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第1話『起伏の激しい数時間』

風間大翔はごく普通の高校生である。


いつものように起き上がり、いつものように制服に着替え、いつものように朝食を食べる。その後、いつものように歯を磨き、いつものように靴を履く。


そんな普通の日常。いつもと何ら変わらない平穏な平日。それは突然にして破られる。


「行ってきます」


そう言ってドアを開け家を出る。


そこに広がっていたのは今まで見慣れた景色…ではなかった。


一面、見渡す限りの緑。

草原というのが正しい表現だろうか。木はそこまで生えてはいないが、短めの草が辺り一面に生い茂っている。


「どこだ…ここ…」


少なくとも見覚えのある場所ではないはずだ。

いや、全く見覚えがないわけではない。似たような光景なら知っている。地理の教科書に載っているようなモンゴルの大草原。それに近い。


「俺の家のドアがどこでもドアになっている可能性は微レ存?いや、無いか」


でもこの超常現象はそうとしか言いようがない。家を出ようと家のドアを開けた瞬間この光景が広がっていたのだ。非現実的ではあるが、そもそも起こっている現象自体が非現実的なため、そう考えるのも無理はない。


ここで大翔は一度発想を変えてみることにした。


「これはもしかしてあれか、明晰夢ってことなのか?」


非現実的なら本当に非現実なのではないかという推測。


明晰夢とは意識のある夢のことである。意識はあるが、夢であるため何もかもが思い通りに起こるというアレだ。


だが、何でも思い通りのことが起こると聞いていた割に、美少女降臨しろ!と思っても降臨しないし、家に戻ろう!と思っても家に戻るどころかドア自体が存在を消している。


おまけに頰を抓ってみると普通に痛いし、左足の踵で右足の脛を蹴ってみると、声と一緒に涙まで出るくらいには痛かった。


「やっぱりどこかに転送されたしか考えられないな。モンゴルの大草原か?」


よく考えてみると遠くの方には馬らしき動物が大量に見えるし、それに人が跨っているようにも見える。


やはりそうなのだろうか。もしそうならあの集団は遊牧民とかだと考えられる。とりあえずあの人達に聞いてみよう。


そう思った大翔は近付いていこうとしたが、ふと立ち止まる。

よく考えると、遊牧民だったら言葉が通じないのではないだろうか。


もちろん日本語しか喋れないし、日本に遊牧民がいるなんて聞いたことがない。あの馬らしき動物に跨った人達が遊牧民だと仮定すると、ここが日本であるという可能性は0に近いだろう。


だが、モンゴル力士が日本語がとても流暢であるように、ここがモンゴルなら、もしかしたら日本語を話せる人がいるやもしれない。日本語とモンゴル語は文法が似ているとも聞いたことがある。


その一縷の望みにかけるしかない。それしか方法がないまである。


そう思い再び近付いていくと、その集団もむこうからこちらに向かって移動して来ているのが分かった。

そのスピードは速いなんてもんじゃない。とてつもないスピードで、こちらに近付いてくる……というよりむしろ突っ込んでくるというレベルだ。


慌てて走行路となりそうなルートから飛び退くと、その集団は目の前を一瞬で駆け抜けた。


だが、その一瞬で分かってしまった。この状況を理解してしまった。


馬だと思っていたのはそんな可愛いものではなく、めちゃくちゃデカイ蜥蜴に近い生物。

そしてそれに跨っていたのは、ただの人間だけではなかった。ここで言う人間とはヒューマンの事だ。


猫耳をしていたり、明らかに人間より毛深い所謂獣人と呼ばれるような風貌をしていた者だったり、耳の尖ったやけに顔立ちの美しいエルフと呼ばれるような種族も居たように思える。


「これ、もしかしてあれか。いや、むしろあれしかないな」


大翔は一人で勝手に結論付け、一人で勝手に納得した。


「異世界召喚ってやつか」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ここでプロローグの心情になるという訳だ。


それからはヒロトはかなり長い時間、長い道のりを歩いた。だが一向に草原の終わりは見えて来ない。


道しらねぇ、人もいねぇ、言葉が伝わる根拠もねぇ、おらこんなとこ嫌だ。と歌いたくなるレベルで本当に何もない。

今持っているのはポケットに入っていたスマートフォン、財布、イヤフォン、家の鍵のみ。


鞄は置いてきてしまったらしい。まぁ鞄があったところで教科書と筆箱くらいしか入っていないし別段あれば良かったと思う訳でもない。


とりあえずひたすら歩いているが、何しろ制服姿のため歩きづらいことこの上ない。助かったことと言えば、今日はローファーではなくランニングシューズを履いていることくらいか。


ローファーよりはランニングシューズの方が何倍も歩きやすいし、疲れにくい。1時間目が体育であることに文句を垂れることさえあれど、まさか感謝する日が来るとは思わなかった。


道が分からないのでどこへ向かうと何があるのかは分からない。だが、とりあえず一方向に進むしかここを乗り越える方法が思いつかなかったため、ひたすら同じ方向に歩き続ける。


なぜこの方向なのか、と問われるとヒロトは何となくとしか言えないが、強いて言うなら他の方向は遠目に山が見えるからだ。山が無い方向に行けば街がある可能性がある、という根拠の薄い理由。


もうかなり歩いた。半日以上歩き続けているから距離にして三十キロは軽く歩いたと思う。日は既に沈んでいるものの、辺りは月明かりに照らされており、意外にも真っ暗ではない。


東から太陽が昇り、西へ沈むという原理がこの世界にも通じるなら今歩いている方向は北である。

終わりが全く見えない。今日は野宿しか無いか…。

そう思って諦めかけていた時、不意にどこからか聞こえてきたのは、何かが羽ばたくような音。


「おい、ここらでは見ない顔だな。どこの者だ」


凛とした、それでいてやけに通る声がした。


いきなりの事に驚き、辺りをキョロキョロしてみるが、声の主は見つからない。だが、ここは一面の草原。隠れる場所なんてものは存在するはずがない。


「どこを見ている。上だ上」


上?木もなければ建物もない場所で上だと?

だが上と言われれば上を見るしかない。そう思って上を見上げると。


「なんじゃあれ⁉︎ペガサス⁉」︎


白馬に翼が生えたような、まさにペガサスというに相応しい生物が上空を飛んでいた。

日中なら影が出来るから分かったかもしれないが、何しろ今は夜である。羽音も聞こえなかったため、全く気が付かなかった。


ということは声の発生源はあのペガサスなのか?こんなことが起こった以上、正直ペガサスが喋ろうがアンデッドに求婚されようが別段驚かない。いや、後者は起きてほしくないけど。


「ちょっと止まれ。今降りる」


その声と共にペガサスがゆっくりと降りてくる。


そうなるとヒロトの行動は一つしかない。


「おい!ちょっと待て!何故逃げる!」


全力で逃げる。だって怖いもん。喋るペガサスが追いかけて来るとかマジでホラーそのもの。


「待てと言っているだろ」


そう言ってそのペガサスは目の前に回り込んできた。


あぁ、終わりだ、食べられる。異世界に召喚されたかと思ったら初日に食べられるとかツイて無い。というかマジでクソゲー。逃げようないっつーの。

と若干不貞腐れ気味のヒロトだが、そのペガサスはヒロトの想像とは少し違うことを言った。


「別にとって食おうなんてことはせん。ちょっと待てと言っただけだ」


え、そうなの?恐る恐る顔を上げるとそこには予想通りペガサスがいた。だが予想と違ったのはペガサスの上に超美人な女の人が乗っていたということだ。


なんだ人か……。ペガサスが喋っているのかと思った……。

よっと言いながらペガサスから降りたその女性。燃えるような赤い髪は肩まで伸びており、いわゆるセミロング。


顔を除く上半身にえらく軽そうな鎧を纏い、腰に煌びやかな鞘に劔を帯刀していた。それも二本。


ペガサスから降りる前から、かなり身長が高いと思っていたが、降りると想像以上に高い。百七十は超えていると思う。


小さな顔には大きな碧眼、高い鼻、形のいい唇が並んでいる。そして顔の小ささとは対照的に鎧の上からでも分かる豊かな胸と引き締まったウエスト、それ相応のヒップ。そこから伸びる、程よく筋肉の付いた足は驚くほどに長い。


美しい顔立ちと抜群のスタイルを併せ持った、流石異世界と言わんばかりの思わず息を呑むほど美しい女性がそこに立っていた。

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