべきフィルリーアにあった研究所がなかったら、幾ら天才のシュネであったとても恐らく無理だった筈なのだ。もっとも、この前提自体、意味がない。何せ先代シーグヴァルドの遺産、いやそもそもシーグヴァルドと先代のシュネーリアの二人がいなかった場合、俺とシュネは憑依することなどなく死んでいた筈なのだ。そう考えると、随分と綱渡りで憑依したのだなと認識してしまう。本当、天文学的確率で俺とシュネは生き返ったというわけだ。

 話がそれた。

 何であれ、アンテナかどうかは分からないが、魔力の波長を発信する何かがあるということに間違いはない。それだけでも、調べる価値はあるとは思えた。


「だから言ったのに。あの時、調べてみましょうって」

「ま、待て待てシュネ。あの時点では、工作艦の慣らし運転中だった。だから、調査はあとにしようと言ったんだ」

「あら、そうだったかしら。そうかも知れないわね。それで、今度はいいのね」

「……ああ。そうだな」


 何だろう、この気持ち。

 理由は分からないが、何だか胸の内がもやもやとする。とはいえ、現状でシュネの言葉に反対する気はない。だからそれはいいのだが、どうしても落ち着かない何かがあるのだが……まぁ、いいだろう。それよりも、その正体不明の何かの方が問題となっている。今は、そちらに集中することにしようじゃないか。


「では、行くわよ」

「座標は分かるのか?」

「当然でしょ。そもそも、調べる気だったのよわたくしは。その私が、座標を記憶させないわけがないでしょ」

「シュネが、その辺りで抜かるわけがないか……では、行くとしようか」

「ええ。ネルトゥース、お願いね」

「了解しました、シュネーリア様」


 それから間もなく、俺たちは問題の場所近くに向けてワープを行ったのであった。





 目的地周辺へ到着したので、ワープを終了して通常空間へと戻る。それと同時に、ネルよりワープの終了が告げられた。


「ワープ・アウト。問題ありません」

「ご苦労さん」


 その後、艦隊の運用についてはシュネに任せると、俺はみんなを連れて艦橋より格納庫へと向かう。そこでそれぞれが愛機に乗り込むと、順次カズサから発艦した。程なくして俺たちは、問題となっている指向性のある魔力波が出ている地点に到達する。だがそこには、何もなかった。

 そう。

 何もないのである。しかしながらカズサのセンサーは、間違いなく魔力波を捉えているらしいのだ。いや、そればかりではなく、確かに魔力の波長……ここは魔力波でも命名しておこう……その魔力の発信が、確認されているというのだ。

 それはどういうことなのかとシュネへ問い掛けると、彼女は艦橋の自分の席にあるコンソールを操作し始める。その行動に何か理由があるのだろうと思いそのまま見ていると、間もなくカズサの艦首の先に魔術陣が浮かび上がった。

 シュネがいきなり魔術陣砲を稼働させるなど思ってもいなかった。しかも俺だけでなく、みんなの反応が遅れてしまう。それでも我に返った俺は、慌ててシュネに声を掛けようとした。しかし間に合わず、魔術陣が光を放つ。するとその直後、魔術陣から光の帯が発射されたのだ。

 カズサの艦首に展開した魔術陣より放たれたその光は、宇宙空間を突き進んでいく。そのまま直進するかも思ったのだが、そうとはならなかった。何と光の帯は、何かにぶち当たったかのように弾けたのだ。

しかも、それだけには留まらない。光が弾けた場所には、先ほどまで見えていなかった何かが存在している。全く予想もしていなかった光景に、俺たちは二の句が継げなくなった。

 しかし魔術陣を稼働させた当の本人は、驚いている俺たちを気にすることなく何度も魔術陣から光の帯を放っていく。そして放たれた光が見えない何かに当たり始めるたびに、見える範囲が広がっていった。

 そのうち、シュネから放たれた魔術陣からの光が弾けた辺りで、連続的に宇宙空間を走るようになる。ついには、宇宙空間を縦横に走っていた光が膨れたかのように広がったと思えた瞬間、まるで爆発したかのように辺り一面に光が溢れる。やがてその光が収まると、果たしてそこには何かが鎮座していた。


「……えっと……何だよ、これは……」


 大きさとしては、直径で五十キロメートル前後ぐらいだろう。何とそこには小惑星らしき物体が一つ、静かに佇んでいたのだ。勿論、そこにはつい先ほどまで魔力波を感知する以外、全くなにもなかったのである。それであるにも関わらず、今は小惑星と思える物体が存在している。あまりにも劇的な変化を前にして、俺は言葉にならないでいた。

 暫くの間、通信で繋がった俺たちの間に奇妙な沈黙が流れる。しかし、その静けさを生み出した切っ掛けと言えるシュネだけは、にこやかな表情を浮かべていた。もっとも、彼女がどうしてにこやかな表情を浮かべるぐらいに嬉しいのかまでは分からないのだが。

 

「……えっと、だな……シュネ、説明プリーズ」

≪ええ。いいわよ≫


 どや顔と表現してもいいぐらい、彼女はいい表情を浮かべている。その彼女からの説明によれば、魔術陣より放たれた光の帯は魔術陣砲ではないらしい。思わず目をしばたかせた俺は、さらなる説明を求める。するとシュネは頷いたあとで、説明を続けたのであった。

 確かにさきほどの光の帯だが、魔術陣を使った物らしい。だが、既存の魔術陣砲のように、破壊力を求める物ではないらしいのだ。それでは何だったのかというと、何のことはない光の帯が齎す効果とは以前フィルリーアで聖都を覆っていた結界を無効化させた魔道具と同じ効果を持つ光であった。

 さて結界の無効化を、どうやっているのか。それは、指定した領域に存在する魔力をゼロにすることで可能としている。つまり結界を無効化する魔道具というものは、意図的に魔力が全く存在しない領域をつくっているということなのだ。

 今さらの話だが、魔術は魔力があってこそ意味がある。その魔力が無ければ、魔術は効果を発揮することができなくなってしまうのだ。


「なるほど。つまり、あの小惑星は今まで魔力によって隠されていたと」

≪ええ。そう言うことよ≫


 目的は分からないが、小惑星は意図的に隠されていたようだ。しかし、誰が? という疑問は当然巻き起こる。だがこうして現れたのだから、あとは調べてみればいいのだ。そうすれば、疑問も解消する……筈。そう考えた俺は、小惑星へ向かおうと言い出すが、シュネから止められてしまった。

 その理由を尋ねると、指向性の魔力波が出ている以上は何らかの文明的な要素がある可能性が高いからだというものだった。だからこそシュネとしては、まずは無人偵察機を小惑星へ送り込むことを考えていたらしい。俺としても、行き先の様子が全く分からないより、少しでも分かっている方がいいので、特に反対もしなかった。



 カズサから発進した無人機は、何ら問題が発生することもなく順調に小惑星へ近付いていた。だが、ある地点を越えた途端に無人機の反応が消えてしまう。何が起きたのかと、シュネに問い合わせてみた。


「何が起きた?」

≪分からないわ。突然、反応が消えたのよ≫

≪シュネ、故障なの?≫

≪いいえ、舞華。そのような反応ではなかったわ≫

≪……分かりました。どうやら、撃墜されたようです≫


 俺たちが会話をしている途中で、ネルトゥースより驚きの報告が入った。

 先行した無人機は、撃墜されてしまったらしい。それも、警告もなくいきなりだ。しかし、これで分かったことがある。こちらの思惑は別にして、あの小惑星は敵に成り得るということだ。しかも既に攻撃を受けていることが、その証明と言っていい。こちらとしては喧嘩などを売るつもりはなかったので、不本意と言えば不本意である。しかし、敵と判断されたのならば仕方がない。それ相応の対応は、させて貰うとしようじゃないか。


「シュネ。ここからは、穏便な手は打たないぞ」

≪……そうね、仕方ないわね。全艦、第一級戦闘配備≫

≪了解致しました≫


 二隻の大型駆逐艦を最前線に配置し、その二隻の斜め後方に工作艦が布陣する。実は新造された工作艦にだが、巡洋艦並みの戦闘力は持っている。それゆえ、戦闘に使えないわけではない。しかし工作艦であるという性格上、戦闘ができる船として運用しないに越したことはない。だが、手持ちの艦船が少ないので、戦力扱いするのも致し方ない運用であった。

 最後に、旗艦であるカズサが工作艦近くに鎮座する。そしてそれぞれの艦船の周囲には、護衛として無人戦闘用機体であるキュラシャーを展開させている。その護衛を担っている無人機体とは別に、俺たちが乗るキュラシエもまた、独自に隊を形成していた。


「さて、そろそろ行くと」

≪お待ちください、シーグヴァルド様≫

「どうした、ネルトゥース」

≪反応、多数確認。小惑星近くに展開を始めています≫


 直後、コックピットにあるモニターに映像が現れた。流石に、各キュラシエのセンサーで捉えきれる距離ではまだないので、カズサから送られた映像となる。そしてその映像には、確かにネルトゥースの言った通り見たことのない機体が複数映し出されている。しかも、ただ映し出されているだけでなく、続々ぞくぞくと増えているのだ。


「これは、ライブ映像か?」

≪はい≫


 どうやら、リアルタイムの映像らしい。しかもそこに映っている機体は、全て俺たちの方を向いている。どう見ても、迎撃する気満々まんまんにしか見えなかった。どうやら、あちらさんなりの歓迎らしい。これは中々なかなかに手荒な歓迎であると言えるが、ならばこちらも全力でお相手させてもらうとしましょう。


「では、今度こそ行くぞ!」


 俺の声を契機に、戦闘部隊となる俺たちの機体が一斉に動き出す。その部隊の先頭を切ったのは、いつもの通り中内で最高速を誇る俺の愛機となる操るキュラシエ・ツヴァイなのであった。

別連載の「劉逞記」もよろしくお願いします。

古代中国、漢(後漢・東漢)後期からの歴史ものとなります。


ご一読いただき、ありがとうございました。

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