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~プロローグ~

新連載を開始します。


取りあえずは、プロローグです。


~プロローグ~



 列車内に響く悲鳴、左右に大きく揺れ動く車体。そして、座席より大きく吹き飛ばされた俺と、同行していた瑠理姉。何でこんな事態にと思いつつ、隣で血を流しながら倒れ込む彼女へ視線を向けたのだった。





 瑠理姉は少し年上の幼馴染で、ドイツのエリート大学へ留学した才媛となる。そんな彼女が久しぶりに日本へ戻ってきたのだが、その際に成田空港への出迎えを仰せつかったのであった。どうせ、荷物持ちでもさせようと考えたのだろう。だが、その思惑に乗って迎えにきているのだから俺も大概だと言ってよかった。

 成田空港のロビーで待つこと暫し、瑠理姉が現れる。その彼女へ片手をあげて挨拶をしつつも、出迎えていた。


「久しぶり、瑠璃姉」

「そうね裕也。四年ぶりだもの」

「そんなになるのか」

「ええ」


 さて、こうして姉と称しているが、別に彼女とは姉弟でも何でもない。瑠璃姉の姓は雪村となるし、俺の姓は御堂である。ならばなぜに姉と呼んでいるのかというと、これも幼馴染であることに理由があった。

 俺と瑠理姉は親族であり、はとこ同士となる。それに家も近所ということもあって、それこそ子供の頃から付き合いがあった。それだけに、瑠璃姉とは実に気の置けない関係でもあるといっていいだろう。その気安さがあるから、俺は荷物持ち兼出迎えを瑠璃姉から頼まれたのであった。




 時間的には、ちょうど昼頃といっていい時間帯である。そこで、腹ごしらえとして空港のレストランで舌鼓を打った。その食事のあと、少し休んでからいよいよ家へと向かう為に列車へと乗り込む。しかしながらその帰路で、思いもかけない事態と遭遇してしまう。何と、乗り込んだ列車が脱線してしまったのだ。

 初めに感じたのは、列車が何かに乗り上げたかのような感覚である。その直後、車体が大きく揺れ動いた。そこからさらなる衝撃が、列車の車体に走る。理由は分からないが、右に振られてすぐに車両が逆方向へ振られたのだ。

 僅かな時間のあいだで、右に左にと車両が大きく揺すられたのである。その車両の中では、乗り込んでいた乗客が空中へ投げ出されたばかりか、あちこちへぶつかっていたのだ。

 正に、あり得ない光景といっていいだろう。

 そのような事態の中で俺は、せめてとの思いから隣に座る瑠理姉へ覆い被さる。しかし、たて続けに起きたあまりに大きい衝撃からは、彼女を守りきれなかった。

 そう。

 俺と瑠理姉もまた、座席より放り出されてしまっていた。つまり、車両内へ投げ出された人と同じような状況へ、俺と瑠璃姉もおちいってしまったのである。もっとも当事者からすれば、そんなことを思う余裕はない。それこそ、冗談で済む話でもないからだ。

 恐らく、即死した者も乗客の中には多数いるのだろう。しかしある意味で、それは幸せだったかも知れない。何せ痛みを感じることもなく、あの世へと向えたのだから。寧ろ俺や瑠璃姉のように息がある方が、怪我による苦しみを味わうことになる。何せ空中へと放り出されたあとで、床へ思いっきり叩きつけられているのだから。


「るり……ねえ。ぶ、無事……か?」


 そんな状況の中で、俺は瑠璃姉へ何とか声を掛けて安否を確認する。だが彼女は、目で否定するだけだった。つまり今の瑠璃姉には、体を起こせるだけの力もないどころか言葉を返すことも無理ということになる。だがそれは、俺もほぼ同じであった。

 あくまで感覚からの推察だが、片腕と片足の骨が折れている。力が入らない上に、酷く痛むことからも間違いはないだろう。しかも足については、骨が飛び出しているように感じていた。さらに体のあちこちも痛むので、全身打撲といったところだろうか。

 そんな満身創痍の状態でも何とか視線を巡らしてみたが、見える範囲においても車両の損傷は酷い。それはつまり、車両を襲った衝撃の大きさが凄まじいことを雄弁に物語っている。正にその証明といっていいのか、車両内には死体なのかそれとも怪我人なのか分からない人の姿が幾つも転がっていた。

 そんな最悪に近い状況を辛うじて認めることはできたが、同時に全身をむしばむ痛みから意識が落ちそうになってしまう。それでも頭を振ることで意識を繋ぎ止めようとこころみるも、自分の意思に反して僅かに頭が振れるだけだった。

 ならばと、骨が折れていない腕を伸ばして瑠理姉の手を掴む。そして力を入れようとしたが、もう殆ど力が入らない。それでも何とかしたいと思う俺の意思とは無関係に、ゆっくりと瞼が落ちていく。抵抗しようにも、抵抗する力もでない。そればかりか、なぜか小さかった頃の思い出とかが頭の中に浮かんでくる始末だった。


「これが走馬灯ってやつなのか?」


 だが、瞼が完全に閉じる直前、何かの光に周囲が包まれたような気もする。しかし、瞼が閉じると同時に自分の意識は急速に閉じていった。





 そして、なぜか俺……いや俺と瑠璃姉は、のであった。


というわけで、プロローグをお送りしました。



ご一読いただき、ありがとうございました。

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