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ミューユの決意

 帰宅したミューユが居間に呼ばれると、今日はどういう訳だかミューユの父親も家に戻っていた。恐らくは今日の一件はすぐにミューユの両親の耳にも入っていたのだろう。

「ミューユ、そこに座りなさい」

 ミューユの父親が優しく声を掛ける。

「今日あったことは職場で聞かされて、急いで帰ってきたよ」

「パパ……!」

ミューユは緊張の糸がいっぺんにほぐれたのか、おいおいと泣き出してしまった。

「あなたがミューユに、メタルランナーの免許なんか取らせるから……!」

ミューユの母親も、涙ながらに父親をなじるような言葉を投げかける。

「よしなさい!」ミューユの父親は母親を制すると、ミューユにゆっくりと

語りかけた。

「ミューユ、私はお前がメタルランナーの免許を取りたいと言い出したときから、こうなることは実は薄々予測していたんだ……。」

「ええっ!?」

「……実はお前をザグラブに、という話は、父さんも前から職場で聞かされていたんだ」

「お父さんの職場で?」

「ああ、ミューユがメタルランナーに乗れることを職場でつい漏らしてこのかた、ずっと工場長からミューユをぜひザグラブに入れろと聞かされてきた。それで今日、職場で正式に党からミューユをザグラブに入れるように要請を受けた」

「……それ、断れないの?」

「断ったらパパは反革命分子として、矯正施設に行くことになるだろう」

「そんな!」

「心配しなくていい、パパは自分の娘を守るためなら、収容所にだって行くよ」

「そんなのダメよ!私、軍隊に行く!行って軍の人と話を付けてくるわ!」


 翌朝、ミューユは自分から出向くには及ばず、軍からの出迎えの車に乗せられていた。

 なんでも軍の重要機密とかで、目的地は明かされず、ミューユの眼にも目隠しのアイマスクをさせられていた。

「到着した。目隠しを外してもいいぞ」

 ミューユを連行してきた兵士がミューユに伝えると、そこはだれか将官の執務室らしき部屋の入り口であった。

 兵士がドアをノックする。

「少将、お連れしました」

「入りたまえ」

 兵士がドアを開けると、中にはアンティーク調の応接セットと執務用の机が置かれていて、年齢の頃なら三十路くらいの細身で背の高い、見栄えのいい男が座っていた。

 整った顔立ちに涼やかな目元、ミューユも息を飲むような美男子であった。

「どうも、ミューユ・タカオ君、手荒な真似をして済まなかったね、まあそこに掛けたまえ」

 少将と呼ばれた美男子は、ミューユに優しく声をかける。

「あ、あなたは……?」

「ああ、失敬。私の名はジョー・ナカギリ。北軍の特務少将をやっている。まあザグラブのボスだと思ってくれたらいいだろう」

「ザグラブのボスだったら話は早いです、私、ザグラブになんて入りませんから!」

 ミューユはナカギリ少将を見据えてきっぱり言い放った。

「ほう」

 ナカギリ少将は少し驚いたような様子で、

「ミューユ君、君はザグラブの仕事は、一体何だと思っているんだい?」

「ザグラブの仕事って……戦争でしょう?ザグラブは北軍の精鋭部隊だし。あと、軍の広報にもよく登場するから、北軍の宣伝もすることになるんでしょうか?私はそういうの興味ないんです」

 ナカギリ少尉はやれやれといった様子でミューユを見つめ返す。

「いいかいミューユ君、『ザグラブ』というのは単なる戦争の駒じゃないんだよ」

「それ、どういう事ですか?」

「『ザグラブ』というのは、『因子』、『素質』と言ってもいいかな、『素質』を持つ女の子が自分を鍛えるための場なんだよ」

「ますます何を言ってるんだか分かりません!」

 ミューユはナカギリ少尉にソファーから身を乗り出して詰め寄る。

「人間誰しも『素質』というものを多かれ少なかれ持っている。例えば勉強が出来るとか、スポーツが出来るとか、絵が上手だとか。これは分かるね?」

「……それは分かりますが……」

「そんな『素質』の中で、ザグラブに選ばれる女の子というのは、分かりやすく言えば『他人よりも物事の飲み込みが早い』という素質を持っているんだ。そして、そのザグラブに選ばれる子の『素質』というのは親から子へ遺伝しやすいことが分かっている。つまりは他人よりちょっとだけ優れた、選ばれた人間だっていうことだ」

「で、そんな人間を集めてどうするっていうんです?」

「つまりは、そういう『素質』を持った子を集めて戦闘訓練や政治学の講義を施し、その子が年頃になったところで、軍の中枢を担う人材や政治家と結婚させて子供を作れば、その子供は更に他人よりも優れた人間に成長する。その子供に更に教育を施していくことを繰り返せば、軍人なら無敵の戦士が、政治家なら救国の宰相が沢山産まれることになる。そうなれば北軍はこの戦争に勝てるし、北部連合政府も先々まで安定する。いわばザグラブというのは、北部のエリート人材を人為的に作ろうという壮大な計画なんだ」

「でも私、そんなエリートなんかじゃありません!」

「そこでさっき言った『素質』というのが関係してくるんだ。ミューユ君が昨日動かした白いAA、『スノーホワイト』というんだが、あれは『素質』が無い人間が操縦してもろくに扱えないような仕組みになっている。ところが君はあのスノーホワイトで敵機を撃墜してみせた。これはミューユ君に『素質』があるという動かぬ証拠なんだよ」

「あれは……たまたまの偶然です!」

「いや、偶然じゃない。君にはザグラブに入る『素質』がある」

「……それ、どうしても断れないんですか?」

 ミューユはすっかり困惑した表情でナカギリ少将を見つめる。

「ミューユ君がザグラブ入りを断ることは出来る」

ナカギリ少将はキッパリと言い切った。

「……ただし、ミューユ君が『素質』のある人間だということは、もう軍の知るところとなってしまった。ミューユ君はこの先、北部連合政府が倒れることでもない限り、24時間軍の監視下に置かれて生活することになるだろう。ミューユ君の交遊関係は全て監視され、手紙、電話、メッセージのたぐいは全て盗聴されると思っていい」

「そんな!」

「さらに」

ナカギリ少将は続ける。

「さらに南軍側も、我々のザグラブ計画のことを嗅ぎ付けている。もし万が一、我が北軍がこの戦争に敗北するようなことにでもなれば、ザグラブのメンバーはもちろんのこと、候補者として選ばれたミューユ君も、たとえ一般人として暮らしていても危険人物として抹殺される恐れがある」

「……それ、選択の余地が無いじゃないですか?」

 ナカギリ少将はミューユの眼をじっと見つめると、

「……こんな話を聞かせる私のことを恨むかね?」

「いえ、恨むとかどうこういう問題じゃないです」

「私はね……『素質』を持った人間というのは、同時にそれを有効に生かす『義務』が生じると思っているんだ。『素質』を持ちながらそれを生かさない人間は、いつか誰かに『狩られる』立場になる。ミューユ君は『狩る』立場になりたいかい?それとも『狩られる』立場になりたいかい?」

 ミューユはナカギリ少将の言葉に一瞬眼を閉じると、次の瞬間カッと見開き、

「……やります」

 静かに言い放った。 

「どうあがいたって逃げられないんなら、私、戦います!」

「よろしい。ミューユ君、君は今日からザグラブの一員だ。マオ隊長、入りたまえ!」

「失礼します!」

 若い女性の声がしたかと思うと、執務室のドアががちゃりと開き、先日ミューユと話をしたマオ・ナカジマと名乗る少女が部屋に入ってきた。

「先日も顔を合わせたと思うが、彼女がザグラブの隊長、マオ・ナカジマ大尉だ」

「ミューユ君、君はきっとザグラブに来てくれると思っていたよ、これからはよろしく頼む」

「よろしくお願いします!」

マオ隊長が差し出した手を、ミューユは力強く握りしめた。


 この後、ミューユを加えたザグラブは、オキャーマ各地でミキの率いる$-Duty隊と激しく戦火を交えることになるが、それはまたのお話で。


傭兵部隊$-Duty外伝「白雪姫は目覚める」<完>

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