メタルランナー部主将、ミューユ
オキャーマ北部、ヒルゼン国民中学校のグラウンドでは、「メタルボール」なる競技が行われていた。
この競技ルールは簡単で、コートのセンターに置かれたボールをお互いのチームが取り合い、パスをつなぎ合って相手チームのゴールエリアに入ったら得点が得られる。そして制限時間内により多くの点を取ったチームの勝ちとなる、要はラグビーとサッカーを足したような競技である。
ただ普通のスポーツと違うことは、競技者が全員民生用AA、メタルランナーに乗って行うということである。当然メタルランナーを使ってボール競技をするため、操縦の上手い下手でプレイの動きは個人によって段違いになってくるのがミソである。
そしてこの練習試合で、ヒルゼン国民中学チームキャプテンの背番号一番を付けたメタルランナーが、相手チームの執拗なタックルをすり抜けて、敵チームのゴールエリアにボールを叩き付ける。これがキャプテン、今回の試合で5点目のゴールである。
このキャプテンの機体は味方からパスをもらうや、蝶のような華麗な動きで敵チームのタックルをものともせず、他のメタルランナーをごぼう抜きにして、正確無比な操縦で確実にゴールを決めていった。
「ミューユ先輩、もう単独で5点目だなんて! すごい! 」
「かっこいいわねえ……。」
「ミューユ先輩、メタルボールだけじゃなくて、この前のジムカーナの試合もダントツ一位だったのよ! 」
メタルランナー部のマネージャー達は、キャプテンの華麗なプレイを見て口々に感嘆を漏らしていた。
そしてまたある日の放課後。
「おいタカオ、お前本当に士官学校に進学する気はないのか?」
ヒルゼン国民中学校の職員室で、うっすらと禿げた中年の男性教師が、受け持ちの生徒にため息混じりに問いただす。
「はい。私は普通科高校への進学しか考えてませんから」
タカオと呼ばれた黒髪の美少女は、担任の先生に取り付くしまもなく、力強く言い放った。黒い瞳に雪のような白い肌の彼女であったが、がっちりと張った顎の骨格が、意志の強そうな印象のある娘であった。
「お前なあ……。折角メタルランナーの免許まで取って、うちの学校のメタルランナー部の主将まで務めたのに、士官学校の推薦を受けないというのは、あまりにももったいないんじゃないのか?」
「私がメタルランナーに乗るのは、あくまで趣味ですから。『趣味を仕事にしてしまうと辛い』って、よく言うじゃないですか」
彼女は担任の勧めには、全く耳を貸すつもりはないらしい。
彼女の名は、ミューユ・タカオ。オキャーマ北部ヒルゼン国民中学校の三年生で、学校のメタルランナー部の主将を勤めていた。
この時代、オキャーマ南北紛争でのAAの乗り手を集めるために、各地の学校ではメタルランナーの免許取得が奨励されており、学校の部活動でもメタルランナーの運転技能を競うメタルランナー部というものが存在していた。そしてミューユはこの学校のメタルランナー部の主将を勤めていた。もちろん、メタルランナーの優秀な乗り手になると、北軍士官学校の推薦入試が受けられることをはじめ、一般企業への就職も俄然有利となる。
ところが、オキャーマ北部連合州は、目下南部諸州と紛争中である。
北部州の傘下にある国民中学校も、優秀なメタルランナーの乗り手は一般企業や普通科高校への就職をあっせんするよりは、士官学校へ推薦しておいた方が先生の「上への」受けは断然よくなるので、ミューユの担任も何度も口を酸っぱくして、ミューユに士官学校の推薦入試を受けるように勧めている訳である。
ところが、肝心のミューユはあまり戦争には関心がないようで、担任の先生からの熱心な説得もあまり耳をかしていないような状態であった。
「軍人なんてブラック企業もいいところですし、私はもう少し割のいい仕事に就きたいですから」
ミューユが突き放すように言うと、担任の先生は薄い髪の毛をかきむしって、
「タカオ、気が変わったらいつでも言ってこいよ。……もう帰っていいから、家でもう一度自分の進路についてよく考えてきなさい」
と、ミューユに諭すように言うと、とりあえずその場はミューユを解放した。