追憶(2)
「うん、ママとパパがりこんしたから」
サラっと重大発言するかおるちゃん。「りこん」て「離婚」の事だよね?本人は離婚がどういう事なのかまだわからないのかもしれない。発音も言い慣れていなさそうだし。そうなんだ。それでこんな時期に入所したんだ。
かおるちゃんは何でもないようにまだ紫色のクレヨンでラベンダーを書き込んでいる。夢中で書き込むその手がぴたりと止まった。
「あっ」
私は思わず声を上げる。
隣にいる私にはすぐに分かった。キュロットから水分が染み出して、イスから床に広がっていった。どうしていいか分からず呆然とする私。そして、
「かおるちゃんがおもらしした〜!」
園児の誰かが叫んだ。その声を合図にみんなからの注目を集めるかおるちゃん。
「あらあら」
と重盛先生が駆け寄り、テキパキと指示を出す。私が任されたのは、かおるちゃんの着替えだった。大事な部分を拭いてあげて、新しいパンツとズボンをはかせてあげる。
「ごめんね、気づいてあげられなくて」
かおるちゃんは4歳児だから、私には責任があると思う。だから、謝っておきたかった。
「おねえちゃんのせいじゃないよ」
「でもー」
「楽しかった。みんながいっしょだった時を思い出せて」
私の言葉をさえぎって、かおるちゃんが言った。みんなとはパパとママの事だろう。多分だけど、家では思い出す事すらタブーなんだろう。私には離婚の原因なんてわからない。でも、かおるちゃんは世界で1人だけ、その離婚に反対する人間だった事は私にもわかった。
汚れたキュロットスカートと下着を軽く洗って、絞って脱水しレジ袋に入れた。自分の仕事を終えて、かおるちゃんと戻ろうとするのを重盛先生がさえぎった。
「ごめん、言い忘れてた。園のルールがあるの」
そう言って渡されたのはオムツだった。
「他の子の手間もあるし、これを着けさせておいて」
私は反対する事も出来ず、黙って受け取る。
「ごめんね」
と私は言い。さっき着替えたばかりのズボンとパンツを脱がせて、パンツタイプのそれをはかせる。
かおるちゃんは、初めて泣き顔になった。




