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第9話『実戦訓練』

「よーし、起きろヒロト!朝だぞ」


朝からけたたましいレイナの声でヒロトは目を覚ました。

目をこすりながら体を起こすと、部屋には窓から眩しいほどの陽が差し込んでいた。


この世界に来てから八日目、ヒロトの人生において最も過酷な一週間が過ぎた。


朝起きるとレイナとの実践訓練。朝食を食べてまた同じ訓練。昼飯を食べたら魔法の練習。夕食を食べたらレイナやマリンと団欒したり魔法についての本を読み漁ったり。そんな日が七日間続いている。


そして今日もレイナが起こしに来たということは…。


「訓練だ」


「ですよね」


起き上がるなり、訓練用の動きやすい服に着替えさせられる。今日の訓練を思うと、思わず溜め息が出た。


ワクワクしてたのは初日だけ。二日目からは体の節々が痛いし、体力的にも辛いし、ワクワクなんてどこへやら、といった具合である。


実戦訓練とは回避の練習が主だ。レイナが軽く振る訓練用の木刀をひたすらモ◯ハンの緊急回避みたいな、前回り受け身で回避するというなんとも地味な練習。


初日はレイナも遊びくらいのレベルでしか無かったが、二日目くらいからは楽しくなってきたのか、結構ちゃんと狙いに来た。


「おら!おら!」


みたいにすっごく楽しそうなんだけど、こっちはマジで必死に避けないと当たるから神経かなり使うし、めっちゃ疲れる。


ヒロトがいつも使っている訓練所に到着すると、レイナが既に木刀を手に持って待っていた。

この訓練所は、訓練所というよりは闘技場といった方がしっくりくる。何故か二階にはオーディエンス席も備えてあり、いつもマリンが座って見ている。


「今日はバク転回避を教えてやろう」


「おぉ!」


到着するなり、レイナの宣言にヒロトは思わず声が出た。

バク転回避は結構憧れていた。何より見た目がカッコいい。


だが、ヒロトは憧れと同時に、以前からバク転回避には、ある一つの疑問を抱いていた。


「なぁ、何でバク転回避ってやるんだ?普通に後ろに跳んだ方がスタミナも消費しないし相手が見えたまま避けられるから良くないか?」


そう、ヒロトにはやるメリットが分からないのだ。カッコイイ以外にどんな理由があるのか全く分からない。

そんな意図を込めた質問だったが、


「多分それはやってみたら分かると思うぞ」


という答えになってない答えが返ってきただけだった。

でもそう言えるだけのメリットがあるということだろうと思い直したヒロトは、とりあえずやってみるだけやってみようと試みる。


レイナに教えられてやってみるが、これがかなり難しい。

こんなことなら高校で体操部とかに入っておいたら良かった、と今更ながら無駄な後悔をするヒロト。


何かちょっとしたきっかけで出来そうではあるのだが、そのきっかけが掴めない。

ヒロトが悪戦苦闘しているのを、上から見ているマリンが腹を抱えて笑っている。

なんかあいつ腹立つな。


「おい、笑ってるけどお前は出来んのか?」


ヒロトが上に向かって声を張り上げると、マリンがニヤッと笑った。そして一度ヒロトに背を向けて客席から…………跳んだ。それも後ろ向きで。


「へ?」


マリンは空中で見事に後宙で二回転半回り、ヒロトの方を向いたタイミングで、上下逆さまのまま上半身を後ろに逸らし、凄まじいスピードで何かを投げつけてきた。


「うおっ!」


慌ててヒロトが上半身を大きく仰け反らせると、倒れまいと本能的に両手が出る。そしてそのままクルッと一回転。


「やれば出来るじゃない」


もう1回転半回って、スタッと見本のように綺麗な着地をしたマリンがフフフッと笑いながら言った。


「お陰様でな」


ニヤッと笑い返すと、マリンがフンッと鼻で笑った。


「まだまだ稚拙なバク転だけどね」


「やかましい。ていうか何投げたの?見た所何も無いんだけど…」


そう、確かにマリンは何かを投げつけてきたのだが、辺りを見回しても何一つ落ちていないのだ。


「それがマリンの『冥加』だからな」


レイナがマリンの代わりに答えてくれた。


「ミョウガ?何それ、美味しくなさそう」


「いや、ミョウガ美味しいだろ……」


どうやらこの世界にもミョウガはあるらしい。


「って、そうじゃなくて。お前冥加も知らないのか?」


「知らない。何それ」


聞くと、レイナはうーんと顎に手を当ててどう説明するか一瞬迷ったような仕草を見せたが、人差し指を立てて説明してくれた。


「『冥加』というのはだな、言えば一つの才能だな。生まれつき持っているか持っていないか、またその能力によってその後の人生が大きく変わることもある。極稀にいきなり発現することもあるらしいが」


「ほぉほぉ。持ってるやつは勝ち組ってことか?」


俺がそう言うと、レイナはそんなことはない、と言って首を振った。


「冥加は本当に様々で同じものは多分ない。でもそれは全部プラスかと聞かれたら、残念ながらプラスではないものも存在する。私やマリンの冥加は冥加の中でもかなり使える冥加だが、勿論デメリットもある」


「レイナとマリンの冥加ってどんなものなんだ?」


「私のは『隼の冥加』だな。両手に劔を持っている時に限り、あらゆる動きが人よりちょっと速くなる」


なんか大層な名前の割に効果が微妙そうに聞こえるのは気のせいだろうか……?

だが、レイナの性格を考えると、控えめに言っている可能性もある。


「マリン、実際はどれくらい速いんだ?」


レイナより確実な答えをくれそうなマリンに尋ねると、うーんと首を捻った後。


「時と場合によるけど一番速い時は普段の五倍くらいじゃない?」


「五倍⁉︎」


五倍ということは簡単な例を出すと、50㍍走を十秒で走る人が、二秒以内で走り切るということになる。しかもレイナの言い方だと移動速度だけではない。抜刀速度や居合の速さ、さらに回避速度も上がる事になる。つまり。


「チートやん」


「チートよ」


「おいちょっと待て」


ヒロトとマリンの冷たい目線を受けたレイナが話を止める。


「言っとくが五倍速状態なんて殆ど無い。普段冥加を発動させても1.5倍程度だ。まぁそれでも充分有利ではあるんだが……」


「チートやん」


「チートね」


「だから違う!この冥加は制御も難しいし良いことばかりではないんだ!というか誰がチートとか言っているんだ!」


レイナがそう言うと、マリンがスッと視線を逸らした気がした。


「それよりヒロトはバク転回避の利点は何か分かったのか?」


強引に話をすり替えたレイナ。


「いや、イマイチ分からん」


実際にバク転に成功してヒロトが感じたことは、やはり結構疲れるという事。


「疲れるのは慣れてないからだよ」


ヒロトが何を言いたがってるのかをまるで知っているかのように話すレイナ。


「じゃあ私が見本を見せるからヒロトは斬りかかってきてくれ」


実際に攻撃側として体感してみろ、ということか。


「分かった」


レイナに渡された木刀を軽く空中で横に振ってみる。


「行くぞ」


ヒロトはそう言ってからレイナに軽く当てに行く。

それをレイナは最初後ろに跳んで避ける。俺が踏み込んで当てに行くと、レイナは体を逸らして後ろに跳びながら手を突いた。そこに更に踏み込んで剣を振るうと、レイナの足が綺麗に回転。おぉ、レイナがかなり遠くに移動した。これは攻撃が当たらな…。


「ウガッ!」


その足がヒロトの顎をクリーンヒット。バク転の勢いのままに顎を撃ち抜かれたヒロトは、後ろに泡を吹いて転倒した。


「おい大丈夫かヒロト」


レイナが駆け寄ってきて俺を抱き上げる。目を開けるとすぐ近くに心配そうにヒロトの顔を覗き込むレイナの綺麗な顔が……。


「ダ……ダイジョーブ」


「良かった、大丈夫らしいぞ」


「そんなだらしない顔して鼻血垂らしているのが大丈夫だと思えるレイナは大丈夫?」


「え、嘘?」


ヒロトが自らの鼻に触れてみると、なるほど確かに生暖かい液体に触れた。

あ、ほんとだ。鼻血出てるわ。


「す、すまない。まさか鼻血を出すほど強く蹴ってしまったとは…」


「純粋なのは良いことね」


今回はレイナの純粋さに感謝して、ヒロトはその場を少し離れる。一度鼻血を側にあった池で洗い、タオルで拭う。


「で、分かったの?」


暫くして鼻血が止まったヒロトにマリンが声をかけた。


「多分。回避中に迂闊に近付けないのと、回避距離が長い」


「うむ。正解で良いだろう」


そう言ってレイナは満足気に笑った。

冥加の名前が過去設定になってたので変更致しました。申し訳ないですm(_ _)m

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