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オマエやキミとアナタで僕達  作者: 生月 太郎
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第1話 陸宮 大地

僕は陸宮(りくみや) 大地(だいち)

現在高校2年生。

青春真っ只中って訳だ。

まぁ僕と青春なんて、友達の友達と同じくらいに関わりがない。

それより大切な事が僕には有るからだ。


♦♦♦


校内のとある一角で沢山の観衆に囲まれながら僕は、名前も知らないような男子生徒と睨み合っていた。


「始まるぞ…………………!」


誰かがゴクッと唾を飲み込む音が聴こえる。

僕の前にいる男子生徒は腰を落とし右腕を脇腹付近に密着させている。

要するに正拳突きみたいな構えだ。

対する僕は至って普通。

何の構えも無しにただ両手をブラブラと空中に彷徨わせるだけだ。

ぶつかり合う視線。

静まり返る観衆。


「諦めてくれよ………………〈皇帝〉……」


男子生徒がポツリと本音を漏らす。

「僕の異名を知ってるなら、尚更引き下がれないな」

「クソっ……どうしてもやんなきゃいけねぇのか」

「勿論さ。アンタもその覚悟があるから購買部(ココ)に足を運んだんだろ?」

説明するのが遅くなってしまったが、僕等が今いる場所は購買部である。

残り時間僅かとなった昼休みにわざわざ購買部まで足を運んだのは理由がある。

その理由は、プリンのためである。

最近のマイブームとして食後のデザートにプリンを食す。

購買部で最もボリュームがあるとされる『ガッツ!!スタミナ弁当』を食べた後の甘さ極まるプリンはかなり美味しい。

というかプリンは基本なんにでも合う。

万能スイーツ。

それがプリン。

普段は購買部で弁当を買いに行くついでに、いや、プリンを買いに行くついでに弁当も買っていたんだけど今日はたまたまプリンを買い忘れてしまった。

一度、食後プリンの旨さを知ってしまった僕がプリンを諦めきれるはずがなく、弁当を一気に食べて再び購買部に姿を現したワケなんだけど、そこには問題が2つあった。

1つはプリンが残り1つであったこと。

もう1つは僕の他にプリンを求める者がいたこと。

僕と男子生徒が購買部に到着したのはほぼ同時だった。

向こうも僕の存在に気づいてはいるのだろうが譲る気はさらさらなかったらしい。

だからといって僕も引き下がる気は、ない。

そして僕等は今の状況に至る。


「アイツがあの〈皇帝〉なのかよ…」

「全然オーラを漂わせてないな…」


周りの声が自然と耳に入る。

そもそも僕は自ら皇帝と名乗ったワケじゃない。

勝手に他人からそう呼ばれているだけだ。

でも皇帝って響きは結構気に入っている。

「〈皇帝〉としてこの勝負、負けるわけにはいかないね」

「………………分かった……俺も腹を括ろう。だが!決して手加減なんかするんじゃないぞ〈皇帝〉!」

「了解した。僕はこの拳に誓って必ず本気を出そう」

ざわざわと観衆がざわめく。


「おい、今のって〈皇帝〉の勝利宣言じゃねーのか!?」

「ああ……おそらくな………………」

「刃でもなく壁でもなく拳………………」

「つまり〈皇帝〉はグーで勝つつもりなのかッ!」


さて、ここまでの話を聞いて分かっただろうが、僕等が今から行うのはジャンケンである。

しょぼいとか思っちゃいけない。

ジャンケンは古来より、チャンスを等しく分け与える遊戯であると伝えられている。

神聖なる遊戯でLAST PURINを争うのだ。

僕も彼も互いの誇りを賭けて闘いに臨む。

手加減なんて元よりするつもりなんてない。


「ジャーンケーン………………」


男子生徒が掛け声をかける。

僕は静かにそれに応じた。


「ポイッ!」


相手はパー、そして僕は、パー。

「どうした…?皇帝………………グーで勝つんだろ?ならグーを出せよ………………」

「確かに。僕はグーで勝つつもりだ。でも最初からグーを出すとは言ってないだろ?」

「………………続きだ」

チラッと男子生徒の方を見てみるとかなり焦っていた。

次に何を出すのか迷っているらしい。

なら、と思い今度は僕が掛け声をかけることにした。


「あーいこで」


少し速めのテンポで。


「ショ!」


相手はグー、そして僕も、グー。

「ほら、今度はグーを出したよ?さっきみたいにパーを出しておけば勝ちだったのに」

「クソ…まだ負けてねぇ………………」

「そうだよ、ここからがジャンケンは面白い」

そしてまた、仕切り直す。

「でもそろそろ決着を着けたいな…」

「ッ!?」

男子生徒はあからさまにたじろいだ。

追い打ちをかけよう。

「さっきの宣言を信じるならアンタはパーを出せばいい。でもこれまでの宣言がただの偶然で今回は外れるとしたら?僕はアンタに(チョキ)で勝つかもしれないな?」

「………………うるせぇ………………」

よし。

完全に冷静さを欠いたな。

「終わりにしよう…」

今度は観衆が掛け声を掛ける。


「「「あーいこでッ!!」」」


そして僕は握りしめた拳を打ち出す。

動揺が目に見える相手なんて怖くない。

これで僕の………………勝ちだ!


キーンコーンカーンコーン……


昼休み終了のチャイムが鳴った。

購買部の人間は素早く後片付けし、売り場のシャッターを降ろす。

「なん…だと………………」

今日……プリンはお預けだと?

観衆達や相手だった男子生徒もいつの間にかいなくなっていた。

僕は1人ポツンと取り残された。

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