4話 異世界転移は突然に。
「よぉし!準備できたよ!ホマレ!」
神様がウインドウを弄り初めて1時間。ようやく準備ができたようだ。
「おう。お疲れ様。てか、お前へっぽこ神かと思ったら、意外としっかり仕事こなす系の神だったのな。今までの姿ととさっきの仕事してる姿とのギャップがすごかったぜ。」
これは、素直な賞賛であった。仕事をし始めた途端、まったくの別人になったと言ってもいいほどテキパキと働き始め、誰かへの連絡やら、山積みの書類にサインを書いたりだとか、とにかく忙しそうだった。これを見たホマレは、感心はしたが、やっぱ社会人になんてなるもんじゃねーなとしっかりとクズ思考を働かせていた。
「まぁねん!伊達に神様やってないから!そこらへんのニートとはわけが違うのよ!」
そんなことを言いながら、ない胸を反らして、ドヤ顔を決めてくる。
腹立つなぁとは思いつつも、働くことに関しては分が悪いと感じたホマレは、さっさと違う話題に移ろうとする。
「で、俺はいつこの世界からおさらばするのよ?」
素直な疑問だった。できれば、出発する前にいろいろと準備もしたいし、何より今まで自分を育ててきてくれた両親に対して挨拶をして、最後に自分のなけなしの金を使ってプレゼントをしたかった。もし、お金が足りなかったら、日雇いでもして稼ごうと、そこまで考えていた。姫宮穂希は、クソニートではあるが、感謝している人にはちゃんと恩返しをしたいと思える人間だった。
そんな意外といい事を考えているホマレではあったが、神様は神様だった。
「え?今だけど?」
二人の間に、しばしの沈黙が流れる。そして、見たこともない魔法陣のようなものがホマレの足に現れた。おそらくは、これが異世界に転移させるものなのだろう。異世界系ラノベをばっこり見ているホマレは、一瞬にして理解ができた。
「おっっっっっ前はバアァァァァァァァァカかあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
隣の住民への配慮など全く考えず、ただただ叫んだ。
慌てて魔法陣の外側に逃げようとするが、魔法陣の外側からうっすらと光の壁が上に伸びており、それに阻まれて逃れることができなかった。
確かに、異世界に行く期間を設定しなかった俺も悪かったかもしれない。
でもさ、ちょっとくらい期間設けてくれても良くない?こちとら異世界転移初ですよ?
これがほんとの心が叫びたがってるんだ、てやつだな。はぁ...。
「いやいや、待ってよホマレ君。君、異世界行く気満々だったじゃないか!そしたら、私としても異世界に早く行かせたくなっちゃうじゃん?そう!これは、善意だよ!ぜ・ん・い!!」
この期に及んで、このバカ神は全く謝ろうという気がない。
「うるせぇ!アホ神!いいからさっさと止めろ!!」
神様は一瞬下に目を反らし、鼻で笑ったあとホマレを見る。
「無理っす!!」
それはそれは太陽にも負けない良い笑顔で、どっかのイケメン主人公のごとく爽やかに言い放った。
「ふざけんなよ!バカッ...!」
どうにかこじ開けようと、光の壁を光の壁を殴ろうとした瞬間......
手が消えた。
正確に言うならば、手や足が光の粒子となって、徐々に穂希の体を飲み込んでいくのであった。
「嘘だろ、おい...!もう行っちまうのかよ...!」
親友と呼べるような友人はいない、恋人もいない、勝ち組とは言えない人生だった。そんな人生でも、楽しいと思えたり、嬉しいと呼べる出来事はあった。それがあったのは、全部両親のおかげだと思っている。どんな時でも俺を支えてくれた両親のおかげだと思っている。そんな両親に一つも恩返しができないのは、心残りどころではない。もっと親孝行しておけばよかったと、後悔の渦が心をめちゃくちゃにする。
そして、穂希の目の前の少女姿の神様は、両手を上げ、高らかに宣言する。
「姫宮穂希!君は今、異世界へと旅立つ!その魂は宇宙を超え、時空を超え、そして理を超える!!新たな世界へとおり立ったならば、その命、存分に燃やし尽くすがいい!!!」
光の粒子は渦巻き、だんだんと加速していき、ホマレを包む。
「最後に、ホマレ君!君には、言語理解能力やいろいろなものをプレゼントしておいたよ!君とのお喋りは楽しかったからね!サービスだ!
それと......
君の両親のことは心配しなくていいよ。神の御加護で健康にも、お金にも困らない順風満帆な人生を送らせると約束しよう。どうだい?これで、心残りもこれでなくなったろ?」
そう言って、神様は可愛くウインクをしてみせた。
ホマレは、薄れゆく意識の中で、心で思ってること筒抜けだったのかよと文句を言いつつも、神様の言葉に安堵した。根拠はないが、嘘ではないことを確信できた。
(あぁ...これで思い残すことはない...
ん?待て。そいや、こないだ借りたDVD返したっけ...
レンタル期間今日までだった気がするような...ないような...)
プツンッッ!!!
ホマレの意識はここで完全に消えた。
こうして、彼の日本での生活は終わりを告げる。
そして、姫宮穂希は異世界に住まうことになる。