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第4話『ブサ可愛い?キモ可愛い?』

そこからは沈黙が続いた。

ただひたすらに、機械的に歩みを進める。


おそらく、今日は距離にして五十キロは歩いただろう。もう足は怠いし腹は減ったし、今すぐにでも倒れそうだ。

無意識的に歩みが遅くなってきたヒロトを気遣ってか、レイナが殊更明るい声をかける。


「さ、もう直ぐ街に着くぞー!街に着いたら竜車で移動するからな、もうちょいだ!」


「もうちょいってどれくらいよ。何センチくらい?」


「ザッと三十万センチってところか」


おっと、まさかの真面目な回答が返ってきた。


「……なんか自分で言っといて申し訳ないんだけど」


「うん?」


眉毛を上げてヒロトの言葉を促すレイナ。

そんなレイナに申し訳なさそうにヒロトは言った。


「ものっそい分かり辛い」


「本当に申し訳ないな⁉︎」


一応ツッコミ待ちだったりしたんですよね、はい。普通そこ真面目に答えますかね……。

高校の友達でさえ、もうちょいちゃんと突っ込んでくれたよ?「は?何でセンチ?え、ボケだったの?はは、つまんな」くらいシンプルなツッコミを……。うわぁ、シンプルだなぁ……あははは。うっ、頭が……。


そんな嫌な過去を振り払うようにヒロトは頭を小さく振ってから、レイナに確認する。


「で、何メートル?」


「それくらい自分で計算できるだろ……。三千メートルだ。つまり三キロだな」


もちろんそんな計算が出来ないほどアホではない。少しの確認である。いや、ほんとだから。


センチの時点で薄々気付いてはいたが、この世界でも長さの単位はメートルであるらしい。俺以外の前の世界の先人がこの世界の単位を決めたのだろうか。

もしそうなら現代から異世界に召喚されたのは俺だけではない、と言うことが証明されたも同然である。

俺以外にこの世界に転移された人が居ると言うのなら、是非会ってみたい。


「とは言え何もなくて良かったな、ヒロト」


ポツリと、しかしそれはあることにおいては決定的な役割を持っていた。


「おい、何フラグ立ててんの?絶対この後襲われるよ?もう俺確信したわ」


「弱気になるなヒロト。そんな物語のような展開は……」


「おい、そこのお二人さん。こんな時間に駆け落ちでもしたかい?」


ほら、言わんこっちゃない。

二人に声をかけてきたのはがっしりとした体型に、斧を持った髭面の男。更に後ろから似たような面立ちの男がゾロゾロと出てきた。


全員で五人。盗賊とかだろうか。見た目的にはどちらか言うと山賊感がすごい。


「レイナ、一応聞くけど……。知り合い?」


一縷の望み……ってほど望みがある訳じゃないけど、だったら良いなぁ、くらいの軽い気持ちで尋ねてみる。


だが、予想通りというか、想定内というか、レイナは呆れたように首を振った。


「そんな訳ないだろう。あんなゴツい知り合いはいないぞ」


「だよね」


二人でこそこそと話していると、山賊っぽい盗賊……かもよく分からないおじさんが話を遮るようにヒロト達に声をかける。


「悪いが金目の物は置いていきな。そしたら見逃してやるよ」


そう言ってその髭面の男がニヤリと笑う。


「なんかものっそいテンプレの賊だなこれ。レイナ、お前って流石に女一人対男五人で勝てるスペック持ち合わせてたりしないよな?」


「一対五じゃなくて二対五だろ?」


当然のような顔をしてそう言うレイナ。


「もしかしてその戦力に俺も含まれてる?やめとけって、俺本当に無力だから。できて囮役ぐらいだから。むしろ足引っ張るから」


「大丈夫。お前は魔法で援護してくれ。私も微力ながら援護させてもらおう」


「は?いやいや、魔法とか使えないから。何言ってんの?生まれてこの方使ったことも見たことも無いんだけど」


「おい、聞いてんのか!」


斧を持ったおじさんの怒鳴り声が聞こえた。

ヤベェ、怒られちったよ。


でもおじさんっていう表現をしたらなんか可愛く思えてきた。ゆるキャラ的な。あんまりゆるくないけど。

盗賊のとうぞっくんとかどう?ほら、可愛くない?


ちょっと会話を試みる事にした。


「おじさんいくつ?」


「おじさんじゃない。まだお兄さんだ」


まさかの律儀な回答が返ってきた。


「あの人意外と良い人なんじゃない?」


「奇遇だな。私も今そう思った」


二人して同じ意見が出たところでもう一度おじさんを二人同時に見る。


「ブサ可愛い、とかキモ可愛いみたいな見た目じゃね?どちらか言うとキモ可愛い寄り?」


「すまん、何だそのブサ何ちゃらとやらは」


「ブサ何ちゃらじゃない。ブサ可愛いだ。ブサイクだけどそこが可愛いみたいな。キモ可愛いも同じだな。今時の若人のトレンドだぞ」


「……私には分からない感覚だな」


そりゃ貴方が可愛いすぎるからでは?鏡見るだけでそこに天使が映ってたら俺だってそんな感覚分からないと思う。


「レイナだししゃーねぇよ」


「私は若人ではないと言いたいのか?」

唇を尖らせてムッとした表情のレイナ(可愛い)。


「ちげぇよ。レイナが可愛いすぎるって事だろ」


「なっ…⁉︎な、何を言ってるんだお前は!」


え?今俺変なこと言っ……たな。うん。なんかすごいチャラい男みたいな発言してましたね。

これは訂正しなきゃ……。


「いや、違うよ?ブサ可愛すぎる……みたいな?」


あ、これはミスったパターン……。


「私ブサイクなのか……。いや、美的感覚は主観的な問題だから仕方ないよな。私だって別に可愛いって言ってもらいたい訳じゃないし……。自分でも別に思ってないし……」


人差し指を突き合わせてボソボソと話すレイナ(可愛い)。


完全にフォローの方向間違えた。むしろフォローが裏目に出た。


「いや、違うから!可愛い、超可愛い!」


「そ、そうか。あ……ありがと。じゃなくて!お前は私を掌で遊んでるのか!」


いや、そういう訳では無くてですね……。

なんて言えば伝わるかな……。


「いつまでイチャイチャしてんだ!こっちは待ちくたびれてんだ!」


ヒロトが言い訳を考えていると、二人の前からとうぞっくんの怒号が飛んできた。

「おい、待ってくれていたらしいぞ」


「やっぱあの人良い人じゃね?さらにキモ可愛く見えてきた。いや、ブサ可愛いかも」


「だからその感覚は分からないって……」


「じゃあどちらか言うと?ブサ可愛い?キモ可愛い?」


「いや、分からないって……」


呆れ顔のレイナ。

そして嘆息してからまぁ強いて言うなら、と告げた後、一間空けて言った。


「ブサキモい」


それただの悪口。


「おじさんブサキモいって」


「お兄さんだ!てか、さっきから黙って聞いていればぬけぬけと!もう良いわ!かかってこい!」


聞いてたのかよ。聞いてて黙ってるとか中々器デカイな。やっぱ良い人なんじゃね?

と言うより、今のおじさんの口ぶりだとまるで悪者はこちらである。


どうするんだ?と言う風にレイナをチラッと見ると、何を勘違いしたのかレイナは頷いてニコリと笑った。


「頼んだぞ」


言うが早いかそれをきりにレイナは敵へ斬りかかった。


「……いや、何を?」

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