ホテルのロビーで出会いました
恋愛ものって初めてで、ウワワワワっていう感じです。エッチは無いです、あしからず。8/2続編投稿しました。シリーズ管理追加しました。8/5続編投稿しました。
二ヶ月振りに決まったデートを約束の十五分まえに「ゴメン今日も無理。また今度埋め合わせする」と言われた。何が無理なのかも言ってくれない。今日は二ヶ月前のデートのキャンセルの埋め合わせのはずなのに。仕事が忙しくなったって半年前に言われ、休みの日にすら会わなくなってもう、二ヶ月。約束もなくふらりと私のマンションに夜遅く思い出したように訪れてくれるから会ってはいた。何も見なければ気のせいでいられたのに、因りによって出くわすなんて・・・・・・・
『お互い一人になりましょう。左腕のひとによろしくお伝えください。尚、うちの合鍵は捨てて下さい。』
ドタキャンメールを受けた時には待ち合わせ場所にすでにいたので、そのまま帰るのも面倒になっていた。行く予定だったイタリアンはやめてホテルのレストランにしたのだが、食後ロビーに出たところで見てしまった。楽しそうにエレベーターの前で知らない女といちゃつく私の彼氏を。
あの時の私はすごく冷静で、二人の顔がよくわかるアングルでシャッターを押していた。しかも連写になっていたらしく、ロビーのソファーに座って後から確かめてもよく撮れていた。メールに添付しようかと思ったがやめておいた。メールを送信して、連写で撮った写メをながめていると不意に左側に影がかかった。
「さっきの盗撮よく撮れていたなら画像を売って欲しいのだが」
見上げると三つ揃いのスーツがよく似合う見た目三十過ぎのイケメンだった。パカーンと大きな口を開けてガン見した私は絶対オカシクナイ、いたってまっとーな対応だったと断言する。だが奴は普通は恥じらって頬を朱く染めるものであって、阿保面をすることじゃないと、あの日からちょうど一週間経った後に説教サレタ。
「もしかして、あの女性のお知り合いでしょうか?」
「ああ、婚約者だ。ソッチは男の方かな?」
ありゃりゃ、私よりついてない人発見!婚約ってよっぽどよね~ちょっとだけ手助けしても罰は当たらないよね~うん。他人の不幸で私ちょっとだけ立ち直ってるみたい!私やっぱり図太いんだね~
「はい、そうです。ほんとは今日夕食を一緒にするはずだったんですけど、今お別れメールしましたんで返事関係なくもう、他人です。写メなら喜んで提供しますよ」
「今送ったなら降りてきそうなんだが、そうすると証拠が役に立たないじゃないか」
「それが大丈夫なんです。ドタキャンのあとは翌日の昼間まで留守電になるし、音も出ないようにしているみたいです。確認さっきしたから大丈夫ですよ」
「かなり日常化しているようだ。キャンセルは初めてでは無いね」
長い足を組み直し、肘起きにかけた方の手を頬に宛てて息をついた。
何をしても絵になるとはこの人の事を言うのだろう、二十一時をすこし過ぎた時間だが着こなしに置いてもくたびれた様子はない。完全に鑑賞している自分に、失恋したのも重なって浮かれていたのかもしれない。後になって後悔するのだが、それはまた後日。
「二回目なんです。今日は前のキャンセルの埋め合わせだったの、後はだいたいここ二ヶ月の間の週末連絡をとろうと電話したらずーっと留守電。やっとつながって約束したら・・・・・こんな感じになってますねえ」
「二ヶ月前からか、だいたいこちら側とも重なる。会う回数が減ったのは半年くらいじゃないか?」
「そうです。仕事が忙しくなるからって」
イケメンはしばらく考えた後、モバイルを取出して調べ始めた。私から受け取った写真データをどこかに送信すると、電話をかけてデータ送信を伝えた。どうやら弁護士のよう、婚約不履行だとか契約打ち切りとか果ては結納金の返金と慰謝料を請求するらしい。金持ちって怖い((゜Д゜ll))。やっぱり生活水準は同じくらいが円満の秘訣よね~、その点私の場合付き合って一年半、実質一年って感じだけど民事裁判なんてめんどくさくってする気もおきないが、そうもいかない額なんだろうな。
ぼーっと眺めていると用事が済んだのか、こちらに向き直して懐に手を入れた。
「写真データが連写で十枚、一枚あたり一万円でどうだろう?」
と言われた。ビジネスモードになっていたので、口止めも込みなのはすぐにわかった。素直に受け取ってもう、関わりを絶った方がいい気がする。
「無料でもよかったんだけど、貰えるならよろこんで。それを軍資金に旅行でも行きます」
一瞬目を見開いてニヤリとした。目が合い、背筋がゾクッとしたが気のせいにしておく。背広の内ポケットからカードケースを取出して名刺を一枚抜き出す。私の前のテーブルに滑るように差し出された。
「プライベート用の名刺だ。その番号ならいつでも持ち歩いている。そちらの連絡先を教えてほしい。もしかすると、あの女から何かされるかもしれない」
そういわれると言いたくないとは言えなくなっていた。諦めて名刺を取り出す。けれど、プライベート用の名刺は作っていないので会社用を渡す。
「平日はこちらの方がつながりやすいです。休日は出張でもないかぎり、さっきのスマホです。」
「宮物産の、ふむ、創業者と同性だな、親族なのかな?」
あら目敏い。今はぐらかしても、ばれる時はばれるよね。
「社長が父の従兄弟にあたります。でもうちの父駆け落ち婚なんでほぼ無関係ですよ」
引き攣り笑顔で返事をする。なんだか薮蛇になってきてるわ。あまり話さないのが得策かもねえ。早くおさらばしちゃいましょっと~って思ってたのに!
「連名で訴訟をしょうか。その方がこちらとしても有利になるだろう。後日こちらの顧問弁護士の滝沢からそちらに連絡を入れさせるよ、何、名前を貸してくれるだけでいい。慰謝料が出ればそちらにお渡しする」
何、この人切り替えし早過ぎなのよ!アワアワしてる間に決定事項になってるし!止めてようううう。
「ちょっと待って、困り・・・・・」
「気にしないでいい、こちらですべてさせてもらう。いや、相談しているうち友情が含まれるのも悪くはないな。俺からも連絡を入れるようにしよう。今日はもう遅い、送っていこう」
断りを伝えようとしたが畳み掛けるように私の言葉を打ち消していく。しかもテーブルに置きっぱなしにしていた名刺をサラリと持ち、私のジャケットの胸ポケットに差し入れ、尚且つエスコートしてドアに向かっている。ホテルのドアマンもいつの間にか、彼の車を車寄せに配車していた。この連携も怖すぎる。
その後は理解不能の速さで自宅まで送ってもらい、住所まで掴まれたと気付いた時にはあらかた片付いていた。週明けの昼休み前に社長室への呼出しを受け行ってみると、金曜日の夜会った伊藤氏ともう一人インテリ風のイケメンだった。
「沙織ちゃん大変だったんだね、伊藤氏と滝沢氏にあらかた聞かせてもらったよ。付き合っていた、森くんだったよね、あそこの契約切ったからもう会うことはないよ。安心して」
枕営業するような会社ろくでもないからね~って他人が同席している話し方ではなく、プライベートな時のおじ様だった。私はパカーンとするばかりで返事もろくに出来なかった。社長のおじ様の横に座り、呆然とする私に伊藤氏はニヤリと笑い追い討ちをしかけてきた。
「沙織さんと金曜日の夜にあの二人に遭遇出来たのは、私にとってもラッキーでした。以前から疑わしかったので、興信所に依頼しようとしていましたから。あの時お互いの愚痴を言い合ってすっきりして意気投合したんですよ。」
「沙織ちゃん楽しいこでしょう!建基兄さんに似て頭の回転も速いから、いずれはこの会社沙織ちゃんに面倒見てもらうつもりで、今は総務から勉強させてるんです」
本人無視して私の話題で盛り上がる二人を、これまたマルッと無視する滝沢氏。シルバーフレームの眼鏡のズレを直し、私に名刺を手渡して軽く会釈した後は、書類を広げて数箇所指差しサインを求めてきた。金曜日に言っていた訴訟の用紙らしい。首を横に振って拒否すると、滝沢氏の隣にいる伊藤氏に合図を送っていた。二、三口会話した後叔父に向かって
「沙織さんは優しいお嬢さんですね。自分の分はいらないと言われる。こんなに優しい女性を袖にして、あんな尻軽女に行くなんて、森という男は女性を見る目が無いようだ。私の方は祖父どうし仲が良いため結ばれた婚約でしたから、逃げられて幸いです。宮久保社長もそう思われませんか?」
口から産まれたような、スルスルともっともらしい事を叔父にうったえる伊藤氏。言いくるめるとはこのことを言うのだ。私のことを無視したまま、話は進んだ。仕舞いには後見人として叔父もサインを入れていた。
その日はサインと雑談だけで終わったように思っていたが、新しい契約を伊藤氏の会社と結んだらしく、頻繁に会社に訪れては、終業時間に呼び出されそのまま食事に付き合わされる事が日常化していた。食事の時に初めて会ったときの伊藤氏の私に関する感想を拝聴したり、休日の過ごし方や最近嵌まっている事を気兼ねなく話せるようになった頃、伊藤氏は宣った。
「こんなに楽しく女性と過ごせるのは君が初めてだ。正式に付き合ってくれないか?」
あの金曜日からちょうど三ヶ月。何を血迷ったのか私に告ってきやがりましたよ。友情を盾に私を連れ回して置きながら!アワアワとしているうちに、私の返事を聞きもせず
「君の父上と叔父上には報告済みだ。とても慶んで頂いている俺の父や祖父にも了承済みだ。沙織が私のものになると言ってくれるだけで良い」
「ちょっと待って!告白すっ飛ばしてプロポーズになってない?」
「ふむ、それもそうか、沙織結婚しよう、改めて婚約指輪を用意するが、それまでこの指輪をはめて俺のものだと安心させてくれ」
スルッと私の右手を持ち、薬指にフラワーモチーフの指輪をはめてきた。某有名な水色のラッピングに入っている奴だ。彼自身気付いての行動ではなかったようだが用意しているものも、外堀埋めも、言葉も、いつの間にか調べたのか、指輪のサイズはピッタリで、デザインも私の好みを押さえていた。
ちょっと強引だが、この三ヶ月私はすごく楽しかったのだ。始めの内は胡散臭いので嫌々行っていたが。だんだんと伊藤氏の事が日常化しているのに、気付いていた。
私たち、ホテルのロビーで出会いました・・・・・・
fin.
感想あったらうれしいなO(≧∇≦)o