5話 周りを見ることの大切さを知りなさい。
神 異世界行ってら!('ω')ノ
ん?ああ....?
眩しいぞ....?
眠いからもうちょい寝たいんだけどな....。
いや、ちょっと待て...。なんか忘れてるな...。
なんだっけ...。いや、そうだ...そうだそうだそうだ!
「異世界!!!!」
そう叫んで起き上がったホマレ。
隣には、樹齢何年なのか見当もつかないほど大きな木が生えており、あたり一面は美しい草原が広がっていた。ちょっと先に行ったところには一本道がある。その道の先に、石の砦に囲われた街のようなものがあった。
日本では決して見ることのできない広大で美しいその風景に、異世界に来たのだという実感と、これから新しい人生が始まるのだというワクワクが、ホマレの胸を高鳴らせた。
(やばい!来ちゃったんだ。。。来ちゃったんだな、俺....!)
ここに来る前は両親のことが気がかりであったが、異世界に対する高揚感がそれを吹き飛ばし、今は子供のように燥ぎ回っていた。
ニヤニヤしながら、何しよっかなーと考えるホマレであったが、よく見ると自分の服装が変わってることに気づく。スウェットパンツにTシャツの部屋着姿だったのが、伸縮性のある動きやすそうな黒い長ズボンに、通気性のある白い長袖のTシャツ、黄色いラインが描かれているいい感じの青色のマント、そして、なんといっても腰にぶら下がっている銀色の剣。
(おおおおおおおっ!冒険者っぽい!)
さっそく剣を振り回したくなってしまったホマレは、魔王軍の手先の魔物に囲まれてしまったイメージをする。
絶体絶命のピンチ、頼れるのは己の身一つ。ホマレは目を瞑り、集中している感じを出す。ジリジリと敵は距離を詰め、チャンスだと思いホマレの背後を襲う。
「甘いっっっっ!!!!!!」
そんなカッコつけたセリフで、振り向きながら存在しない架空の敵に剣を振り下ろす。
ザクッッッ!!
決まった....!そう、俺はいつかこんな風にザクッと音をたてて、敵をバッタバッタと切り伏せていくんだよなぁ!
......ん?ザクッ......?
違和感を覚えて、下げていた顔をゆっくりと上げる。すると、頬に何かの液体がかかる。指で液体をふき取ってみると、怪我したときによく見る赤い液体だった。そう、血だ。
ホマレは頭を整理するためにしっかりと目の前の景色を確認してみる。
......白い鎧を着た女の人が立っている。ただし、首がない。うん。首がない。首があったであろう場所からは、血がドバドバと噴出してる。そして彼女の足元には、金髪ロングヘアの綺麗な蒼い瞳をした女の子の首が転がっていた。
手が震える。現実を理解できない。したくない。故意的ではないが、初めて人を殺してしまった。そういうことになるのだろう。切った感覚を思い出すと吐き気がする。
(やばいやばいやばいやばい!)
混乱しながらも、視野を広げてあたりを見渡す。幸い(?)にも、周りには誰もいなかった。
(どうする!?どうすればいい....!?と、とりあえず、死体を隠さなければならないな......。こんな状況を誰かに見られたらまずいことになる....。)
そう思って、なぜかしっかりと地に足を付けている女の死体を担ぎ、木の裏に隠れようとする。
「ちょっっとあんた。人の体を気安くをさわらないでくれない?」
バッと後ろを振り返る。人はいなかったはずだと自分に言い聞かせるが、冷汗は止まらない。
この時、ホマレは内心、終わったと思っていた。憧れの異世界生活もいきなり監獄スタート、もしくは死刑なのだと覚悟していた。だが、それだけのことをした自覚はある。どんな結末になろうとすべて受け入れよう。そう考えていた。
しかし、あたりをもう一度見渡しても誰もいない。
「ちょっとあんた、こっちよ。声のする方向も分からないの?耳大丈夫?」
声のする方向を見てみる。声の主は、女の生首だった。
「悪いけど、体の感覚が戻らないから、私の首と体をくっつけてもらえないかしら?
というか、切り飛ばしたのはあんたなんだからやるべきだわ。分かったらさっさとやって。
あと、私が喋ってるからといて騒がないでね?人に見つかると面倒なの。」
もう意味が分からなかった。生首が声を出しているんだもん。怖い。怖すぎる。ありえなくない?ありえないよね?ありえちゃダメだって!なんでとりあえず....
逃げます!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
日本でもしたことがないような全力ダッシュを異世界にきてかます。
「え、ちょ、まっ!この状態で置いてかないでよっ!色々まずいから!ほんとに!このまま街なんか行かれたらまずいのっ!このっ!動けっっ!体ッッッ!!!」
とりあえず、どうしよう。奥に見える街か?街に助けを求めるか?街なら兵士かなんかいるだろ。せやな。街しかない。ほんと、助けてください。僕を助けてくださいぃぃぃ!!
無暗に走っていたのを方向転換して、街に全力ダッシュする。
だが、後ろから鬼の形相で追いかけてくる存在がいた。
「ちょっと待ちなさいよおぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」
片手に自分の首を持たせ詰め寄ってくる。
「ひいぃぃぃぃぃ!!!勘弁して下さぁあぁぁぁい!!!」
なりふり構わず、ホマレは逃げる。
「アイツ、意外に足速いわねっ....!仕方ない......!」
白騎士の生首女は立ち止まり手を前に出す。
「鎖捕縛!!!!!!!」
女がそう言うと、いきなりホマレの周りに鎖が出現し、拘束した。
身動きの取れなくなった彼は、女の方に視線を向ける。生首を体に装着しながら、ゆっくりと近づいてくる。
あ、終わったな。
ホマレの素直な感想だった。