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第8話『二度めのレイナ先生の御教授』

廊下で暫く雑談した後、マリンが自分の部屋に戻っていった。そのタイミングより少し遅れて、ヒロトとレイナは、レイナの部屋へ向かっていた。


二人してまた歩き出す。今まであまり気付かなかったが、レイナがマリンの部屋のドアを閉めた瞬間に広がった髪からは、なんだかとても良い匂いがした。落ち着くというのか、懐かしいというか。


「レイナー」


「なんだ?」


まだちょっと怒ったような声。そろそろ許してくださいお願いします。


「図書館みたいなところはないのか?なんか魔法とかについて詳しく知りたいなぁと思ってな。魔法について書いてある本とか無いのか?」


魔法が廃れたとは言え、存在するならば是非使いこなしてみたいものである。と、ヒロトはそう言った思いから、レイナに聞いてみた。


図書館があれば、魔法について書いてある本も沢山あるだろう。いくら今は廃れたとは言え、昔は繁栄していただろうから、有益な情報の載った本もあるはずだ。


「トショカン……?はちょっとわからないが書庫ならあるぞ。後で案内してやろう。魔法についての書なら私の部屋にも多くある」


「そっか、それは助かる」


レイナの部屋にあるなら本を見ながらレイナに聞くことも出来るし、むしろありがたい。


「まぁ現実的に考えたら剣術習った方がこの世界では現実的だぞ。魔法剣士という道もあるし」


何それカッコいい。確かに剣術使える方が何かと便利だとは思う。


「それ、レイナが教えてくれたりする?」


少し期待を込めて言ってみる。言うだけタダという言葉は的を射ている、となんかそれっぽいことを考えてしまった。


「ん?私で良いのか?」


「むしろレイナが良い」


キッパリと言い切った大胆なセリフに、少しレイナが狼狽えた様子を見せた。


「そ、そうか。別に構わんぞ」


「マジ?じゃあ剣術も頑張るわ」


「お、おう。分かった。じゃあ明日の朝から頑張ろうか」


「おう」


その答えを聞けて、ヒロトは満足気に歩を進める。

その後しばらく歩くと、レイナが一つの部屋の前で足を止め、ドアに手をかけた。


「入ってくれ。何もない部屋だけどな」


ガラッとレイナがドアを開けるとそこに広がっていたのは。


「本当に何もないな」


そんな感想をつい零してしまう程度には何もなかった。正方形の畳の部屋はかなり広いが、あるのはテーブルと椅子、ベッド、木の棚。そしてかなりの存在感を示す大きな本棚。


元いた世界では漫画とライトノベルを大量に読み漁っていたことから文学少年(笑)と言う不名誉なあだ名をつけられていたヒロトは、その本棚の蔵書量には圧倒されたものの、女性の部屋にしては余りにも物が無い。


「………そんな正直に…。いや、正直なのは良いこと…だよな…うん…」


何かブツブツ言っているレイナはスルーして、とりあえず本を一冊抜き出してみる。

見れば一発で年季物と分かるほどに古めかしい本だったが、実際に中を開いてみると、字は問題なく読むことが出来る。


もう少し読み進めようとすると、レイナがパチンっと指を鳴らした。暫くするとだんだんと明かりが暗くなっていく。何それカッコいい。

周りが一応見えるくらいの暗さになった所で明るさの変化が止まる。


「今日はもう遅いから寝ろ。なに、本なら明日読めばいいさ」


読みかけた本を本棚に片付け、レイナに促されるがままにベッドに寝転がる。その隣にレイナが横になった。


ヒロトは気恥ずかしくてそっぽを向いたが、レイナは全く気にしていないように見受けられる。


「今日は常識のないヒロトのために私が色々と手ほどきしてやろう。何か聞きたいこ……、どうしたヒロト、耳真っ赤だぞ?」


「な、何もない、続けてくれ」


「そうか。では、何か聞きたいことはあるか?」


聞きたいこと、か。レイナがこの世界のことを能動的に話してくれるのかと思っていたヒロトだったが、違ったらしい。

だがよく考えると、ヒロトが何が分かっていないのかがレイナには分かっていないだろうから当然といえば当然の選択肢である。


「じゃあ、まず一つ。この世界でレイナの目的は何なんだ?剣術を磨いているという観点から何かと戦っている、もしくはこれから戦うっていう認識で良いんだよな?」


「あぁ、その認識で構わんぞ。目的……か。まぁ当面はそこまでハッキリとしたものはないが、この地を立派に治める事だろうな」


なんか思っていたより規模が小さい。いや、そんなことを言ってはいけないのは分かっているが、どこかの国と戦争中、とかそういうのを想像していたヒロトにしては少し拍子抜けである。


「対立しているところとかないのか?」


本当にそれだけなら態々剣術を練習したりしないだろう。いや、勿論趣味ということもある。元の世界でも剣道などを嗜む人はいたし、可能性がない訳ではない。

ただ、レイナの先程の剣捌きを見るに、その線はかなり薄そうだとヒロトは感じていた。明らかに実践慣れしている。


「それは勿論ある。どこの国ともうまくやっていこうなんざ無理な話だからな。バリアス王国とヴァレンハート帝国はとても仲が悪く対立関係にあることで有名だし、我らがフェリシア公国も同盟国は一つも無いからな」


やはり対立している国は存在するのか。

というか国の名はフェリシア公国と言うのを今初めて知った。

だがこの国を愛していそうなレイナの前でこの国の名前さえ知らない、と声に出して言うのは憚られたため、口にはしなかった。

その代わりと言ってはなんだが、ヒロトは別の質問を口にした。


「同盟国無し?その分部隊が揃ってるとかなのか?」


「いや、私たちは唯一軍隊を持たない国だ」


そう言ったレイナの声はどこか自慢げである。

だが軍隊を持たなければ他の国に攻められたりはしないのだろうか、という疑問が当然浮かんでくる。


「じゃあどうやって国を守ってるんだ?」


ヒロトがそう聞くと、トンという音がした。恐らくレイナが自らの胸を叩いた音。


「私達が守っている。基本的にこの国の戦闘要員は私とマリン以外はほんの数人しか居ない」


この国の防衛形態には驚いたが、マリンも戦闘要員だったということにも驚いた。闘えるようには全くもって見えなかったが、サポート要因とかだろうか。


「それでよく他国から攻撃されないな。俺が悪の帝王ならならそんな国真っ先に乗っ取りに行くぞ」


ヒロトがそう思うのも無理はない。ただ、そこには複雑な事情があるようで、レイナが詳しく説明してくれる。


「フェリシア公国に侵入するには、地形上フェリシア公国の北にある中立国、ゴルディア帝国を通らなければならないんだ。我が国はとても高い山々に囲まれているからな。侵入経路は北しかない。だがゴルディアはかなりの精鋭揃い。そう易々とは侵入させてくれないだろう。だから我が国が侵入されることはほぼない」


そう言ったレイナは手元の灯篭を灯し、ほんわかとした灯が辺りを照らし出したのを確認する。

そして枕元に備え付けられた小棚からペンと紙を取り出し、ベッドの上で何やらペンを走らせ始めた。


よく見ると、それは地図のようだった。何かを見て描いていた訳ではないが、即興で描かれたそれは実に完成度が高く、とても見やすいものだった。


指を指してここが何と言う場所で、ここに山があり、とレイナが詳しく説明してくれたお陰で、何となくではあるものの、ヒロトはこの国の地形を掴めた気がした。


だがこれではほとんどの国が攻めて来られないことは証明出来たものの、この国が平和であるという証明はまだ出来て居ない。何故なら。


「ゴルディアが攻めてくる可能性はないのか?中立国とは言っても自分の国が何処かに攻め入ることはあるだろ?」


当然この疑問が出てくるだろう。ただ、それはレイナも想定済みだった様で


「いや、それはない」


と即座に切り捨てた。


「ゴルディアの皇帝は今、ユファイスという人物が務めている。ユファイスはとても信頼の置ける人物で、私も親交がある。勿論ゴルディアが我がフェリシア公国に攻め入る可能性が無いとは言えんが、その可能性は皇帝が変わらない限りはほぼ0に近い」


なるほど。気心の知れた関係性ということか。それなら攻めてこないと高を括るのにも頷ける。

ここでヒロトは少し話の転換を試みる。今までの話の中で気になったことだ。


「フェリシア公国は具体的にどこと敵対してるんだ?」


「そうだな……、真正面から敵対してる国は特に無いが、ヴァレンハート帝国とは敵対関係にあると言っても良いだろう。彼らは人を人と思っていないフシがあるからな。その考え方に合わない我々と対立するって事だ。露骨に国に攻撃して来ることは今まで無かったが、国を出たら攻撃して来る可能性は充分にある」


「こわ。なのに軍隊は無いのか?」


「ない。それが我々の在り方のアピールになるからな」


成る程、分からん。

だがそこをあまり掘り下げても結局分からなさそうなので、少し違う系統の質問をする事にした。


この世界に来てからずっと気になっていたことだ。是非聞いておきたかった。


「じゃあ次の質問いいか?」


「どうぞ」


「魔術師とか魔法だけを操る人ってのは一人も居ない訳ではないんだよな?」


そう、魔術師の存在だ。魔法は廃れたとは聞いているものの、レイナの話ぶりから一人も居ないとは考え辛い。むしろごくたまにいると言っていた分、何人かは居ると判断するべきだろう。


「ああ、勿論一人も居ないなんてことはない。一番有名なのはヴァレンハートの天才魔導師、ルナティアだろうな。別名、紅の魔女」


「紅の魔女……」


カッケェ、と思わずヒロトの口からこぼれ出た。この世界で活躍すれば、自分にも二つ名がつくようになるのだろうかと思いをはせる。


「他には?」


「あとはバリアスのライとゴルディアのレックス。この三人が世界三大魔導師と呼ばれている。もっともレックスは戦場にはほとんど姿を現さないらしいが。実力だけならナンバーワンと謳われるやつなんだがな」


「ライ……、レックス……」


つまり、この二人がライバルになる訳だ。

いつか超えてやろうなんてヒロトがそんな決意をしていると、あ!というレイナの声が聞こえた。


「ライの戦いなら見たことあるぞ。バリアスとヴァレンハートの戦でな」


「マジ?どんなだった?」


ヒロトの口調が俄然前のめりになる。レイナもその話をするのは乗り気なようでテンション高めで話し出した。


「ライは雷属性使いの少年だったな。遠距離からでもバンバン魔法を撃ってくる」


それで?と話の続きをヒロトが促す。


「魔導師の戦いを生で見たのはあの時が初めてだったからな。かなり新鮮だったぞ。まぁその戦いは最初はバリアス優勢ではあったがライがオド不足に陥ったのか、段々と魔法が少なくなってからはヴァレンハートの優勢になったな」


「へぇ、なんかすげぇな」


「だがルナティアの戦いぶりに比べたらあんなのはまだまだだろうな。と言ってもルナティアが戦っている姿を生で見たことはないが」


そうなってくると俄然ルナティアという魔導師に興味が湧いてくる。どんな姿をしているのだろう、とか。どんな魔法を使うのだろう、とか。

興味は尽きないが、見たことないと言っている時点でレイナは知らないだろうから、そこを聞くことはしない。


「世界三大魔導師か。俺も言われたいな、なんつって」


「いや、なれるさ。だってこの世界には魔導師はその三人しか居ないからな」


「え」


まさかの事実。確かに魔法は廃れたと聞いていたが、まさかここまでとは。

余りの少なさに愕然とするヒロト。その後にさらに驚きの事実を伝えられた。


「あ、そういや二週間後に水の国ウォルタスに出発するからな。それまでに魔法を物にしろよ。剣術も二週間もあれば様になるから」


「え、何それ、聞いてないんだけど」


「……」


あれ、返事が返ってこないぞ?おかしいなぁ……。


「おーい、レイナ?」


「……」


どうやら寝たらしい。

仕方がないので、ヒロトも寝ることにした。


一度チラッとレイナを見てみると、レイナはヒロトの方を向いたまま寝ていた。だが、向き合ったら眠れる気がしないので反対側を向く。


疲れているからすぐに眠れるはずだ。どこでも眠れるのがヒロトの持ち味でもある。

暫く目を瞑っていると、段々と眠気が襲ってきた。そしてそのままいつの間にか眠りに落ちていた。

少し不適当な表現かな?と筆者的に思った箇所があったので、それと共に少し修正、加筆させていただきました。本文の内容自体は変わってないです(´∀`)

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