第12話 癒ちゃんだよっ☆
うん、今日も今日とていい天気。
窓辺から降り注ぐ柔らかな日差しは僕を眠りへと誘う使者のようだ。
僕は使者さんに逆らうことなく、教室の自分の席でうつ伏せになる。
こんなゆっくり出来るのは今のうちだけなのだ。
「Zzz………………」
昼休み、一人きりの教室はとても静かで、僕の眠りはより深く質の良いものとなった。
次の授業の予鈴で目覚め、僕は無言で授業の準備をした。
その様子を見て、心配したのか天音がこちらへ近づいてくる。
無理もない。
なんせ今日僕は誰とも会話していないのだから。
それに加え、僕は昼休み購買へ初めて行かなかった。
行く気力が湧かなかったのだ。
「ねぇ…大地……アンタ大丈夫?」
天音が話しかけてくる。
今、あまり人とは話したくはないのだけれど、流石に天音を無視出来る程、僕の勇気は育ってない。
「天音、次の授業が始まっちゃうよ?席につかないと」
カッスカスに掠れた声と乾いた笑み。
僕に出来る最大限。
長年日々を共にした天音はそれ以上は何も言わず、肩をポンと叩いて席に戻ってくれた。
ありがとう……天音……
後2時間も過ぎれば放課後だ。
そして僕にとって地獄の時間が始まる。
♦♦♦
「陸宮ぁ、今日は美術室の掃除やれ」
「ウス、総長」
「総長じゃねぇ先生だ」
「押忍、組長」
「次言ったら掃除期間を倍に増やす」
「すいません、先生」
「おら働け働け」
先日、課題の提出を忘れたせいで僕と海斗はその日罰掃除をさせられていた。
しかし、僕だけ更に掃除期間を延長させられた。
理由は単純。
美術の先生にチョップ、これだけ。
いや、これだけって言ったけど結構大変なことだな。
美崎先生だからこそ、掃除で済んでいるけど、他の先生だったら停学ということもあり得たのかもしれない。
そんな事を考えてながら、掃除を進める。
ちなみに、罰掃除は時間制じゃない。
美崎先生がチェックして合格を出して、解放される。
だから中途半端な掃除はいけない。
細かい所までしっかりと。
僕は自身の主夫スキルが上昇していることを感じる。
ハハッ!
楽しい、楽しいぞ!
掃除が楽しい!
少し前まで掃除なんてしたくもなかったし、聞きたくもなかったけど、主夫スキルが高まったせいか、掃除が楽しくてしょうがない。
ハハハハハハハ!
動き出した僕は止まらない。
床ぁ!
窓ぉ!
天井ぉ!
驚異的なスピードで掃除を済ませていく。
この勢いなら後30分も要らないな。
僕は棚の掃除に取り掛かった。
が、その時。
伸ばした手に何かが触れた。
触れた何かは棚から飛び出し、重力に従って落下する。
その何かをよく見てみると、美術品だった。
よく出来た人型の美術品。
ヤバイ、落とした………………
反射で手を伸ばすが、掴み損なう……
ワケにはいかない!
カッと目を見開いて伸ばした手を更に伸ばす。
「とっ届けぇぇぇぇ!」
パシッ!
ズサァァ!
やった………………落とさなかった………………
伸ばした手も結局、届きそうになかったので、ダイビングキャッチすることにした。
体を張って守った美術品を見てみると、美少女フィギュアだった。
「………………へっ?」
目をゴシゴシ擦る。
しかし目に映るのは、美少女フィギュア。
「なんだこのフィギュアは…」
凄い既視感があるフィギュアだな。
有名なアニメやゲームに登場する奴じゃないと思う。
マイナーな作品のキャラなのか、それともオリジナルなのか。
何処かにキャラ名でも書いていないものかとフィギュアをぐるぐる回す。
「あっ…」
見つけた。
キャラ名ではない。
おそらく、この作品のタイトルなのだろう。
フィギュアの背中には「癒ちゃんだよっ☆」と書かれている。
そうか……何処かで見たことあると思ったらこのフィギュア、癒の1/10スケールだ。
確か去年、癒が「暇だから創ったよ~」とか言って海斗にプレゼントしたら「要らん」って即答されてた奴だ。
それにしても良くできている。
私を創りたいと言って、たった5分で創ったとは思えない完成度だ。
材料は紙のみ。
一体どうやったらこんなフィギュアが創れるのか。
僕の幼なじみ達は化け物だらけだな。
森林山 癒。
4人目の幼なじみ。
僕がアナタと呼ぶ人物。
彼女は今、この学校に居ない。
去年の春休み、武者修行に行くよ、と言って何処かに行ってしまった。
癒もきっと頑張っているのだろう。
ならば僕も頑張ろう。
体を起こし、フィギュアを棚に戻す。
その時、癒フィギュアがいろんな美術品に当たって棚から落ちてくる。
それら全てを受け切ることなど出来ず、落とし、落とし、ただ落とし続けた。
その後、先生から掃除期間延期を言い渡された。
世界ってなんて理不尽なんだろう!