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第3話「レイナ式魔法理論」

「なぁ、この世界に魔法ってあるのか?」


未だ手は繋いだままで、レイナの家へ向かって広大な草原を歩いている。果てしなく続きそうな道を歩いていると疲労しか感じられないので、息抜きがてらヒロトはそんなことを尋ねた。


異世界のお約束である魔法。これが存在するならば是非見てみたい。


「魔法?あぁ、魔法な」


少し鈍い反応のレイナ。なんか久しく聞いていなかったかのような反応である。


「まぁ、ない事はないが……。というかそれはヒロトの方が詳しいんじゃないかと思うが」


「え、なんで?」


「黒髪黒瞳なんて魔法種族の典型的な特徴だろ?」


「そうなのか?」


なんだその世界、聞いたこともない。黒髪黒瞳が魔法種族の特徴?と言うことはもしかしたらヒロトも魔法が使えるのだろうか。もし使えるなら是非とも使ってみたいし、自由自在に操れたらこの世界で無双することも可能ではないだろうか。


だが、そんな夢は見事なまでにレイナの言葉によって否定される。


「まぁ魔法は今となってはただの時代遅れの非効率的ポンコツウェポンと馬鹿にされる事が多いがな」


「は?なんで?」


魔法と言えば最強。そんなイメージがあるヒロトには少し受け入れ難い事実であった。魔法が時代遅れ?そんな世界本当に存在するのだろうか?


「さっきから質問が多いな…。まぁいい。一つ一つ説明してやろう」


一拍置いて、レイナは話し始めた。


「魔法は大きく分けて神魔法と天魔法の二種類がある。神魔法は神が与えし力であり、体内のオドを使って発動する。主に攻撃魔法だな。それに対して天魔法は天から授かりし賜物で空気中のマナを変化させて発動させる。主に変化魔法だな」


「ちょっとストップ。神が与えし力と天から授かりし賜物ってどう違うんだ?」


ついていけなくなって、思わず話を止める。神も天も似たような存在に感じられるし、違いが全然分からない。


ヒロトがそう言うと、レイナはうーんと少し考える仕草を取ってから、丁寧に説明してくれる。


「神が与えし力というのは、言わば魔法を使う本人に神から力が与えられたという考え方だな。発動する時にのみ力が与えられる。逆に天から授かりし賜物というのはこの世界が生まれた頃から存在している物だ。天がこの世界を形成した時には大気中にはマナがあるという考え方。神魔法と違うのは常に大気中にあるから発動しない時にもそこら中に魔力が浮いているということだ」


「マナって空気みたいなもんか?」


「まぁ、間違ってはいない。見え方で言うと神魔法は発動させている本人から魔力が開放されているように見える。それとは対照的に天魔法は発動している箇所にのみ魔力が開放されているというイメージだ。見せるのが早いのだがあいにく私には魔法の才はほとんど無くてな。実演させるのが難しいのだ。すまないな」


「つまり神魔法は魔法を使ってるやつからビビーーッとビームが出る感じで天魔法は魔法が発動してるとこだけキラキラっと光る感じか」


ヒロトがそう言うと、レイナはうむ、と頷いた。


「そのイメージで問題ない」


「オッケー。天魔法の方がいっぱい使えるっていう認識で良いか?」


「空気中の魔力を使えるのだから天魔法の方が複数回使えると言うことになるな」


満足げに頷くレイナ。


「そして、神魔法には四種類の属性がある。炎属性、氷属性、雷属性、風属性。それぞれに特徴があるのだがその説明は今は省略する。天魔法は二属性。光属性と闇属性だ。光属性は回復魔法と障壁魔法など、闇属性は状態異常攻撃魔法やアンデッドに関する魔法が主だ」


「成る程な。じゃあ今使われている魔法は?まさか一個もないってことはないだろ?」


ヒロトが聞くと、レイナは顎に手を当てふむ、と少し考える様子を見せた。


「全部誰も使わないと言う訳ではないが、攻撃魔法はほぼ使われないな。現在使われている魔法はせいぜい光属性ぐらいのものだ。その光属性さえもポーションなどを作り出すために使われることが多いし戦闘中に見ることはあまりない。障壁魔法はとても使い勝手が良いらしいのだがそもそも使えるやつが居ないからほとんど都市伝説みたいなものだな」


「何で攻撃系魔法は使われないんだ?」


「いい質問だな、少年」


いつの間にか少年呼ばわりされていた。歳あんまり変わらんと思うんだけど。


「攻撃魔法は三百年くらい前までは使われていたらしいんだが最近はほぼ使われない。あくまでほぼ、だが。じゃあ何故今は使われないのか。その理由は大きく分けて三つあると言われている。さぁ少年、何だと思う?」


えー、ここでクイズですか…。

正直言って全然分からん。今の今まで魔法は最強だと思っていたレベル。


ここは一度発想を変える。何故RPGやライトノベルでは全員が魔法を使えたりはしないのか。単純に使えないということもあるだろうが、それ以外にも理由があるはずだ。


ふと思い当たったのは、魔法ではダメージが入らないキャラというのが存在すること。攻撃魔法が使われない理由はつまり攻撃魔法が攻撃手段としての役割を果たせなくなるような何かが起こったのではないだろうか。


「魔法耐性が高い素材が発見された…とか?」


「うむ、悪くはない発想だな。確かに多少魔法耐性のある素材は存在するし、本当に稀にいる魔法剣士や魔導士に出会った時のために回避に自信がないやつは防具に取り入れたりしているな」


「でも言い方的に正解ではなさそうだな」


「でも言い方的にヒントにはなっただろう?」


「ああ、確かに。一つは分かった、と思う」


回避に自信がないやつは取り入れているとレイナは言った。つまり。


「攻撃が当たらない、だな」


「うむ、良いだろう」


満足げに頷くレイナ。


「攻撃魔法は剣撃に比べてスピードが速くない上、扱いが難しいんだ。だから攻撃が当たらないという現象が起こる」


まさかそんなことが。ヒロトが今までに読んできたライトノベルなどには記載されていなかったことである。


「残り二つも正解を言ってやろう。一つ目は『詠唱に時間がかかる』だ。例えば炎属性の初歩魔法エレメンタル・フレイムを完全詠唱すると、『火之神よ、我に力を与ふべし。以てその炎を見せつけよ。穿て、エレメンタル・フレイム』だ。一番の初歩魔法でさえこの長さだ。上級魔法になったらその分詠唱も長くなるし、剣相手にこんな長い詠唱を唱えていたらその間に斬られてしまう」


「まぁ、確かに。でもそのために他の剣士とかがその時間を稼ぐんじゃないのか?」


ヒロトがそう言うと、レイナはうーん、と顎に手をやり、考える素振りを見せた。


「剣士が時間稼ぐほど魔法に絶大な力は無いしなぁ……。そもそも当たらんのでは時間を稼いだところで攻撃として成り立たないからな」


「あ…確かに…」


「だろ?」


そこでふと一つの疑問を抱く。


「詠唱が短い魔法は無いのか?」


全ての魔法が全部長いのだろうか?短い魔法も存在するのでは無いだろうか。

ヒロトの疑問に、レイナはそれだ!と言って人差し指を立て、俄然前のめりになった。


近いなー、この人。距離感が近い。異世界人はみんなこんな感じなんだろうか。だとしたら年頃の高校生はちょーっと理性を保てるか怪しいな。

そんなヒロトの心情など知る由もないレイナは嬉しそうに続ける。


「それが光魔法だけが使われる理由だ。光魔法は詠唱が短い。『フィーブル・ヒール』『フィーブル・バリア』それぞれ回復魔法、障壁魔法の初級クラスの魔法の詠唱だ。本当にこれだけ。障壁魔法の最終段階は詠唱が存在する分長いが、まぁ使えるやつなんていない。初級でさえ誰も使えないからな」


「成る程な。オーケー、続けてくれ」


「そして三つ目。三つ目は魔法攻撃は大量のオドを要するということ。神魔法は百%自らのオドで発動させるんだ。だから人によっては一部の上級魔法や最上級魔法だと一発撃っただけでオド不足に陥って立てなくなるほど消費することがある。まぁ使えるだけでも凄いんだが、そんなやつが戦場にいたら迷惑だろう?他の奴が持ち運ばなくてはならんからな」


「じゃあそいつを馬に乗っけるのはダメなのか?一発撃って馬で帰れば良いんじゃないか?」


「悪くはない発想だがただでさえ当てるのが難しいのに馬に乗っていると余計に当て難いからな…。微妙なところだな」


確かにそう言われるとそうだ。馬も上手く扱えて、動く馬に乗りながら魔法を当てる技術をも、というのはとても難しいことに思える。


「だが、この三つを覆せるとしたら。それはなんだと思う?」


「え?」


完璧に思えた今の理論。だがそこに改変の余地があるとしたら。

レイナの言った魔法が使われない理由は『扱いが難しく攻撃が当たらない』『詠唱に時間がかかり過ぎる』『消費するオドが莫大過ぎる』の三つ。


この三つはどうやったら改善されるのか。


扱いが難しいなら練習すれば良い。詠唱に時間がかかるなら早く詠唱出来るように練習すれば良い。消費するオドが莫大過ぎるならオドを増やすように頑張れば良い。


つまり答えはこれしかない。


「努力、だな」


ドヤ顔で答えると、レイナはニヤリと笑った。


「違うな」


なにそれ超恥ずかしいんだけど。自信満々に答えた自分が恨めしい。殴りたい、あのドヤ顔。


「じゃあなんなんだよ」


「圧倒的才能だ」


なんだそれ。

呆れた表情が顔に出ていたのだろう。レイナは少しはにかんで、まぁ聞け、と言った。


「確かに剣術ならば努力でかなり上り詰める事ができる。めげずに修練し続ければ例え才能がなくとも才能の差を努力で埋める事ができる。だが、魔術は別物だ。生まれながらにして持っているものでほぼ全て決まる。扱いの巧さや魔法の速度、詠唱速度、オドの総保持量も全部」


「そう言うものなのか」


「そう言うものだ」


そう言うものらしい。

ほーん、と納得しかけて、ん?と思い留まる。明らかに一つ才能が関係無さそうな物が混じっている。


「詠唱速度は才能と関係無くないか?」


「甘いなヒロト」


どうやら甘いらしい。


「同じ詠唱なら早口の才能くらいしか必要ないが、才能のある者は単体詠唱が出来る。則ちエレメンタル・フレイムと唱えるだけで発動させることが出来る」


「え、それ普通に強くない?」


「だから才能なんだ魔法は。しかも三つ全て持っていないといけない」


ふと見ると、レイナは強く拳を握り締めていた。


「三つ……持たない者は魔法を使えないんだ。一つでさえ欠けてちゃ、ダメなんだよ……」


そう言ったレイナの顔には一瞬悲壮感が浮かんでいたが、すぐにこちらを向いてニコっと笑った。


何か言おうと思ったが、声が出なかった。それほどに一瞬だけ垣間見えた表情はヒロトの心に深く刻まれた。


「そんなやつはほぼいないんだよ。だから魔法は使われない。それだけだ」


レイナは爽やかな顔でそう言った。先程までの悲しげな感情は一切感じられないほどに清々しい笑顔だった。

会話文が長くて読み辛いのは本当に申し訳ないです……。

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