第九十九話~完成~
第九十九話~完成~
当初行っていた盗掘を行う宙賊を狙いとした討伐効率が落ちたので、囮を使う方法へと変更する。そのお陰もあってか、引き続いての宙賊狩りが行えるようになっていたのであった。
俺たちは、宙賊狩りを取り止めて工作艦を建造しているドックへと戻ってきていた。その理由は、シュネより建艦が終わったことを伝えられたからである。ちょうど、宙賊討伐で撃破後に回収した物品の取り扱いもあるし、討った賞金首に掛かっていた賞金の受け取りもある。一旦は戻ろうと考えていただけに、シュネからの連絡はグットタイミングだったのだ。
俺たちは他の船に比べて損傷が少なく、リペアを行った宇宙船一隻を曳航しながら貸しドックがあるステーションコロニーへ戻ってきたわけだが、そのままシュネたちのところへと向かう。初めは先にギルドに向って、宙賊討伐後に回収した品やリペアが終わっている宇宙船の売却をしようと考えていた。しかしその前に、シュネから先にドックまで来るように尾の伝達があったのである。
何でも、使える物があるかもと考えたらしい。身内で一番機械系に詳しいシュネの言葉に、俺も逆らう気はない。了承して、ドックへと赴いたというわけだった。まぁ、完成した工作艦をすぐにでも見たいという気持ちもある。しかしてそれは、間違いない事実だった。
やがて到着したドックの中では、新造の船が一隻鎮座している。その全長は戦艦のカズサよりもおおきい。それこそ、悪魔の移住に使用した移民船くらい大きさを持っていた。
「……でかいな」
「そうね。だけど工作艦は、半ば工場みたいなもの。大型化するのは、仕方ないわ」
「そうか。それでシュネ、非武装ということはないよな」
「勿論、当然よ!」
俺からの問い掛けを聞いたあと、嬉しそうな雰囲気を漏らしながらシュネは肯定したのであった。
さて、工作艦の性能だが、武装という意味では巡洋艦程度らしい。戦艦のカズサより大きいわりに武装が貧弱になったのは、理由がある。それは、目的の違いだ。今さら言うまでもないことだが、戦艦となるカズサは敵と戦う為の船である。ゆえに、武装も強大になっていく。何せ敵を倒せなければ、宝の持ち腐れでしかないからだ。武装している意味が、全くなくなってしまうのである。
しかし工作艦は、動く工廠に当たる。兵器の開発や製造、修理などに重点が置かれる為に、船のエンジンから生み出されるエネルギーの運用もそちらが中心となるからである。かといって、宙賊が跳梁跋扈する宇宙を航行するのに非武装とするにはいささか……いや。かなり難しかったのだ。
「それで、船の大きさからすれば落ちる武装になったと」
「ええ。これ以上は、ちょっとね」
「まぁ、キュラシエもある。ここは、巡洋艦が一隻増えた。そう考えておけばいいか」
「でも工作艦だから、あまり前線には出したくないわ。あくまで、防衛の為と考えてね」
「……了解した」
折角、巡洋艦と同等の武装を持っているのにと思わないでもない。しかしシュネが釘を刺してきたように、工作艦は戦闘艦ではない。それを考えれば、確かに前線へ出すのはナンセンスだと言えた。暫く考えてからその言葉に納得した俺は、シュネの言葉に同意をした。
「それでシュネ。ついでだから聞いておく」
「何かしら」
「他にある宇宙船は、何だ?」
実は、工作艦の他に一隻だけだが鎮座しているのだ。工作艦があったドックとは違う、幾らか小さめのドックにあったので気付けなかったのである。しかし、遅まきながら気付けたので、こうしてシュネに尋ねたのだ。
「うん。駆逐艦よ」
「駆逐艦って……もしかしえ、工作艦と一緒に建造したのか?」
「ええ。これも、シーグが頑張って賞金首稼ぎをしてくれたお陰よ」
「…………あー! もしかして、金を稼げと言ったのは」
「そう。この為でもあるわよ」
だが、シュネの言わんとすることも分からなくはない。
そもそもの話だが、俺が船を増やそうと言い出したのはカズサと僚艦となる大型駆逐艦の二隻しかなかったからだ。そこで、キュラシエなどを集中運用できるように、元々の計画にあった戦闘空母を建造しようと考えたのである。途中でシュネの提案もあったので、まずは工作艦という形になったのだ。
「それで、シュネ。大きさから見ると、僚艦の大型駆逐艦とあまり変わらないように見えるが」
「ええ。その判断で、問題ないわ」
「つまり、こいつも大型駆逐艦であると」
「ええ」
これで都合、四隻になったことになる。
ということは、この大型駆逐艦もそして工作艦も自動操縦艦になるのだろう。もしくは、ガイノイドやアンドロイドを増やすとかそんな形に収まることになるのだろうな、きっと。そう俺は考えてシュネに聞いてみたのだが、返ってきた答えは若干違っていた。
大型駆逐艦は装備をも含めて元々あった大型駆逐艦と同じ仕様にする気であるらしい。要は、予想した通り自動操縦艦というわけだ。しかし、工作艦は半自動とするとのことである。部品などを作るいわば工場に当たる場所は自動にして、開発の部分は自動とはしないつもりだそうだ。
「新たな開発、ねぇ。わー、シュネが入り浸りそうだ」
「あら、よく分かったわね」
「本気か! 戦闘時に、全体の統括はどうするんだよ」
「大丈夫。ちゃんと、私がするわ」
確かに開戦時に違う船にいたとしても、転送すればいいだけなので移動は一瞬となる。そう考えれば、必ずしも旗艦であるカズサに常駐する必要はないと言えるかもしれない。だが、問題がないかと言われればそうではない。たとえば、シュネが開発等で手が離せなかった場合だ。その場合はどうするのかと問い掛けると、ネルやネルトゥースに任せても問題ないとの返答だった。
「もう、経験は十分に積んだと思うわよ。データを検証した限りでは」
「本当かよ」
「シーグヴァルド様、お任せください」
シュネが保証し、ネルトゥースの移動端末であるネルがそこまで言うのならば任せてみるのも悪くない。何より、防衛を任せられるならば俺としてもやり易いことに間違いはないのだ。やはり、艦隊を指揮するなど性に合わない。前線で動いている方が、しっくりくるのである。
「そうか。じゃあ、いずれな」
「はい」
そのうち、戦闘にでもなれば任せてればいいか。そうすればわかるだろうと考え、取りあえず話は終わりにしたのだった。
工作艦と大型駆逐艦の計二隻を建艦してから最初に行ったこと、それは慣らし運転である。シュネからの説明でスペック上の性能は分かっても、実際に運用して経験しないと分からないことは多い。かといって、必要もないのに大型艦が下手に動いて色々と運用実験などしていると、あらぬ疑いを公的機関から持たれる可能性が全くないとは言わない。自意識過剰といわれればそうかも知れないが、下手に余計な疑いを掛けられるよりはましというものだろう。そこでドックを出たあとは、俺たちはラトル共和国の領内から出たのだ。
流石に、国の外にまで出た相手に国の公的機関の手が伸びることはないからである。ましてや、向かう先はどの勢力にも属していない地域となる。なおさら、手が出されることがないのだ。それに、俺たちとしても公的機関の手が伸びない地域には用はある。工作艦と大型駆逐艦を建艦する為に消費した鉱物などの物資を、補充する為だ。
このあと、予定ではもう一隻くらいの建造を考えている。さらに言えば、できるかどうかは分からないが将来的には機動要塞の建造すら考えているのだ。仮に機動要塞を建造するとした場合、そこで掛る物資の消費が大きくなることは幾ら俺であっても分かる。その為もあって、こうしてラトル共和国の辺境を越えて国外の未確認宙域まで出たのだ。
こうして治安どころか、何が起きるか全く当てにならない宙域を四隻で進んで行く。当然だが、偵察用として機体は方々に飛ばしていた。何せこの未確認宙域については、殆ど情報がない。斗真たちが移住した惑星系がある領域は、ラトル共和国の国外とはいえ比較的情報が集まっていた。これは、ラトル共和国と今いる銀河の東に勢力を持つマカルト王国との関係が、現時点においてマカルト王国とアーマイド帝国ほどには悪くないからだ。
しかも今いる地域は、ラトル共和国と冷戦状態のメリア連邦との間にある。そのことも相まってか、ことさらに情報が少ないのだ。未確認宙域のなかで両国の国境に近いところは別だが、それ以外の宙域となると手付かずの状態と言っていい。それだけに、未確認宙域というのは宙賊が潜むには持ってこいだとも言える。つまり、船が増えたことで調整する相手にはこと欠かないというわけだった。
「ちゃんと、周囲は警戒をしておけよ」
「はい」
どうしてカズサの艦橋で俺が指示を出しているのかというと、事前の予想通りシュネが新造の工作艦に行っているからだった。ゆえに俺が今は、カズサの艦橋で指示を出しているのである。その内心では、本当に似合わないというか性に合わないなどと思っていたとしてもだ。
それに、俊やセレンといった頭のいい者たちもやはり工作艦に向かっている。結局のところ、引き続いて俺が指揮するより他はなかったのであった。
別連載中の「劉逞記」もよろしくお願いします。
古代中国、漢(後漢・東漢)後期からの歴史ものとなります。
ご一読いただき、ありがとうございました。