7話 慣れない環境ってしんどいよね。
ガタンゴトンッ、ガタンゴトンッ、ガタンゴトンッ、ガタンゴトントンッ...
アカリがやってきたぞっ
という曲にはまっております。
少し歩いて、街の入り口であるでっかい門の前に着いた。
遠くにいてもでかい門だとは思ったが、近くに来るとより一層それを感じる。
すると、武装をした門番らしき人物が近づいてきた。
女騎士は俺に追い払う合図を出してきた。邪魔だからあっち行って感がもろに出ていたため、ムカッときたが、ここは頼ることしかできないので指示に従う。
数分間、女騎士と門番は笑顔で話していた。あの様子だと女騎士と門番は知り合いだったのだろう。時折、門番がこちらを見て、憐むような眼を向けてきたのだが、あれは何なのだろう。絶対なんか余計なこと言っただろ、あの女。
「ちょっと、そこの男!入るの許可してくれたからさっさと中に入るわよ!」
甲高い声でホマレを呼ぶ。
そういや、自己紹介してなかったなと思いつつ、小走りで門の方に向かう。門番とすれ違う時に、「がんばれよ...。」と、可哀そうな奴を見る目でそう言ってきたので、あの女がなんか言ったのは間違いないことが分かった。
「おいお前、あの門番に何言いやがった。」
ホマレは、睨みながら聞く。
「んー、あんたがモンスターに育てられた哀れな奴だって説明しただけよ。だから、天職もカードも何も知らないらしいってね。最初は信じてもらえなかったけど、あんたの間抜け面を見せたら最終的に納得してもらったわ。あんたの学のないアホ顔に感謝ね!プㇷ゚ッ!」
完全に俺をバカにしてるな。街には入れたのは良かったが、バカにされっぱなしというのはムカつく。いつか、しっかりと痛い目に合わせてやる。ていうか、門番も門番だろ。いくら何でもモンスターに育てられたのを信じるのはねぇ。この街の人間が心配になっちまう。
「さてと、街の中には入れたことだし、宿かなんか借りてその中で話するわよ!」
「え、いや、そこら辺の店で話すればいいだろ。」
女騎士は呆れた目でこちらを見る。
「だからあんたはバカなのよ...。今から私はあんたに込み入った話をしなければいけないのよ?しかも、私の身体のことをね。他の人には、なるべく...いえ、絶対に知られたくないのよ。それにあんたの話も他の人に聞かれたらまずいかもしれないわ。この世界では、情報って言うのはすごく大事なのよ。」
あー、確かにうかつにこいつの身体の話なんてできないか。納得だわ。それに、この世界では情報が重要って言うのもなんかいいな。俺もそのセリフ使いたいわ。でもさ...。
「の割には、俺にあっさりとお前の身体の秘密ばれたけどな。ガバガバじゃね?」
ガンッッッ!!!!!
ホマレは顎を殴られ、空高く宙に舞った。ついでに彼の意識も飛んでった。
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目が覚めるとベットの上だった。
「あ、目覚めたわね。遅いわ。」
顎がクッソ痛い。力強すぎだろ、この女。クリーンヒットだよ。てか、これ顎割れてないかな。ケツ顎とかになるのはマジ勘弁なんだけど。
「ちょ、俺、ケツ顎になってない?」
「なってないわ。というか、あなたの顔なんて元々ケツだわ。ケツの話なんてどうでもいいから、さっさと話を始めましょ。」
「いや誰の顔がケツじゃ。しっかりクールな爽やかハンサムを意識してるわ。まあ、いいや。話する前にまずは自己紹介だろ。俺ら、お互い名前すら知らないんだから。」
「ああ、そっか名前ね。そういえば言ってなかったわね。」
そう言って、彼女はコホンと咳払いをする。そして真っすぐこちらを見て口を開く。
「私の名前はリリエル家の元令嬢リリエル・リエーリ・リリエットよ!!みんなからは、リリィと呼ばれているわ!でも、あんたには特別にリリィ様と呼ばせてあげなくもないわ!」
ほえー。リリエル家と名乗るってことは、この世界の貴族とかなんかなのか。いや、でも元令嬢?てことは、今は違うってことか?ま、なんにしてもこいつを様付けなんてありえないな。絶対あり得ない。てか、名前に何個 り がついてるんだよ。親絶対 リ が何個つけれるか遊んでただろ。
「俺の名前は、姫宮穂希だ。よろしくな。リリリ。」
雑に返事をするホマレ。
「ちょっと!?何よ!リリリって!初めてそんなヘンテコな名前で呼ばれたわっ!その呼び方だけはやめて!一生のお願いよっ!」
雑なホマレに対して、リリィからはなかなかのリアクションで返事が返ってきた。若干、涙目になっているので、呼ばれたくないのは本気なんだろう。
「仕方ねーなー。リリィって呼ぶことにするよ。様はつけないけどな。」
「くっ...、仕方ないわね。リリリなんかで呼ばれたくないから我慢するわ...。」
かなり悔しそうにしている。いや、本気で様付けしろって言ってたのかよ。
「とりあえず、お互いの名前も分かったことだし、情報交換といこうぜ。まずは、リリィからはな...」
「嫌よ、あんたから話しなさい。」
いや、なんでお前はずっとツンツンしてんだよ。そろそろ治ってくれよ。まあ、話す順番なんて俺から出いいんだけどさ。そんな邪険にしなくて良くない?もうちょい、心開こうよ。
「わかったよ...!俺から話すよ。ただ、せっかく名前教えたんだから、名前で呼べよな。」
フンッと言いながらそっぽを向くリリィ。きっと名前で呼んでくれるだろう。たぶん。
そして、ホマレは一通りのことを話した。出身地などの基本的なこと。そして、神様と出会って異世界であるこの世界にきたこと。もし、理解できないとか言われて、部屋を出ていかれたらどうしようとか思ったが、彼女は黙ってホマレの言葉に耳を傾けていた。ただし、無表情なので何を考えているのかは分からない。もしかすると、自分の知っている情報と照らし合わせて、信用するにあたるものか吟味しているのかもしれない。
こうして、10分くらいホマレは喋り続けた。そして終えた。
ーー無言。場には何とも言えない雰囲気が流れている。ちょっと気まずい。
「ふぅ........。」
リリィが顔を上げて大きなため息を吐いた。
「理解...が、まだできてないわね。」
苦笑いでそう言われた。いや、そうだよな。俺だって日本にいた頃に異世界から来たなんて言われたら、理解ができないって思うはずだ。それどころか、引いて近づきすらしなかっただろう。それをリリィは真剣に聞いてくれたのだ。色々棘はあるが、案外良いやつなのかもしれない。
「でも、本当なんだ...!信じてくれ...!」
頭を下げて懇願する。
「別に嘘をついているとは思っていないわ。」
「え、そうなの?」
驚いて素っ頓狂な声で聞き返してしまうホマレ。
「ホントよ。ホマレ必死なんだもの。必死さが滲み出ているんですもの。それに、この世界は不思議なことなんて沢山起こるわ。理解はできていないけれど、それも不思議な事のうちの一例なんでしょう。」
うわ。うわうわうわ。こいつ、良い奴かよ。信じてもらえることがこんなに嬉しいもんだとは思っていなかった。それに、ちゃっかり名前で呼んでくれてるし。うわ。泣きそ。
喉の奥がちょっと熱くなって、目頭に水が溜まってきた。
「何泣きそうになってんのよ。気持ち悪い。」
今は罵倒すら心地良い。案外、見知らぬ土地に飛ばされて、衝撃的な展開ばっか起きていたから、心が参っていたのかもしれない。
「ありがとう...!」
つい、礼を言ってしまった。
「いや、本当に気持ち悪いから。」
真顔だった。