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失敗の成功  作者: 062
12/21

追憶(2)



「うん、ママとパパがりこんしたから」

サラっと重大発言するかおるちゃん。「りこん」て「離婚」の事だよね?本人は離婚がどういう事なのかまだわからないのかもしれない。発音も言い慣れていなさそうだし。そうなんだ。それでこんな時期に入所したんだ。

かおるちゃんは何でもないようにまだ紫色のクレヨンでラベンダーを書き込んでいる。夢中で書き込むその手がぴたりと止まった。

「あっ」

私は思わず声を上げる。

隣にいる私にはすぐに分かった。キュロットから水分が染み出して、イスから床に広がっていった。どうしていいか分からず呆然とする私。そして、

「かおるちゃんがおもらしした〜!」

園児の誰かが叫んだ。その声を合図にみんなからの注目を集めるかおるちゃん。

「あらあら」

と重盛先生が駆け寄り、テキパキと指示を出す。私が任されたのは、かおるちゃんの着替えだった。大事な部分を拭いてあげて、新しいパンツとズボンをはかせてあげる。

「ごめんね、気づいてあげられなくて」

かおるちゃんは4歳児だから、私には責任があると思う。だから、謝っておきたかった。

「おねえちゃんのせいじゃないよ」

「でもー」

「楽しかった。みんながいっしょだった時を思い出せて」

私の言葉をさえぎって、かおるちゃんが言った。みんなとはパパとママの事だろう。多分だけど、家では思い出す事すらタブーなんだろう。私には離婚の原因なんてわからない。でも、かおるちゃんは世界で1人だけ、その離婚に反対する人間だった事は私にもわかった。


汚れたキュロットスカートと下着を軽く洗って、絞って脱水しレジ袋に入れた。自分の仕事を終えて、かおるちゃんと戻ろうとするのを重盛先生がさえぎった。

「ごめん、言い忘れてた。園のルールがあるの」

そう言って渡されたのはオムツだった。

「他の子の手間もあるし、これを着けさせておいて」

私は反対する事も出来ず、黙って受け取る。

「ごめんね」

と私は言い。さっき着替えたばかりのズボンとパンツを脱がせて、パンツタイプのそれをはかせる。


かおるちゃんは、初めて泣き顔になった。


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