010 お引越し先
俺こと、山田健太は月野姫が宇宙人で、地球を滅亡させる力を持っていることをいいことに、様々な要求を日本政府につきつけた。二人分の高校の学費の無償化とか、千葉にあるけど東京ペケペケランドと呼ばれている施設のペアチケットとか。
えっ。それもOKなの。すごすぎる。まるで夢のようだ。こうなったら10億円の宝くじのあたり券とか!しかし、全てネット配信されていると考えるとさすがに気が引けた。まあ、いいや。俺、今、チョー幸せだし。
「姫、次、何を頼んでおく?」
「私、別になんにもいらないよ。健太が側にいてくれるだけでいいもの」
出っでたー。究極の回答!そうだよね。そうなんだよね。そんなかわいい目で見詰められたら、俺だって何にもいらない。うん。おしまいにしよう。俺は自衛隊のテントに向かって満足そうに叫んでから、頭を深々と下げた。
「もう、十分です!ありがとうございます」
すると電光掲示板に文字が映った。
『こちらの頼みも聴いていただけますか』
俺は頭の上に手をあげて両手で大きく丸を作った。
『グラウンドの上のUFOをどけていただけませんか』
「姫のUFOが邪魔らしい。学校が日陰になっちゃうしね」
「あれ、私の家なの」
くー。困った顔もかわいい。何とかせねば。
「あれ、月とかに置いておける?」
「はい、問題ありません」
俺は自衛隊のテントに向かって大声で叫んだ。
「わかりました。どけられるそうです。代わりに彼女が住むところをください。できらた僕の家と同じマンションがいいんですがー」
しばらくテントの周りがバタついていた。
『OKです。最上階に空き室があるので政府が借り受けます』
「私、うれしいです。一緒に登校できるね!健太って本当に頼りになる」
うぉっ!なんだそのキラキラした瞳は。眩しすぎる。聞いたか、みんな。頼りになるだって!ぼっちの俺がだぜ。うーっ。泣いちゃいそうだ。
「はい。じぁあ。お家を月に送ります」
シュッ。
何の前触れも、振動も、音もなくUFOは一瞬にして雲を突き抜けて、大空の彼方に消えた。
ウォー!
自衛隊のテントからも、俺たちを見守る生徒たちからもどよめきがわき起こった。俺たち二人はグラウンドの真ん中にポツンと取り残される形になった。
「なんか、あれが無くなると急に恥ずかしくなってきた」
「うん」
恥ずかしがる顔もチョーかわいいー。全部かわいいじゃないか、月野姫。おまえは天使か。いや、天女か。こうして彼女の引っ越し先が決まった。




