人間、訳の分からないものには抵抗があるものです。
やばいよー。近づいてるよー。なんか怒ってるしー。
いや当たり前か。自分の体斬られてるもんな。
優しさが海より深いホマレさんでも、それは怒るわ。
うん。とりあえず、謝ろう。
「あのぉ...さっきは突然あなた様の清く美しいお体を斬ってしまい、申し訳ありませんでしたぁ!決してワザとではなかったんですよ!ほんとです!信じてください!初めての剣でつい浮かれちゃって、振り回したら当たっちゃったんですよぉ!だから許してくださいぃ!」
鼻水と涙を同時に出して、必死さを出す。みっともないとは思うが、我ながら見事な言い訳だ。
主演男優賞とれるレベルの命乞いだと思う。
目の前の女騎士が若干引いているのは気にしないことにしよう。
女騎士はホマレの見事な命乞いを無視し、目の前に立つ。
「はぁ......。さっきまでどう痛めつけようかと考えてたけど、あんたのみっともない姿を見てたら、その気も失せたわ......。」
そう言って、首を振る女騎士。
とりあえずは、生き延びることができそうなので、命乞いは大成功だったと言えるだろう。
「とりあえず街に移動するわよ。街に近づいたら鎖捕縛も解いてあげるから、しばらくはその状態でいてちょうだい。また逃げられたらたまったもんじゃないわ!」
軽々と身動きの取れないホマレをを片手で担いで、歩き出す。
あれ?男の子なのに担がれちゃってる。なんかちょっと恥ずかしい。
「あの......」
「うっさい!あんたも言いたいことはあるんでしょうけど、私の方がもっとあるの。だから、まずは私の話を聞きなさい?いいわね?」
(何こいつ。あのしか言ってないんだから、うるさいとか言わなくてよくない?)
とは思いつつも、文句を言ったら殺されそうなので黙って頷く。
「とりあえず、1つ約束をしてちょうだい。街についても私の首が取れたとか騒がないこと。この約束ができないのなら、今ここであなたを斬って捨てることになるわ。」
声のトーンでこの言葉が本気であることを感じ取ったホマレは、ブンブンと首を縦に揺らす。
「そう...約束してくれてよかったわ。ところであなた、どうしてエリアスの木の近くにいたの?普通、この時期にあそこでゆっくりしている人なんていないと思うのだけれど...。街からも注意報が出てなかった?」
エリアスの木とは、さっきの大樹のことだろう。どう説明するか一瞬悩んだが、特に隠すこともないのでありのままを話すことにする。
「あー、実は俺、異世界から来た人間なんだ。さっき来たばかりでね。ちょっと自分の性能を試してたんだよ。」
ちょっとカッコつけて言った。
「あんた、相当頭イッてるわね。人の話も聞けないし、みっともないし...。ほんと変なのに絡んじゃったわ。無視して街に向かえばよかった。」
彼女は憐れむような眼をホマレに向けて、そう言い放った。
首取れる化け物にそんなこと言われたくないと言おうと思ったが、やっぱり殺されそうなので黙っておくことにした。
そんなこんな話しているうちに、街の近くまで来る。
「おいしょっと......。解除。よし、これであんたも一人で歩けるでしょう。くれぐれも騒がないでね?」
睨みつけながら念押ししてくる女騎士。ホマレは、分かってますと首を縦に振る。
「そういえば、あなたの天職は何?」
さも当然かのように聞いてくる女騎士。しかし、ホマレはそんなものは全く知らない。
「え?なにそれ?」
すると、いきなり振り返って、すごい剣幕でホマレ迫る。
「あんたさっきから私のことバカにしてんの!?天職よ!て・ん・しょ・く!持ってない訳がないでしょ!あんたに聞いても、らちが明かないからカード見せなさい!カード!」
ほんとに分からないので焦るホマレ。
「い、いや!ほんとに分からないんだ!!天職もカードも分からない!信じてくれ!」
あまりに必死だったため、嘘は言ってないと感じた女騎士は深いため息をする。
「こいつ...。どういうつもりなの...。外にいる人間がカードを持ってないとか...。ましてや、天職を知らないとか...。本当に異世界から来たって言うの...?いいえ、ありえないわ。もう意味わかんないから斬っちゃおうかしら...。」
そんな物騒すぎる独り言を目の前の女が呟く。
「い、いやいや!斬らないでくれよっ!頼む!この通りだっ!」
惜しげもなく日本古来の由緒正しき懇願法DOGEZAを披露する。
「ハァ...。いいわ。あんた、弱そうだし、無害でしょう。本当はカードがないと街の中には入れるはずがないんだけど、私が何とかするわ。もうさっさと街の中に行くわよ...。」
頭を抱えながらスタスタと歩き始める女騎士。ホマレはその後ろを慌てて追いかける。
あーー、やべーよ。異世界こえーヨ。日本じゃありえねーよ。いきなり死にかけるし。なんやねんあの女。顔がちょっと可愛いからって何でも許されると思うなよ!くそぅ!!
ほんのちょっぴり日本に帰りたいと思うホマレであった。