表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/14

十四

「ちょっと、イルにオリビアちゃん。こっち来てくれない?」


ある日、いつものように店じまいをしていた時、リサーナさんにそう呼ばれた。

テーブルを吹いていた手を止め、布巾を置いて近づいた。


「どうしました?」


「何か御用ですか?」


オリビアも、食器を洗っていた手を止め、俺の隣に並んだ。

数日の間にすっかりオリビアの言葉は流暢になり、看板娘としても人気は上々だ。

当たり前だけどな!


「あぁ、二人に渡したいものがあったのさ」


と言って、リサーナさんは手に持っていた二つの封筒をそれぞれに手渡した。

俺はそれを受け取り、光にかざして見る。

中身は…お金?


「二人ともよく働いてくれているからね。少しはずませといたよ」


オリビアはまだ中身がわかっていないようで、これは何かと目で尋ねてくる。


「この中身は給金ですね」


「ああ。二人が来てから丁度一月ほど経ったしね」


俺の言葉に、オリビアはハッとして、リサーナさんを見つめた。

リサーナさんも、そんなオリビアを優しく見つめた。

オリビアはもう一度、封筒を見て、感慨深く感じたらしい。

目に涙を溜めて、ただ黙って深々とお辞儀をした。


「明日からも、頑張っておくれよ」


「「はい!」」


俺たちは声を揃えて返事した。



・⚪︎●○●○●○●⚪︎・



「いやー、嬉しいもんだなぁ。自分で稼いだ金かぁ」


「感慨深いですねぇ」


オリビアもうっとりと目を細め、封筒を抱きしめる。

…あ、そうだった。


「オリビア、ちょっと寄り道して行かない?」


「寄り道ですか?」


オリビアは不思議そうに首をかしげる。

普段は、買い物に行く時などはオリビアから言ってくるのだ。

しかし今日は俺から言ったことが不思議らしい。


「初給料は、オリビアのために使おうって決めてたんだ」


俺はにっこり笑った。



・⚪︎●○●○●○●⚪︎・



「ル、ルイスさん、私はこの服で十分だと…!」


「いやいや、服が二つだけってのも不便だろ?」


「でも、別にここじゃなくても…」


オリビアは気まずそうに辺りを見回す。

オリビアが心配してるのはお金のことだろう。

なんたってここは町一番の高級衣服店なのだから。


「この前、オリビアに似合いそうな服が飾ってあったんだ。買うならやっぱここかなぁって。実はもう予約済み」


きちんと中身も確認済みの給料袋を受付のお兄さんに渡す。

お兄さんも了解しましたとばかりに袋を受け取り、奥へ引っ込んで行った。

すぐに戻ってきたお兄さんは、ありがとうございました、と言って大き目の紙袋を渡した。

俺はその紙袋を受け取り、オリビアに渡そうとして…固まった。


「ル、ルイスさん…!」


オリビアの眉は下がりに下がり切っていて、それどころか目もうるんでいた。


え、そんなに嫌…?


「や、泣くほど嫌なら無理強いはしな…」


「嫌じゃないんです!…ありがとうございます」


慌てて紡ぎ出した言葉は、オリビアの笑顔によってかき消された。

俺の前で泣き笑いするオリビア。

そ、そんなに服が欲しかったのか…。

よし、また買ってやろう。


…あ、師匠の分買う金が残ってねぇ。

家に住まわせてもらって、さらに剣術も教えてもらってるのに。

そんな師匠の忘れてたとか。

どしよ。


オリビアと帰路につきながら、俺は内心焦っていた。

脳内会議で決まった結果、その日、俺は自主的にいつもの倍のトレーニングを行った。

すみません師匠!

次は師匠になんか買ってきます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ