LOVE STORY 5
街は賑やかに腐食してゆく
歌う木々を壁から生やしてビルが歩く
身体のいたるところに眼球を移植した少年
牙を顔中に移植した少女
歯を見せてにっこりと
「21世紀は福祉と愛の時代です!」
白い手袋が演説している
誓いは投げ捨てられ街はどこまでも白くなってゆく
土曜の午後
彼女がやってくる
タクシーにのせられてやってくる
サングラスに隠された薄茶色の瞳
とろけてゆく全世界のなかで
彼女だけがリアル
病んだ空間がぽろぽろと血の塊を落とす
天空を切り裂いているのは青銅色のナイフ
オレンジ色の放浪惑星が空の三分の一を覆い
連れ合いをなくした龍が直線の虹をおったてている
かなたに赤潮の海そこに浮かぶ巨大な原潜
彼女はゆっくりと歩く
誰かの腕に支えられて
やるやかに波打つスカート
ぼやけてゆく風景のなかで
彼女だけがリアル
血のにおいがする
湿った木のにおいがする
なくなってしまった街をぼくは漂ってゆく
しょっぱい液体をこくこくと呑みこむ
折りまげた膝のあたりに悪意を感じる
わからなくなってゆく
ぼくは何もわからない存在になってゆく
見えないうねりがじわじわとぼくの背中を押す
彼女が何か言う
口紅をささないくちびるがゆがむ
その苦痛がぼくに伝わってくる
ヴァーチャルな世界さえ砕けてゆくのに
彼女だけがリアル
空間はみるみる縮んでゆく
白子の蛇が足と腕にからみついている
目を開けても閉ざしてもオレンジ色の光
脈動する大地に足をつけていられない
ついに放浪惑星が激突するのだ
ぬめぬめと肉色のそれが迫ってくる
安穏としたぼくの夢は
土曜の午後は
終わる
彼女が金切り声をあげる
小さな部屋に置き去りにされて
大きく広げた足
世界が壊れてしまった今
彼女だけがリアル
ぼくは彼女に愛を告げたいと思う
でもささやくと嘘になるので
ぼくは叫ぶ
血にまみれて




