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LOVE STORY  作者: 佐々宝砂
4/6

LOVE STORY 4

大気はかさかさにかわき凍りつき

透きとおる巨大な氷の柱がずくんと立ち

ネオンを反射している

そしてホログラフィーが踊りくるう街かどを支配するアナウンス

それはきみには聞こえない

きみには聞こえない

世界は突然にフリーズしてしまった


べろべろと剥がれてゆくすべての皮

ひび割れた道路からメタセコイアが生えてくる

街の下から街が隆起し

冷気をつんざいて金管楽器の音が響き

あかるい陽射しの下すべての墓は掘り返される

(ほらあそこで欠伸をしているのがきみのひいひいばあさんだよ)

おわりだおしまいだおしまいだおわりなんだよ

もう戦争は終わった

時間を切り売りして花を売らなくてもいい

もう生きていなくてもいい


街をあるく人影は激減してしまったね

北の海から吹いてくる風を受けとめて

ひとびとの全身の皮膚は潰瘍におかされてゆく

なにもかもが剥がれてゆく

爛れて敏感になった頬と頬をかさねて

あぶくたつ洗面器の汚物に口をつけて

服をみんな脱いでしまって

きみはかつてない幸福に酔っている


カーニヴァルの酒くさい大騒ぎを遠くに聞きながら

青いインクを飲み干そう

スプーンを投げよう

壁にプリンをぶつけよう

ベッドに腰かけて平和を歌おう

星はもう空にとどまっていられなくて

次々にこの砂浜におちてくる

空の皮だって剥がれてしまうのだ

さあ裸馬にのって凍結した海を走ってゆこう

夜もなければ昼もない

白黒まだらになって楽屋裏を露呈する空


きみの恋人の髪はみるみる真っ白に変わってゆく

赤剥けの肌に白髪とはできすぎだが

きみはただ決められた台詞を口にするしかない

それできみは恋人にお馴染みの言葉を囁く

それは嘘ではないきみの言葉はどんなにありふれていても嘘ではない

きみの言葉はぽろぽろとあたりにこぼれ深紅の薔薇と化し

凍りついた世界は馥郁たる香りにつつまれた

すると真っ黒な幕がおりてきて

氷の海も薔薇も街も墓地も白黒の空もみんな闇に紛れる

幕を下ろすのは私

きみは登場人物

だからこそ愛を全うする



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