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001 初登校

 俺にも高2の春が来た。残酷なことに季節は誰にでも、平等にやってくる。今日から新学年だ。入学したてで、オドオドしていた高1と違って余裕もある。高3みたいに受験を意識するのもまだはやい。高2と言えば青春真っ盛り。春は出会いと恋の季節。なんてね。


 学校へと続く歩道わきに植えられた桜は満開だった。桜の薄桃色の花びらが舞っている。その下を俺はぼっちで、一人、登校していた。前を歩く男女二人組の生徒がうざい。ってか、うらやましい。桜の下の二人。絵にかいたような空間は俺を否定していた。


ちっ。イチャイチャすんなよ。


俺はこのいたたまれない状況から脱出するために、足を速めた。二人の間をすり抜ける覚悟で向かう。


えっ。手ーつなぐんかい!追い越せないだろ。


 途端に足が鈍る。登校1日目にして早くもくじけそうだ。ついていない。だれって。あっ。俺のことか。紹介が遅れてしまった。俺の名前は山田健太やまだ けんた。埼玉の半端者が集まる私立松原高校2年。自分で言うのもなんだが、凡人が制服を着て歩いているような存在だ。学校でも家でも、ほぼ、ぼっち。取り立てて主人公と言えるような特徴も特技もない。


 断言しよう!俺は私立松原高校、全校生徒の9割を占める『その他お大勢』にカテゴリーされる、さえない人生を生きる真面目な青年なのだ。もちろん、生まれてから一度も彼女なんていたことない。まあ、周りだってそんなもんだ。あせることはない。


俺は前を向いて二人の後ろを歩くしかなかった。


てっ。肩寄せるんかい!うざい。うざすぎてうらやましい。


俺は歩道にできた隙間、30センチにかけることにした。行くぞ俺、今度こそ追い越すチャンスだ。俺は再び足を速めて二人を追い越した。


「あれ、健太じゃんかよ!」


後ろのデレデレカップルから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 振り向くと私立松原高校の御三家イケメンがいた。全校生徒の1割、さらにその中で、学校カーストの上位グループに所属する山下陽やました ようだ。


 女の子ならみんな喜ぶので紹介しよう。山下陽、高校2年。顔はアイドル並みのイケメン。身長178cmプラス細マッチョ。特技は勉強全般にスポーツ全般。一言で言うと最強スペックの無敵美少年だ。


 が、俺は喜べない。この山下陽は俺の幼なじみだ。保育園から小中学校、高校とつながる俺の黒歴史の元凶と言っても過言でない。住んでいるマンションも同じ。ただ、やつの家族が30階。俺の家族が3階に暮らしている。こやつと比較されてきたことで俺の人生はみじめなものとなったのだ。


おっ。よりによって、おまえだったのか。


「陽君でしたか。おはようございます」


なっ。なんで敬語かって。俺はやつが大嫌いだったが、ここで敵を作るつもりはなかった。


「今、急いでますので。お先に行かせていただきます」


俺は前を向いて足早に歩き出す。


この前見た彼女とちがうじゃんか。とっかえひっかえうらやましいじゃねーかよ。俺にとって桜などと言うものは、もはやどうでも良かった。


はやく散れ。いまいましい。


こうして、俺の今年1年を占う初登校日の朝は「大凶」と出た。

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