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キーンコーンカーンコーン……



「……なんの音だ?」

「ん?この響き、音の大きさ、長さから推測するに……チャイムだな。」


俺がそう答え「チャイムだな」の瞬間に顔を上げると、担任の上田先生が日誌で手をトントンと叩きながら立っていた。

顔は笑顔だが目が笑っていない。


「よ……よーし!じゃ!帰りますか!」


背中に嫌な汗が流れるのを感じ、俺が席を立った瞬間パコーンと日誌で頭を叩かれた。


「お前授業中に何やってんだ!!こんのばかもの!!」

「いって、いて!ちょっ!先生、悪かったって!暴力反対!」


ポカポカと頭を叩かれ、早くも降参する。


「ったく……なんだそれは」


苦笑いしつつも上田先生は聞いてきた。


「あぁ、これ?ゲームだよ。知らない?」

「ばかやろう!俺だってそんぐらい分かるよ!」

「「はっはっはっは」」


まぁ、大体こんなやりとりを毎日している。

友達がいない訳でも、勉強ができない訳でもないんだが何かと声をかけてくれる。

ありがたい話なんですけどね。


「じゃ、先生。俺帰るよ!」

「あぁ、あんま調子のるんじゃないぞー!」

「わかったわかった、はいはい。」


笑顔でそう言うともう一度頭を叩かれたが、なんか父ちゃんみたいな存在で嬉しい。

ちょっとデレてしまったが、これが俺の高校ライフである。


「広ちゃんなにしてるのー?!」

「うるさいのがもう一人でたよ……」

「もう一人とはなんだ!先生の事か!ったく。篠原、相田が悪さしないようにちゃんと見張っとけよ」


はっはっはと一人で大笑いして去った先生の背中を見送り、俺は目の前にいる女の子を見る。


篠原あすか。近所の子でなんの因果か小学校から高校まで一緒。

なにかと口うるさくて、上田先生とお似合いだと思う。俺の父ちゃん母ちゃんって感じ。


「朝言ったじゃん!一緒に帰るからCクラスまで迎えに来てねって!」

「知らん。覚えてない、というより何故?」

「んもーう!私おば様から広ちゃんの事よろしくね!って頼まれてるんだからぁー!!」

「んだよ、うほうほ言ってないでちゃんと日本語喋ってくれよ」

「――なっ!!女の子にそんな事言ったらダメでしょー!!」


ブリッ子体質のあすかは怒ると頬をプクっと膨らませるが、それと同時に鼻の穴まで膨らんでいる事をしらない。

顔はまぁまぁ可愛いので『おバカワイイ』と言う新ジャンルを捧げてやりたくなる。


「ちょっと広ちゃん!聞いてるの?!」

「はいはい、じゃあ帰りましょ。で、どこ寄りたいの?」

「わー、やっぱ広ちゃんは私のパートナーだー!以心伝心、周波数ぴったり♪あのね、新しいカフェができてー、そこに奈々ちゃんと博美ちゃんが行ったらしいんだけどねー、ゴールデンパフェって言うのがあってー――……」


こうなったあすかはもう止まらないので、適当に相槌を打ちながら校門に向かう。


「でも和江おばさんに怒られるから夕飯までには帰るぞー」

「――ゴールデンパ……わ、分かってるよー!私もお嫁になる身としておば様には嫌われたくないもんっ♪でね!ゴールデンパフェを食べると――」


そう、俺には両親はいない。

おばさんと呼んではいるが血の繋がりはない。無口で人を睨みつけるような目つきをしていたらしい俺を選び施設から引き取ってくれた優しい人だ。

今ではそんな目つきもしないが、引き取った当初は部屋の隅で毛布に包まっておじさんを子供とは思えない目つきで睨んでいたそうだ。

おじさんはプリンで俺を手名づけたんだぞ、と今でも言う、想像すると笑える。

記憶も曖昧だ。両親の事など覚えてない。


「いった!……あーまたやられた!もう!!」


ただ一つ言える事は両親は美形だったんだろうという事。

あすかが上履きを振ると中からコロコロと画鋲が転がる。

顔も見た事ないが、俺のファンからのお土産らしい。


「広ちゃんから言ってよー!!」


あすかはそう言うが、顔も見た事ないし、接触した事ないのだ。アピールの一つもないんじゃ目星もつけられない。


「お前さー、毎回ってレベルで入ってんだったら履く前になんとかしろよ」

「えー!なんであすかに怒るのよー!」

「バカだから。大体本当に俺のファンなのかよ?見た事ないぞ?大方お前のクラスの女子だろ。」

「あすかいじめられてないもん!!」

「いや、俺にはそいつらの気持ちが分かる、うん、うざいもんな〜お前」

「ちょっと広ちゃん!本気で怒るよー!!手紙入ってる時もあるもん!!広ちゃんに近づくなって!」

「あぁ、それ俺の生き霊かもな……」

「んもー!!!」


他愛もない話をしながら歩いているとピタっとあすかが止まる。


「ん?何してんだ?」


あすかは上を向いたまま口をあけ佇んでいる、目は瞳孔が開き俺の声が届いていないようだ。


「おい!!あすか!!どうしたんだよ!!」


あすかを揺さぶろうと肩に手を置こうとしたらあすかの身体を通り抜けた。


――はぁ?!どうなってんだ!!


混乱する俺の耳にあすかの声が聞こえる。


「ひっ広ちゃーん!どこ行っちゃったのー!!」


目の前にいるあすかを見てみても、変わらず口を半開きにし瞳孔が開いたまま同じポーズで立っているだけだ。

ど、どうなってんだよ一体!!


「きゃ!!」


短い悲鳴が聞こえたと同時に俺の目の前はまっくらになり意識は遠のいた。















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