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朝日に照らされ目を覚ますと頭がズキっと痛んだ。あぁ、そういえば俺、殴られて……意識なくしたのか。
頭にあんな衝撃を食らったのは初めての経験だ。たんこぶができてないけど、大丈夫だろうか…。
まさかぽっくり逝ってしまったりするんじゃ。
ベットに腰かけそんな事を考えていると、リビングの方から楽しそうな声が聞こえてきた。
「あはははー!!ジェシカさんすごいうまい!!」
「きゃあ!どうしましょ!ぶつかってしまったわ!」
(一体何をしているんだ…?)
なぜかすごく気になりそっと扉を開けて隙間から覗いてみる。
俺の方から見ると二人は背を向けていて何をしているかよくわからなかったが、ジェシカさんが左右に動いている。
「むむむ……。広ちゃんの気配……!!」
あすかがそう言って振り返った。なんだよあいつ…いつから忍になったんだよ…。
俺はそっと覗く事を止めリビングに出た。
「何してんだ?」
「おっはよー!ジェシカさんにね、アプリやらせてたの!」
画面を覗きこむと男性が全力疾走で遺跡のような所をスライディングして火を避けたり、ジャンプして石を避けたりしながら走ってコインのようなものを取っていた。
「お前、何やらせてんだよ……。」
俺が呆れた風にそう言うとあすかはとんちんかんな事を言ってきた。
「ジェシカさんすごい上手いんだよー!!ほら点数見て!!」
もう一度画面を覗きこむと、た…確かに俺のハイスコアよりずっと高い。
長年やってきた俺をゲームすら今日初めてやった奴にあっさり越されちょっぴりショックを受けた。
よろめきながらジェシカさんから離れると携帯から『わああー』と言う声がした。
「あらあらー、フィロシさんが覗きこんだせいで気が散って落ちてしまいましたわ、うふふ」
さらっと死んだ事を俺のせいにしたジェシカさんに心の中で舌打ちをしつつ、画面を覗くとトータルスコアは2,169,884を叩きだしていた。
「アスカちゃん、これはすごいのかしら?」
自慢とも取れる事を言いながらあすかに携帯を渡す。
「うん、あすかとか広ちゃんより――」
「いや、こんなのはざらにでる得点ですね。初心者中の初心者です。で、ダンさんは?」
早口にそう言うとあすかが口を尖がらせて「子供みたいだぞー!!」とか言ってるが、気にすべきではないと判断する。
「ダンなら今薪を割りに行ってますよ、家の裏手にいますからどうぞ」
そう言って勝手口に案内してくれた。
俺はバックからペンとノートを取り出して準備をし勝手口を出ると、そこには上半身裸のむさくるしいおっさんが額から出る汗をキラキラと光らせていた。
「おはよう、ダンさん。昨日は寝かせてくれてどーもありがとう」
半眼で見ながら棒読みで言うと、ダンさんはひょいっと斧を上げ切り株にグサっと突き刺した。
「おう!よく眠れたか?腫れなかっただろう!俺の拳骨は大陸一の絶妙なテクニックだぞー!がっはっはっは」
「いやーよかったよかった、それ以上戯言を言うならぶち殺すとこでしたよ。あっはっはっは」
出会って間もないがおっさんの性格は把握しつつある。
これがきっと俺らのコミュニケーションだろう。
「ダンさん、昨日の続きなんだけど。」
あぁ、と言ってダンさんは切り株の隅に座った。
「わかんねー事だらけでまず何から聞けばいいのかもわかんないんだが、とりあえず俺達の国には魔法なんてものはない。
そんなのは御伽噺とか空想のものだ。これについて何か注意すべき点は?」
手に持ったノートとペンを握り今後俺らが元の世界に帰る方法を見つけ出すまでの生活手段を確立する為に重要な事は書きとめておく。
作戦を立てるのにも、復習できる環境があった方がいい。
「注意もなにも……魔法が使えねー奴なんているのか?」
ダンさんいわく、魔法の得意、不得意の差はあるが誰もが魔力を持ち、努力をすれば習得できるものらしい。
「俺に魔力はあるか?」
「さぁな。俺はハンターだがそこらへんの知識はからっきしだ。この先にあるヘイト村のギルドに行って調べてもらうんだな。」
ギルドだと……?!じゃあ、魔法に関しては後々か。
「ハンターには俺達でもなれるのか?この世界のお金ってどうなってるんだ。あと一般的にここの人々はなにを生業として生活してるんだ?」
「誰でもなれるって訳じゃねーよ、試験がある。ある程度力をつけてからじゃなきゃ無理だ。」
金に関してはルピーと呼ばれるらしい。銅貨一枚で1ルピー、銅貨100枚分で銀貨一枚、銀貨100枚で金貨一枚。
10ルピーもあれば一家4人の質素な一食分らしい。
大体、村や街で客商売をするか、ハンターになるか。ダンさんみたいに自給自足をしている人も少なくない。
特殊な例は魔法に長けた人は専門職と呼ばれる、色々な意味の先生になる事もあるそうだ。
学校だったり、医者だったり。
「じゃあ、俺は何が変だ?!」
「おいおい!小僧、さっきっから質問が曖昧でよくわかんねーよ!」
「あぁーだから…その、バーバラの街に行く前にこっちで違和感がないくらいにはなりたいと思ってるんだよ。
見た目とか、名前とか、ここの常識が分からないから。で、俺って変?」
ダンさんはいやー…と言いつつも、いろいろ指摘してくれた。
まず黒髪はあんまりいないがいる事にはいる。顔に至っては元々ハーフっぽさがあったから違和感はないが
あすかは見ない顔立ちだと言うこと。それは奇異の目で見られるレベルか聞いたら、見られる可能性は否定できないと言われた。
名前は二人共変だ、とはっきり言われた。まぁ俺なんかちゃんと呼んでもらえてないしな。
仕方ないので改名する事を伝えると、そうした方がいいと賛同してくれた。
「ところで…あすかが言ってたんだけど、この先にある村?で門番と猫の耳が生えた人を見かけたそうなんだけど…」
この世界には、獣人が存在するらしい。人間よりも身体能力の一部が優れているだけで、きちんと意思の疎通は図れるし
絶対に差別なんぞするな、と釘を刺された。ここの世界の人達に差別?いやいやすべてがつっこみ所満載ですから。そうゆうもんだくらいに捕らえてとかなきゃダメでしょ
門番がいて、俺らは村に入れるのか?と聞いた所、そこはダンさんに任せてくれと言われた。
「記憶喪失の兄妹だって事にして俺が面倒を見てるって言ってやる」
ありがたい……
「おっさん、本当お人よしだな。」
「けっ!!ありがとよ!!」
さっそく昼食を取ってから、村に挨拶に行く事になった。




