表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

「星界と故郷を想う者たち」シリーズ

魔の大地に楽園を築く夢を見て。

作者: まいまいഊ

 私はこの星の人間ではない。

 いわゆる『異星人』というやつである。


 私の乗った調査小型船が壊れてこの星に不時着したのだ。母船に連絡は入れたが、船は少し離れた場所に停泊している。助けが来るまでには、少し時間がかかるという話だった。仲間が来るまでの間、私はこの星で生活しなくてはならなくなった。


 この星の隅々まで調べたわけではないのだが、私にとって致命的になるような現象は存在しなかった。しかし、この星には少しだけ住みにくいのだ。気温も空気も気圧も味も、何もかも全てが温く(ぬるく)て薄かったのである。

 少しでも住みやすい気候の地域を見つけていれば良かったのだが、急な出来事であったので、贅沢は言っていられない。何よりも救いだったのは、私たちにとっての毒でさえこの星に存在する量では薄くて効果をなさないということだった。

 空気も薄いので疲れやすかったが、この星の女性に擬態し、病弱を装えば、怪しまれることなく馴染むことはできそうだ。



 私の体はこの世界に住む生命体の形を取る。変化をし終えると、私はこの地域の平均的な女性へと姿が変わっていた。

 そして、この星については少し調査していたので、それを元に言葉や文化といった知識を脳内に注入した。多少の誤差は、現地で収集して修正していくしかないだろう。

 ひととおりの事を済ますと私は不時着した船を隠した。こうしておけば、原住民に気づかれることはない。そして私の仲間が助けが来た時には、回収してくれるだろう。




 ふらふらしながらも、近くの町にたどり着いた。少し歩いただけでもこれだ。先が思いやられる。

 私は町についてすぐ、宿を探した。

 ちなみにこの星の通貨は複製してあるので問題なく泊まれるだろう。足りなくなったら、また複製すればいい。どうせ少しの期間しかいないのだ、この国の社会に打撃を与えるほどの量にはならないだろう。


 女性が一人で泊まるのは怪しまれそうなので、それらしい事情を作り上げ宿の人に説明した。簡単にまとめると、このような感じの話で通してある。


『この町の近くで野盗に襲われて兄と二人で助かったものの、私は少し体が弱いので、そのまま旅をするわけにはいかなかった。ちょうど近くにこの町があったので兄はそこまで私を送り届けた後、一足先に帰り、私のための乗り物を用意して迎えに来てくれる。私は少し運動しただけでも疲れてしまうから、乗り物も少し改良を加えなくていけなくて……だから、この町で乗り物を借りるわけには行かなくて、迎えに来るまでこの町で待っている』


 まぁ、仲間の船が迎えが来るまでここで待つのだから、あながち嘘ではない。



 私は体力を温存する意味をこめて大抵は眠ってすごしている。病弱な設定なので、一日中眠っていても怪しまれることはない。

 あまり眠っていても体に悪いので、私が『今日は調子がいい』と定めた日には出歩いている。すぐに体力を消耗してしまうため、長時間の探索は無理であったが。


 この星の情報を集めていて気がついたことは、この星の人間たちは精神世界が幼く不安定ということである。

 食料が豊富な時期や大きな災害がない時代ならば平穏で平和であるが、ひとたびそれが失われそうになると、欲しい物は血を流してでも奪ったり、信じるものの違いで争いが起きたり、不安、疑心暗鬼、嫉妬、欲望、虚無に満たされた悪循環に満たされてしまうのだ。

 しかも、災いが起きれば、まじないや呪い(のろい)のせいにし、妖しい雰囲気のある者たちや、時には気に入らないから腹いせにという理由で罪のない者たちが、悪魔の使いとしてあらぬ罪をかぶせられ、大地に還っていった。

 今、この国はその連鎖の中にある。この村も例外ではなく、人々はその言い知れぬ恐怖におびえていた。


 私は知っている。

 それは『魔女狩り』であると。

 私の星にも大昔に実際にあった出来事である。しかし、歴史の教科書でしか見たことがないような事であったので、どこか他人事のように全く実感がなかった。




 この町に来て数日。このまま何事もなく、日々は過ぎていくものと思われた。



 ――しかし、あの男が現れた。


 私はこの国の平均的な女性の姿をしている。平均的な外見とは、取り立てて目立つ特徴はないが、欠点がないということになる。そして、体が弱いという事や身の上が、薄幸の美女のごとく映ったのだろう、どこからか噂を聞きつけて『お金持ちの男』が現れたのだ。


 その男は、私を見るなり頬を赤く染めた。どうやら、一目ぼれというやつをしたらしい。私はこの男に言い寄られて悪い気はしなかったが、私はこの星の生物ではない。形こそ似せてはいるが全くの別物なのだ。うれしい反面、その気持ちに答える事はできない事情もあるので、困惑してしまった。


 「私一人では決められない」と、そう濁すことにした。


 この国では、まだ自由恋愛はそれほど一般的ではなかった。女というのは家に付属するモノのような存在だったので、婚姻を結ぶ相手は親や親族が持ってくるものだったのだ。だから、男も私の答えは、もっともな事だとして、納得はしてくれた。

 しかし、男は自らの館に私を招待すると言った。もしよければ、迎えが来るまでいてほしいとも。おそらくは、『兄』が来たら「あなたの妹をください!」とでも言う魂胆があると思われた。

 下手に断って、宿の女将やこの町でお世話になった人たちに迷惑をかけるわけには行かないので、私はこの男の館に行くことに決めた。

 迎えが来たら、記憶でも何でも操作すれば良いだけのことなのだ。



 この男の館に世話になったのは、ほんの数日だと思う。ある日、突然私は悪魔として告発されたのだ。

 私は他所の者で身体が弱い。男を誘惑し、何か悪い病を撒き散らしていると、私を告発した女はそれらしい理由を言った。

 彼女はあの男を好いていたのだ。

 男の屋敷で暮らし始めた私を見て、何か勘違いをしたのだろう。つまり、私は嫉妬のとばっちりを受けたわけだ。




 ――で、私は今、牢屋の中にいる。


 牢の中には、似たような境遇の人たちがいた。

 彼らは生きて外の空気を吸えることはないだろう。

 私は、魔女狩りについての知識を思い出す。かつて自らの星で起こった時の知識だが、まぁそんなには変わらないだろう……


 あれは拷問である。

 あれは認めさせるだけの拷問。

 認める認めないではなく、捕まるというだけでもうすでに悪魔なのだ。



 しかし、自分はヒトではあるが、この星の純粋なヒトではない。悪魔を暴く儀式を耐えられる自信はある。少し痛いかもしれないが、外的要因ではそうそう死なないのだ。彼らは、死ぬまで色々やるかもしれないが、死んだふりして逃げる機会はあるかもしれない。私はそう簡単に死ぬことはない、それだけがこの星での私の強みなのだ。

 

「……しかし、あれは儀式という名の処刑。精神的に耐えられるのか。火あぶり、水攻め……あと何がある? 刺されたりするのだろうか」

 いくら簡単に死にはしない体と言っても、精神は普通の人間なのだ。長期間の拷問は精神を蝕む。

 それならば……さっさと、悪魔であることを認めたほうがいいのかもしれない。

 悪魔であるというのを、さっさと認めてしまって、不必要な拷問をすっ飛ばしてさっさと悪魔を清め殺すという儀式を受けて、生き残って見せて、無罪放免と行ければいいのだが。

 しかし、生き残ったことによって悪魔だって言われても、それはそれで自分が納得してしまいそうである。

 案外冷静に状況を判断する。



 ――そして、日が沈み空が闇に包まれ始めた。


 暗くなるにつれて、おびえ始める牢の中の女たち。それは、夜の闇におびえているわけではない。それとは対照的に、牢を見張る男たちニヤニヤしだすのだ。

 またひとり、またひとり、女がどこかへ連れて行かれる。これから何が行われるのか、私は見当がついた。


 そして、ついに私も数人の男がいる部屋に連れて行かれた。



(あんな湿った異星人の肌に触れるのは考えただけで、吐き気がするんだけれどな)


 この星の人間は、汗という分泌物を出す。その温く(ぬるく)しめったものは、不快以外の何物でもないのだ。このまま何もせずに弄ばれるのは癪なので、この際だから少しからかってみようと、虚構の物語を構築した。

 

「……いいことを教えようか? 悪魔は穢れなんだろう? いくら清めて力を封じた所に閉じ込めても、その本質は変わらない。そんなやつの近くで一晩裸で過ごしたら、どうなる? 呪いを受けても文句は言えないよ?」

「ここは清めの場所だ、悪魔は力は使えない」


「悪魔を狩る者なのに、そんなことも知らないのか? 君たちの仲間で、局部の酷い痛みや痒みで悩まされていたり、しかも、身内にもそういう症状がうつったりして、最悪には狂ったり死んだりした人がいるだろう?」

 私の発言に彼らはざわめいた。

 やはり、思い当たる節があるのだろう。


「それは、悪魔の本質に触れてしまったための呪いだ。君たちのその燃え上がる本能を利用した悪魔たちの最後の誘惑だ。その誘惑に惑わされ一晩ともにすると……後はわかるよね。君たちは呪いを受ける。これは、すぐには表に出ない。徐々に徐々に体を蝕んでいく。

 君たちも知っているはずだ。悪魔は儀式によって清めない限り悪魔である、そうだろう? いくらここが聖なる場所で力が使えないといっても、悪魔の穢れたる所以の呪いは、その身を滅さない限りは消えることはない。悪魔は悪魔、気軽に触れないほうがいいよ? 今からしようとしている行為は、悪魔の誘惑、悪魔の呪いを最後に振りまく抵抗。神の使者である貴方たちの力をそぐための。だから、私が悪魔であるかもしれない以上、君たちが今私に触れるということは、その呪いを受けることになるんだよ」

「何をでたらめを」


「……はぁ」

 私はため息をする。あまり好んで異星人の生殖器官など見たくはないのだが。

 すでに下半身丸出しの男たちを観察する。

「そうだねぇ、その呪いにかかっているのは……やっぱり何人かいるね。私には分かるんだ。君たちの中にその呪いが巣食ってオゾマシイ形をつくっているのが。特に君と君、もうカビ(のろい)だらけだね……」

 私は指差した。明らかに性病に冒されている人物を。

「そろそろ自覚症状が出ていてもおかしくないのではないかい? 時折、夜も眠れないほどの痒みに悩まされている」

 そう言われた男は、言葉を聞かなくとも分かるくらいに震えていた。


「なぜ、それを知っている……?」

「なぜって? だって、私は『悪魔』なのだろう? 悪魔が悪魔の呪いについて知っていることに、何か疑問がある? 君たちに『悪魔の呪い』がかかっているのを見て、しかも、だいぶ呪いが定着している。だから、そろそろ呪いを受けている事実を教えて絶望する人間たちがみたくて、さ」

 まるで悪魔であるかのように、残酷に残忍に笑んでみる。


「私はかまわないんだけれど、どうする? 呪い、うける? 私の呪いは即効性のきついものにしておくよ。呪われたくなかったら、私にあんまり触れないほうがいいよ」

 これでも犯してくる者がいたら、私の体内で合成される物質で彼らの大切なモノを溶かしてしまうのも一興だ。



 結局、男たちは何もせずに私を牢に戻した。他の女たちがどうなっているかは知らないが、気にしてもどうにかなるというものではないだろう。

 自分の貞操は守れたものの、確実に悪魔の道を歩んでいるような気がした。


「悪魔であることを認めたから、明日には『処刑』されるかもしれない。まぁ、死なないけれど」

 この星の技術で作られる道具で、私の命を奪うことなど不可能に近いのだ。




 ――それは、浄化という名の処刑。


 一度疑われたら、死ぬまで終わらない儀式。


 しかし、この世界の火は、私にとって全く熱くはない。水に沈められても、私は水中は平気だ。食事に毒も入れられただろうけど、この星の人間に効く毒は私には効かない。仮に私にとっての毒だったとしても、中毒にも至らないほど薄いのだ。私は、『悪魔』を浄化する儀式の全て耐え生き残ってしまった。感想としては、案外ぬるかった。


 呆然とする処刑者たちに、私は笑みを向けた。

「どうやら、私は『悪魔』ではないようだね。なにせ、聖なる火に焼かれても耐えたし、奇跡の水の底に沈められても平気だった、神に祝福された水を飲んでもぴんぴんしているし、聖剣にさされても傷はすぐにふさがったし。君たちが言う聖なる儀式から生還したんだ。悪魔なら死ぬ、それなら生きている私は邪な者じゃないということを証明したも同然だよね。しかもこんなに多くの人の前で公に、ね」

 私は核さえ無事ならば、復元できる体質なのだ。




「……わかった。あなたを解放しよう」

 そう言って、私が開放されたのは、『魔の大地』という場所であった。

 その土地は、この星の住人にとって猛毒であった。草木も動物も育たない不毛の地なのである。神の奇跡による結界で覆われているので、許可の証がない者は出入りができないという閉ざされた地であった。


「神に祝福されたあなたには、この地を守護していただきたい」

 そう言い、証を手の甲に印した。この印は、一度結界を抜けると消えてしまうのだそうだ。


(……結局は殺す気満々だねぇ)

 どの程度の毒がこの地を冒しているのかは分からないが、最悪の場合休眠状態をとろう。休眠状態になったならば、宇宙空間にいても生存できる耐性を持つことができるのだ。仲間が来るまで、それで何とかなるだろう。


 私は迷わず、その地に踏み入る。

 結界を無事にすり抜けると、手の甲の印が消えた。彼らはそれを確認すると、足早に去っていった。


 もう、彼らと会うことはないだろう。むしろ、もう会いたくはなかった。



 私は『魔の大地』と呼ばれる地を観察した。

「ここはすばらしいな」

 私は思わず声が出てしまった。


 この土地はこの星の人間なら、おそらく数日と経たないうちに死んでしまう死地。しかし、またしても彼らの誤算は、ここは私にとっては天国のような場所であったことであろう。

 昼は灼熱、夜は極寒、そして乾燥した大地。温度も湿度もちょうど良い。大気の濃度もすばらしい。そして何よりも、私たちがエネルギーとしている食べ物に近い構成を持つ無機物が自生していることであった。

 実際のところ、私たちの持つ科学力を使えば、結界など無いも同然なのだが、今のところ頼まれても出る気はない。やっと見つけた住みやすい楽園なのだから。



 これからずっと、この土地に住むのも悪くないかもしれない。

 この星の人間たちをどうこうするわけではないが、異質な私たちに出会ったのなら、彼らはどう思うだろう。

 私を迎えにきた人たちと此処で暮らすことになったら、どこかの御伽噺のように、この星に突然現れた魔の一族としてとして恐れられる存在になるだろうか。




「迎えを待つつもりが、逆に迎えることになるとは」

 私たちの長い旅は、ここで終わるのかもしれないのだ。


 今はまだこの楽園には私一人(イブ)しかいないが、もうすぐアダムやイブとなる者たちが来る。



 私はもうすぐ来るであろう船を、何世代にも渡って宇宙を漂ってきた故郷の船を待ちながら、未来を夢見ている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 初めまして。 中世風の魔女狩りと、SFの組み合わせがとても面白かったです。最後まで流れるように読んでしまいました。 主人公が知識を駆使して、穢れや呪いの皮を被せて病気に言及し、不埒ものを撃…
[良い点] 異星人が最後に辿り着いた結末が秀逸でした。 設定が凝っていて、面白かったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ