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大好きだと言える幸せ

 蛍光灯が切れかけている駅のホーム。今時自動改札もなくて、電車の到着を知らせる電子掲示板もない。あるのは、一時間に一本しか電車が走っていない錆びたレールと、今にも壊れてしまいそうな木製の所々塗装の剥げた青いベンチ、動いているのか分からない自動販売機だけ。


 ホームには誰もいない。始発前の駅に人が居るわけがないんだけど、なんとなく辺りを見回す。見通しのいい町の向こう側は白く濁ったような色をしていた。陽が昇るのだ。昇らないでくれと願った朝日。来ないでくれと祈った始発の電車。


 分かってる。俺がどれだけ願おうと、俺がどれだけ祈ろうと、電車は時間通りに来るし、陽は昇る。それを、酷く残酷だと思うのは俺だけですか?


 始発電車が来るまで後三十分。長いようで、短い時間。


 横を見る。俺と同じ様にベンチに腰掛け、足をぷらぷらと揺らす女の子。白のワンピースを身にまとい、黒のガーデガンをその上に羽織っている。そんな彼女の前にはその身体に不釣り合いな位大きな鞄。ガーデガンから少し覗く小さく白い手には切符が一枚だけ大事そうに握られていた。それは、大きな大学病院がある街までの切符だった。路線図の一番上、一番高い切符。


 彼女は、その街に行ってしまう。旅行じゃない。遊びに行くのでもない。


 生きる時間を、少しだけ伸ばしに行くんだ。


 そして、この町にはもう帰ってこない。


 「……」


 言いたい事がいっぱいあった。最後だから、帰ってこないから。でも、口はまるで縫われてしまったかの様に開かず、ただ横目で彼女を見るだけ。


 始発電車が来るまで後二十分。


 「先生にね?」


 口を開いたのは、彼女だった。普通の女の子より少し高めの、落ち着いた声。


 「後一年しか生きられないって言われた時、『あぁ……』って思ったんだ。『終わっちゃう』って」


 一つ一つをゆっくりと語る彼女。まるで懐かしい思い出のように。


 「でも、心のどこかで、ほっとしてる自分がいて。もう痛い思いをしなくていいんだなぁって」


 彼女の顔に笑みが浮かんでいた。目は泣き出しそうで、口元だけが笑っていた。


 「……でもさ、君に会えないって思ったら……痛いんだよ……。どんな事よりも……一番痛いんだよ……」


 「……」


 黙って聞くだけの自分に腹が立つ。何か言うべきなのに、『行くな』って『他の方法を探そう』って。……言えない。


 「……行きたく、ないんだよ……」


 彼女の細い手が、俺の手に重ねられる。冷たい。昔はもっと暖かかったのに。


 「……っ……ヤだよ……。……一年だけでもいいのに……。……君と過ごせるなら……残りが一年だけでもいいのに……」


 始発電車が来るまで後十分。


 気付けば、俺は立ち上がって彼女を抱きしめていた。今にも折れてしまいそうな身体、香水じゃない何かのいい香り。


 「もっと、こうしてあげたかった。今、後悔してる」


 「……っ……」


 「いっぱい、好きだって言えばよかった。いっぱい、キスすればよかった。いっぱい、愛してるって言えばよかった。後悔ばっかりだ」


 そう、後悔ばかり。だから、決めたんだ。『行くな』なんて言わない。『他の方法を探そう』なんて言わない。その代わり、決めた一つの事。


 「お前が帰ってきたら、今思った後悔を一つずつ消してくんだ」


 顔を上げた彼女の涙を拭ってやり、唇に一つキスをする。


 「だから、一年でいいとか言うな。ずっとだ。痛い思い出なんかより、ずっと多い楽しい思い出を作ろう」


 「……うん……。……うんっ……」









 始発電車がやって来た。キィッと喧しい音を立てながら。電車が止まり、扉が開く。彼女がカバンを半ば引きずるように持ち、乗り込んで行く。


 「さようなら」


 にっこりと笑う彼女。目にはまだ涙が。


 「じゃあな」


 扉が閉まる。彼女が手を振る。また涙を流す。


 走り出す。彼女一人を乗せた電車が。一番高い街へと。取り残されたのは、錆びた何処までも続くレールと、泣き崩れる俺だけ。


 昇るなと願った陽が、優しく抱きしめるように俺を照らしてくれるのだった。






−−−−−−−






 月日が流れても、田舎町は所詮田舎町で、何一つ変わる事はない。


 錆びたレールも、一時間に一本の電車も、自動改札のない駅も、ボロボロで塗装の剥がれた青いベンチも。


 昇って俺達を照らしてくれる陽も。


 「本当に公園でよかったのか?」


 「何で?いいよねぇ?」


 「ねぇ〜!!」



 笑顔で微笑む女性。白のワンピースを身にまとい、黒のカーデガンをその上から羽織っている。その横、女性と同じ格好をした女の子が口の周りにご飯粒を付けて蔓延の笑みを浮かべていた。


 「いいならいいけどさ」


 「公園で十分。十分」


 「そー!そー!!」




 月日が流れても、田舎町は所詮田舎町で、何一つ変わる事はない。


 でも、唯一変わったとしたら。


 彼女が今も生きて、幸せそうに笑っている事だろう。






 俺の後悔は、なくなっていた。






END


 おはようございます。コノエイクノです。              意味、分かる文章になっていますでしょうか?(汗)意味分からん!!と言う方、大丈夫です。書いた本人が一番分かっておりません……。……ふっ(え?                  誰か、文章力の付け方とコノエイクノという人物を教えてください(汗)                      こんな駄文でも評価や感想を頂けますと嬉しいですっ!                   では、また。                                      コノエイクノ

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― 新着の感想 ―
[一言] どうも初めまして、春功といいます。私も物書きの端くれです。 泣きました。お恥ずかしいですが… 分かれるシーンや列車を待つ描写の臨場感がすごかったです。まるでそのばにいるような感じがしました…
[一言] こんばんは! 物語が進んでる場所が分かりやすく表現されてあったので、読みながら駅とか、女の子とかすぐ想像できて話に入りやすかったです。 最初はけっこうせつない感じだったので最後はもしかして彼…
[一言] 「昇るなと願った陽が優しく抱きしめるように俺を照らしてくれるのだった」のくだりが好きです。 「月日が流れても、田舎町な所詮田舎町で、何一つ変わることはない」 の繰り返しも、とてもいい効果が出…
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