十一
天気のいい昼下がり、草原にシートを敷いて幼女と手作りお弁当を囲む。
最早不思議とも思わない。
そしてそのお弁当。
飾りっ気のないバスケットに入れられていたのだが、見てください、この色彩豊かなサンドウィッチ。
「おぉ、すげぇ!」
思わず声も出ますとも。
「えへへー。がんばりました」
オリビアが満面の笑みを浮かべた。
褒められて嬉しいようである。
いやはやしかしまぁ。
本当に綺麗に作ったなぁ。
何種類かのサンドウィッチがバランスよく並べられ、脇には緑葉野菜や赤色のプチトマトなんかも散らされている。
とても美味しそうだ。
「ポテトサラダもありますよ。スプーンとフォークももってきてます。あっ、冷たい飲み物もありますよ。どうぞ、お召し上がりください」
「おっしゃー!どれにしよっかなぁ」
「あぁ、いただこう」
俺はまず、バスケットの中のサンドウィッチを取り出した。
中身は…シーチキンか。
「いただきまーす!」
がぶりとサンドウィッチにかぶりついた。
シャクッと鳴った緑葉野菜に、溢れ出るシーチキンの汁。
こ、これは…!!
「美味いぞ。オリビア」
師匠に先越されたーー!!
微笑みながらオリビアの頭を撫でる師匠。
そんな師匠にオリビアは照れ笑いを浮かべた。
「ありがとうございます。ルイスさんはどうですか?おくちに…あいませんでしたか?」
オリビアに話をふられ、慌てて何度も頷く。
口の中のサンドウィッチを飲み込み、口を開いた。
「うまいうまい!すげぇ美味しいよ!オリビアはいいお嫁さんになれるなぁ」
そう俺が言うと、オリビアは顔を真っ赤にした。
「そんな、およめさんだなんて…。あっ、おちゃ、あったかいおちゃもあるんです。えっと…たくさんたべてくださいね?」
「ああ!いただくな!」
俺はそう言って、残りのサンドウィッチを口に入れる。
次は師匠の食ってた玉子にしようかな。
・⚪︎●○●○●○●⚪︎・
「あー…うまかった。腹いっぱい」
そう言いながらぽっこり膨れた腹を撫でる。
ポテトサラダも美味かった。
師匠はオリビアの持ってきた温かい紅茶を飲んでいる。
オリビアは後片付けをテキパキと終わらせていた。
オリビア、たった数日のうちに家事が板についてきてるなぁ。
そよ風が俺の頬を撫でた。
草木が揺れる。
あぁ〜。
すげぇ気持ちいい。
やっぱ自然っていいなぁ。
腹も膨れて、天気も良くて景色も良くて。
今すごく幸せだって、感じる。
もっと自然を感じたくて、シートからおり、草原に寝転んだ。
やべえ。
もっと気持ちいい。
空は青く、雲ひとつない。
ゆっくりと、瞼が落ちる。
なんだか、世界と一体になってるみたいだ。
再び、そよ風が草原を駆けた。
・⚪︎●○●○●○●⚪︎・
「おいルイス。特訓を再開するぞ。…おいルイス。寝てるのか」
男の影が、眠るルイスの顔にかかった。
男の声に、ルイスはまったく反応しない。
男とは反対の側からオリビアが、ルイスの頬をちょんちょんとつつく。
しかし、ルイスは少し口を開いただけで、いっこうに目覚める気配はない。
「あらぁ、じゅくすいですねぇ」
そんなアホ面の先程とったばかりの弟子に、男はため息を吐いた。
「まったく…仕方のないやつだ」
「ルイスさんらしいですね。わたしもおひるねしようかなぁ?」
オリビアはルイスの隣で地面をパンパンと叩いた。
オリビアは、ルイスに選んでもらった真っ白なワンピースが汚れるのを懸念したが、そんなオリビアに男は自らの上着を放り投げた。
「…好きにしろ」
言葉だけは乱暴な男に、オリビアは微笑んだ。
「そうします。おにいさんは?」
「俺は本でも読むとしよう。特訓は休憩だ。おやすみ」
「はい。おやすみなさい」
男は元いた木陰へ戻り、オリビアは男の上着を下に敷き寝転がった。
すると、ルイスが寝返りをうち、オリビアの方へ腕を伸ばした。
オリビアは微笑み、その腕に頭を乗せる。
ルイスの腕が枕に、暖かな太陽の光が少女の毛布となった。
オリビアは満足そうに笑う。
「おやすみなさい」
・⚪︎●○●○●○●⚪︎・
ガスッ。
突然の衝撃。
俺の頭が蹴られた音。
俺は、突然頭を蹴られたことで、眠りから覚めた。
「起きろ、ルイス」
蹴られた頭を撫でながら、起き上がる。
気づけば眠っていたようだ。
「…起きました、師匠。俺寝てたんすね」
「あぁ。口からよだれを垂らし、アホ面を晒しながらな」
「嘘っ!」
ばっと服の袖で口を拭く。
そんな俺に、師匠は真顔で言った。
「嘘だ」
嘘かよ。
「…俺どのくらい寝てました?」
そう言いながら、立ち上がる。
あれ?師匠の上着…。
眠った時よりも肌寒い気がするけど、師匠どうした。
「小一時間ほどな」
「そんなに!?」
「オリビアも一緒になってごろ寝で昼寝してたぞ。今も木の根元で眠ってる」
師匠が指差した先に、オリビアが木に凭れかかっているのがわかった。
ご丁寧にシートも敷かれ、オリビアには上着もかけられていた。
その脇には木刀が置かれている。
「あの上着、師匠のですよね。ありがとうございます」
さっき心のなかでどうしたなんて言ってごめんなさい。
そんな思いも込めて師匠に会釈。
「あぁ。…じゃあ、お前がところで、特訓を再開するぞ」
「はい師匠!木刀とってきます!」
ダッシュ。
特に離れてるわけもないのですぐにつく。
木陰はさらに肌寒い。
木刀を持ち、オリビアを見る。
オリビアは体をぶるりと震わせ、小さくクシャミをした。
「………」
・⚪︎●○●○●○●⚪︎・
「師匠!行きますよ!!」
「あぁ、こい」
二人が特訓を開始する。
眠るオリビアは二つの上着に包まれ、幸せそうに微笑んだ。