追憶(1)
『ゆいおねぇさん、カンナおねぇさん、よろしくおねがいしまーす』
ここは高校近くの保育所、今日から3日間、職業体験という保育士さんのまね事をやろうという、夏休み初日のイベントだった。他の職業もいろいろあったが、カンナがこれにするというので、特に希望のなかった私も保育所を選んだだけだった。
さすがにカンナは歳の離れた妹がいるだけあって、すんなり小さい子供の輪に入っていけた。案外、カンナには適職なのかも。
「見てないで、この子をよろしくね」
そう言ってきたのは、このクラス担任の重盛先生だ。実はお母さんの友達で私とは、幼い頃から面識がある。
「最近入所した、かおるちゃんよ。いい機会だし、ぼっち同士で仲良くしてなさい」
メールとかラインなら「www」とか(笑)が語尾に付きそうな感じで、女の子を紹介された。まあ、今ぼっちなのは否定しない。カンナを中心に男の子も女の子もお遊戯のマネみたいな事をして遊んでいる。それに加わりそびれた感じで、私とかおるちゃんだけが残っていた。
かおるちゃんは結構マイペースな子だった。カンナの輪には加わらず、机でクレヨンを握って絵を描いている。しかも案外うまい。紫色の線で丘を描き、奥には淡い色の山、その上に水色と青のグラデーションの空。1番手前で今書き込んでいるのは紫の花だ。
「これは何?」
「お花」
「何て言う花?」
「わかんない」
会話のラリーが続かない。それでも、一応任されたのだからと会話の糸口を探していた時。
「わかんないけど、トイレと同じ匂いがする」
「ラベンダーか!」
紫色でトイレ。連想ゲームのように思いついた。でも、ラベンダー畑って、
「旅行で行ったの?」
「ううん、近くにあったの。引っ越す前」
そういえば重盛先生が言ってた「最近入所した」って、ラベンダーの名所といえば北海道とか長野だったっけ?聞いてみようかとも思ったが、相手は4歳児だ。「わかんない」と言うだろう。
「そうなんだ!ずいぶん遠くから引っ越ししたんだね」
「うん、ママとパパがりこんしたから」




