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「ん……」
強い光に照らされ俺は目を覚ました。
と、同時に愕然とする。
――え、なにここ、ええぇ?!
目の前にはザーザーと流れる綺麗な川があり、川の向こうには森が広がっている。
俺が座っている場所は大小の石がゴロゴロと転がっており、石の隙間からは草がちょこちょこ頭をだしている。
「いつの間にかBBQスポットに来てしまったようだ。あすか、肉ある?」
いない事も、BBQスポットじゃない事もなんとなくわかっているがやらせてほしい。
じゃなきゃここどこなんだよ!って頭が発狂しちゃうから。
一先ず俺は恐る恐る川に近づき覗きこんでみる。
――透き通ってる!!
あまりの綺麗さにびっくりしていると、端に飛び跳ねるニジマスみたいな魚を俺の目がキャッチした。
――跳ねてる!!
俺が住んでた街にこんな綺麗な川はない。都会の中の田舎だったが、ヘドロみたいなドブ川しかない!
ましてやあんな虹色に輝く魚は家から車で4時間30分ぐらい走らなければ見れない。
あすかも見当たらないし、なんなんだよ。
俺はふて腐れたように川岸にドカっと腰を下ろした。
ザワザワと森が揺れ、川には数匹の魚がピシャピシャ音を立てながら元気に跳ねている。
それをボーっと眺めていると心が落ち着いてきた。
――マイナスイオンが出てるって本当なのか。
まぁ、これでようやく俺の置かれている状況を考える事ができる。
まっまぁ、仮に、仮にだよ?ここが異世界だとして、まず何故俺が?
見た目以外はいたって平凡だと思う。
ライトノベルに出てくる主人公のように、元々なにかの武術に長けてるわけでも、何かの知識に詳しい訳でもない。
何をやってもまぁまぁできるが、長けてる訳ではない、器用貧乏ってやつだ。
まっまさか!この容姿で呼ばれたか?!
いやいや、待て。確かに地元ではちょっとハーフっぽい日本人としてかっこいいなんてもてはやされたが
異世界の男は粒ぞろいだってイメージだ。俺の目鼻立ちも村人Aぐらいのモブキャラなんじゃないか?
見てはいないがその線でいくとすると……俺なんでここにいるんだ……。
「はぁ〜……考えたってわかりっこないよな。」
そりゃそうだ、どんな小説の中の主人公だって何もかも始めからわかってるわけじゃない。
俺は川に口を当て思いっきり吸い込むと、ブホォッっと吐き出した。
で……電気!ビリってきた!!
「ほ、ほんとひ、どほなってんらよ……」
舌が痺れて上手く喋れない、あんな綺麗な魚がいるのに飲めないのか?!
まさかこんな事で死ぬなんて事ないよな……
俺は怖気づいて痺れる体を引きずりながら川から離れ大きめの石に座った。
大丈夫だ、大丈夫。
俺は川の水を飲んで死ぬ為にここに来たんじゃない!
頭ではそう繰り返すが、どうしても川に目がいってしまう。
俺は弱気になる心を意識しないようにもう一度考えに耽る事にする。
小説なんかで行くと、そろそろ誰かと会ってもおかしくないな。
エルフなんかが出てきて、それが絶世の美女で。でもなんか冷たい感じだけど、旅をするにつれ仲が深まってデレっちゃたり……
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魔王を倒した後に、エルフの里に行ってみると、リンダはエルフのお姫様で「この里を治めるのに正にふさわしい伴侶です」なんて――
俺が空を見上げると、そこにはキラキラと光り輝く星達が……
うん、まぁね。結論としては誰もこなかった。
いや、あの妄想は段々と寒くなっていく俺の心を暖める為ハッピーエンドにしたのよ。
まぁ脳内クエストで中ボスを倒したあたりから可笑しいな、とは思ってたんだよ?
エルフどころか森の動物の一つもいないしね。
あった事は忌々しい川に住むあの魚がピシャンと音を立てて跳ねるぐらい。
勇者の剣を取りに行ったあたりでは、若干冷や汗も出てきたよ。
もしかして、誰もこないんじゃないの?って。
でも信じる事は大事だって事で、魔王まで倒しに行ったけどね。
……うん。
なんか行動しなきゃな!