第17話 それでも僕は!
ゴメン………………
本当にゴメン。
それでも、それでも僕は!
『黒色と黄色に呑み込まれろ!プリンクラッシュ!』
『全て壊す!消えろ消えろ消えろ消えろ消えろぉ!!!』
『ぐわァァァァァァ!』
『K.O!』
「だ~から何やってんだオマエは!」
「痛い!海斗、叩かなくてもいいじゃないか!」
「オマエは何でわざわざ“プリンクラッシュ”で倒そうとするんだよ!後一撃、小攻撃当てりゃ勝ちだったろ!」
「プリンで勝たずして何が〈皇帝〉かっ!」
「うっぜぇぇぇぇ!」
本日、土曜日。
時刻、2時半。
天気、快晴。
場所、陸宮家のリビング。
僕らは今大人気の格闘ゲームをしていた。
その名も、ストリームファイアー。
略してストファー。
多種多様なキャラクター。
格闘ゲームなのに、知れば知るほど深い世界観。
対戦を盛り上げるBGM。
そして何と言っても、カッコいい技!
僕らはこのゲームをかれこれ5年以上プレイし続けている。
僕らといっても、僕と海斗の2人だけなんだけど。
じゃあ2人で対戦しているのか、というとそれも違う。
僕は一人っ子なので残念ながらTVゲームのコントローラーは1つしかない。
そんなワケで2人で交代しながらアーケードモードをしている。
さっきは僕の番だったんだけど、敵が強くて負けてしまった。
やはりまだまだ詰めが甘いな。
「負けたのはオマエがプリン技にこだわっているからだ」
「それは違う」
「まぁ俺に貸してみろ。全員倒してやるから」
「ハイハイ………………海斗の冗談に付き合うのも疲れちゃったよ」
「黙って見てろよ」
「無理無理僕が負けたのに海斗が勝てるワケ………………」
『CLEAR!!!』
「速すぎるでしょ!」
「敵は全然強くねぇからな」
「そういう問題なの……?」
「〈神童〉は不可能を可能にしてみせる」
「クソっ………………カッコいいこと言っちゃって……僕にもやらせて!」
「ほらよ……次は勝てよ」
「任せてよ!鮮やかに勝ってみせるさ!」
「期待しないで見とくわ」
「うおおおおおおおおおお!今だ!“プリンクラッ………………」
『K.O!』
「ええええええぇ!」
「負けてんじゃねーか!」
「違う違う!今のはコントローラーの接触不良によるコマンドミスだよ!」
「ワイヤレスに接触不良もクソもあるか!」
「海斗の期待によるプレッシャーだよ!」
「期待しないで見てるっつったろ!」
「ひどいや海斗!期待してくれてなかったんだね!」
「うっぜぇぇぇぇ!」
海斗が大声を上げる。
コラコラ、いくら親が出掛けてるからって人の家で叫ぶのは良くないよ?
そんな感じに海斗を宥める。
すると海斗は僕に指を突き付けて来る。
「オマエ“プリンクラッシュ”封印しろ」
「ええええええ!」
「今からその技無しで闘え。そうすればオマエは強いハズだ」
「そんな………………僕からプリンをとったら何が残るんだい……」
「いいからさっさとしろ」
「気が乗らないなぁ…」
『CLEAR!!!』
「ええええぇ!!」
「ほらな」
何で!?
プリン技を使わなくなった途端、急に強くなったよ!?
どういう仕組みなの!?
「そもそも“プリンクラッシュ”はコマンドは長いし、動作は遅い、あまり使い勝手が良くないんだよ」
「えっ?そうなの?」
「そう思えるのはオマエがコマンドミスを1回も経験してないだけだ」
「僕って凄いじゃん」
「発動しか出来てねーんだよ。技を当てる前にやられちゃ意味がない」
「つまり、やられる前にやれと」
「そうだ。だから“プリンクラッシュ”を封印した」
「プリン技が僕を今まで苦しめていたというのか…!」
「ああ、だからオマエはプリン技は封印しろ」
「分かった!使わない状態でもう1回やらせて」
「今度は俺も期待しておこう」
「よぉし!やるぞぉ!」
なんだ。
こんな簡単な事で強くなれたんだ。
ならこのまま“プリンクラッシュ”を封印して………………
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出来ない!
そんなこと僕には出来ない!
僕は慣れ親しんだコマンドを入力する。
↑↓←タメ→○○○△□!!!
「いっけぇぇぇぇ!」
「大地オマッ!そのキャラの動きは………!」
黒色と黄色に呑み込まれろッ!
『プリンクラッシュ!』
『触らないで下さい』
『ぐはぁぁぁぁぁ!』
『K.O!』
「………………………………」
「………………………………」
「………………海斗」
「………どうした」
「僕が間違ってた」
「分かれば良い」