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ヘイト村
人口は100人程度、多くは農業を営んでおり、中でも武に自信のある者などはこの村専属ハンターとして活動している。
商業の発達は遅れ気味、宿屋のおばちゃん曰く「店をやってる奴は趣味でやっているようなもん」との事。
村の資金もちろん税を課す事によって賄われるらしいが、微々たる物なので村おこしもできない。
いわば詰んでいる村。それが相田広の感想。
「で、俺らどうしたらいいのかね」
俺らは宿屋兼酒場でビールのような物を飲みながら今後の方針を相談する。
―え?未成年…?ビールのようなものなのでいいんです。大事な事なのでもう一度言います、ビールのような物です。自分の心にそう言い聞かせる。
「なぁーに心配すんな!今からダリア村長に会いに行って、家の一つでも――」
「ちょったんまたんま!!そんな事できっこねーよ!ずうずうしい」
「あぁ?ずうずうしくったってそれしかねぇだろ?大きい街のギルドじゃねぇんだ、初心者支援なんてしてくんねーぞ?」
大きな街のギルドにもなると『ハンター初心者応援キャンペーン』なんていう、池袋あたりで派遣の人が立って入会者を募集していそうなキャンペーンをしているらしい。
田舎の村から出てきたハンター達の自立支援らしく、ダンさんが宿屋に置いてあったチラシを手渡してくれる。
そこには『生活が安定するまでしっかりサポート!!』『安心・安全の薬草採集なんと報酬2倍!!』そのチラシには大々的に『い・ま・だ・け!!』と見出しがある。
俺は一体誰が作ったんだ、この見るからに“怪しいチラシ”と思いダンさんに聞くと、応募者もなかなかの物でこの村の若いの何人かは巣立っていったらしい。
「大きな街にもなると、依頼数もハンターの数も尋常じゃねぇのに、報酬が少ない採集の依頼をこなすハンターが少ないんだそうだ。レベルの高いハンターにお願いすんのもなんだしって事で、新人ハンターが都会に出てくれば万事解決!ってなったんだと」
「2倍なんて出してて大丈夫なのかね……ま、俺はここで色々と勉強してからじゃなきゃな」
「ま、とにかく村長んとこいくしかねぇだろ。ベルタ!お勘定!」
そう言って会計を俺達の分までしてくれたダンさんは村長の元へと案内してくれた。
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――トントン
柄にもなく優しいノックをしたおっさんに意外だなぁ、なんて感想を抱きつつ扉が開かれるのを待つ。キィっと扉が開くと栗色の髪をサイドに纏めた女性が出て来た。
「あら、ダンさん。ここに来るなんて……そちらの方は?」
「おう!!俺が拾ったフィロとキャスだ!」
「こんにちは、突然すいません。俺はフィロと言います、こっちは妹のキャスカです。」
一向に名前を覚えないダンさんに苛立ちを覚えつつも自己紹介した。
目の前にいる女性が村長――には見えないな。若すぎる。20代前半にしか見えない。目鼻立ちがはっきりしているが、決してしつこくない。ま、さっと言っちゃえばめっちゃ美人。
そして顔の下に目が行く……そこには豊作だったのか実りに実ったメロンが二つ……。
(うん、この村に何がなんでも住む)
「拾った…?まぁ、とりあえず入ってください、詳しい事は中で。今お茶をお出ししますね。」
俺達は案内された部屋で勧められた椅子に座った。
しばらくするとティーセットを持った村長さんがニコニコしながら来た。
「お久しぶりですね、ダンさん。結婚してからちっとも顔ださないから心配していたんですよ」
「がっはっは、ジェシカから聞いてんだろ」
「そうですけど、たまには顔出すぐらい……」
「おめぇもそろそろ結婚しやがれ!!いいぞぉ〜結婚は。へへへ」
「もうダンさんったら。あ、失礼しました。私はこの村の村長を勤めさせていただいてます、ケリーと申します。詳しい事情を聞かせていただいても?」
俺とダンさんは互いに目を合わせ頷くと、用意してあったシナリオをペラペラと話し出した。
と言っても、ダンさんは嘘をつけないような人だから俺が8、ダン1、キャスカ1ぐらいの割合だったが。
「そうですか…記憶を……。そうゆう事でしたら、このヘイト村でぜひ!働き手として歓迎します。」
「ありがとうございます!」
「それでよ、こいつら記憶がねぇから家もねぇんだよ」
韻を踏んで若干ドヤ顔をしたダンさんにケリーさんはフフフと笑って言った。
「今空き家がない状態でして、この家でよければ住んでもらってかまわないですよ。」
そそそそそ……そんな!ケリーさん、僕の理性が悲鳴を上げてしまいます!!
「だっだめですよう!ひろ――お兄ちゃんは独身の男ですよ!!一緒に住むなんて」
あっこのやろう!余計な事を言いやがって!!
「ふふふ、こんな可愛らしい妹さんと一緒に住んでたら大丈夫ですよ。もちろん部屋は別ですしね。」
「あ、ありがとうございます!!」
「お兄ちゃん!!」
んだよギャーギャーとうっさい!!こんな美人と家が一緒って事はもちろん、家がない俺らに家を貸してくれるっていうのは良いことだろ?!
「本当にありがとうございます、この恩はかならず……」
クスクスと笑い、ケリーさんは家の中を案内してくれた。
家は二階建てで、一階にリビング、キッチン(まぁキッチンといっても竈のようなものと、石造りの流し台?しかない)玄関には廊下があり、そこは裏庭に通じる扉と、二階にいける階段があった。二階に行くと、丁度部屋が3室。中に入ってみたが質素だが窓があり日の光が入ってきてて心地のいい部屋だった。
「生活用品はあとで揃えに行きましょうね」
俺達は部屋割りを済ませ、リビングで待つダンさんの所に戻った。
「よう、どうだった?いい所だっただろう!俺のひいじいさんが作ったんだ!文句はいわせねぇぞ!がはは」
「はい、とってもいい所でした」
満面の笑みで答えるとダンさんはそうだろうと満足そうに頷いた。
「じゃ、そろそろギルドに顔出すか!じゃあなケリー今度はジェシカと来るぜ」
「はいはい、期待しないで待ってます。じゃ、んとフィロくんにキャスカちゃん。いってらっしゃい」
ニコリと笑うその様はまさに天使といった風貌でそれはもう強烈な勢いで鼻の下が伸びた。キャスカがまた「ぶうー」と鼻を膨らましていたがそんなのどうでもよかった…
あぁ、ケリーさんいいわー。あの癒してくれそうな顔に似合わずいやらしい体。さすが異世界。一体いくつなんだろう?彼氏いんのかな。
そんな事を考えているうちにギルドの前についていた。
「ここがハンターギルドヘイト支部だ、よっしじゃ行くか!」
中に入るとそこはベンチが何脚かあり、左側に採集掲示板、狩猟掲示板、その他依頼掲示板と書かれた大きなコルクボードのようなものがあった。右側には受付カウンターと書かれた窓口に人が二人座っている。
「おう!元気か?!今日はハンター志望を連れてきてやったぜ!!」
「あ、ダンさんー!おぉ!ありがとうございますですニャ!さぁさぁ、こちらの部屋にお入りくださいですニャ!」
ん?猫耳が生えてる150センチくらいの女の子が受付からでて来て、俺達の手を引っ張り掲示板の横にある扉へと連れ込まれた。
中には、記入用紙がおかれた台と大きな鏡が一枚だけの殺風景な部屋だった。
「さ、これに名前だけ書いてくださいですニャ。書いたら一人づつ鏡の前に立ってくださいですニャ」
言われるままに名前を書き、俺が先に鏡の前に立つ。
キュイーンと機械的な音が鳴り出しバシュッと鏡が光ると
「ダンさん、これはひどいニャ。魔法力がちっともないニャ。」
鏡の裏で扉の外で待つダンさんにブツブツと文句を言った。それ。俺の事ですよね……?
「さてさて、お嬢さんの番ですニャ、んにゃ?何しているんだニャ」
「お、お兄ちゃん恐いよ……」
キャスカはさっきの光に怖気づいたのかへっぴり腰になって震えていた。
「大丈夫ですニャ。情報を写すだけニャ。魂までは持っていかれる事は今まで一度もなかったから安心するニャ」
「ほら、キャスカ。大丈夫だって」
俺に手を引っ張られ鏡の前に立つとまた機械音がなり始め、バシュっと光った。
「ニャッハッハー!!これはすごいニャ!!10年に一人?いや20年に一人の逸材ニャ!!さすがはダンさんニャ!!」
え、どゆこと……俺よりキャスカんですごいの……???