嘘吐きな道化師
昔ある街に、人気者の道化師がおりました。
この街はそれほどお金持ちでなく、また小さな街なので楽しみがなく、唯一の娯楽がこの道化師の曲芸でした。
道化師は広場で踊ったり、玉乗りをしたり、お手玉をしたり、見えない壁にぶつかったりしました。
「すご~い!」
「こんなのは初めて見た!」
また、時々ワザと転んだり、失敗したり、おどけて見せて、見ている人の笑いをとりました
「あはははっ!」
「道化師がまた転んだぞっ!」
今日も道化師は人気者でした。
しかし道化師は、少し抜けているところがありました。
「おい!また店のパンを勝手に食べただろう!」
「洗濯物を汚したのはお前かい?」
道化師は勝手に売り物を食べてしまったり、人の物を汚したり壊してしまうことがあったのでした。
だから街の大人たちは、道化師の事を困った奴だと思っていました。
そんなある冬の日
「大変だ!倉庫に火がついているぞ!」
街の代表の息子が叫びました。
その倉庫には、冬の間に食べ物がなくならないように、街の人全員分の食料が蓄えられていました。
街の代表の息子が誰より早く気付き、消火作業がすぐに行われたので、冬が越せるだけの食べ物は残りました。
しかし、これは大問題でした。
もし全て燃えていたら、街の人たちは全員飢えて、何人かは死んでしまっていた事でしょう。
しかも残った食料だけでは、お腹が空く事になります。
「犯人は誰だ?」
「懲らしめるべきだ!」
街のみんなで犯人探しが始まりました。
「僕は道化師の姿を見たよ!」
街の代表の息子が言いました。
なるほど、道化師ならそんなことをしてもおかしくない。
皆が納得して、道化師を縛り上げました。
「おい!倉庫に火をつけたのはお前か!?」
「なんでそんなことをしたんだ!?」
口々に人々が聞きましたが、道化師は何も言いません。
痺れを切らした人が、言いました。
「もしお前が犯人なら首を縦に振れ、そうじゃないなら横に振れ」
道化師はしばらく辺りを見渡して、首を縦に振りました。
「やっぱりそうか」
「ならば罰を与えなければ」
街の代表がそう言って、道化師を一晩、縛って広場においていく事になりました。
街はもうすっかり冬で、外はとても寒いです。
「かわいそうだよ!」
「許してあげようよ!」
子供たちは大好きな道化師が死んでしまうのではないかと心配で、街の大人にそう言いましたが
「いいかい、悪いことをしたらおしおきされるんだ、ちょうどこの道化師みたいにね」
大人たちはそういって、子供をつれて家に帰ってしまいました。
街にだんだんと雪が降ってきて積もり始め、ついに吹雪になってしまいました。
家の外はもうれつな吹雪で、一歩も外に出れません。
子供たちは道化師を助けようとしましたが、大人が許してくれません。
朝になって、広場に集まると、道化師は冷たくなっていました。
子供たちは悲しくて悲しくて泣いてしまいました。
大人たちも殺してしまおうとは思っていなかったので、道化師を不憫に思いました。
「なに、私たちが死んでしまっていたかもしれないのだ、気に病む事はない」
街の代表がそう言って、道化師は街の公共の墓地に埋葬されました。
数年後、街は少し大きくなりました。
それも代表の息子が今の代表になり、懸命に努力したからです。
街の酒場で、もう大人になった子供たちが話をします。
「実は昔、どうしてもお腹が空いてパン屋のパンを食べてしまった事があったんだ」
「それなら僕は、あの角の家の時計を壊してしまった事があったよ」
実は道化師がしたと思われていたいたずらなどは、当時の子供たちがやっていた事があったのでした。
すっかり年寄りになった当時の大人たちも話をします。
「昔道化師がした事になっていた、洗濯物を汚してしまったのは私だったんだ」
「そうなのか、実はわたしもとなりの家の薪を少し、勝手にもらってしまったんだ」
当時の大人たちも、道化師のせいにしていた事がありました。
「そうか、でもあの倉庫に火をつけたのは、道化師だよね」
「それはそうさ、そんなことは人のせいにはしないよ」
皆それだけは、自分がしたといいませんでした。
さらに数十年後、代表の息子だった少年も、もうヨボヨボのおじいさんになり、街はさらに大きくなりました。
おじいさんは街の皆に尊敬されていました。
おじいさんはいいました。
「もう私には後がない、どうしても言いたい事がある」
街中の人が集まり、おじいさんの最後の言葉を聞きたがりました。
「実は昔、倉庫に火をつけたのは私だったんだ」
倉庫で遊んでいた少年は、父親からお土産でもらった水晶で遊んでいました。
キラキラと輝く水晶は、見ていてとても楽しかったのです。
しばらくしてお昼ご飯に呼ばれて、少年は水晶を置いてお昼ご飯を食べにいきました。
また倉庫に戻ってきてビックリ、なんと水晶によって集められた光りの先で火が出ていたのでした。
少年はとっさに水晶を隠し、火を消すため大人たちに呼びかけました。
しばらくして火が消えて、犯人探しとなった時、少年は事の重大さに気付きました。
(僕はなんてことをしてしまったのだろう!)
少年は嘘をついて、道化師のせいにしようとしました。
けれど道化師は、うんともすんともいいません。
道化師がやってないと言えば、火事の原因をより詳しく調べる事になるでしょう。
そうすれば、少年がやってしまった事が、ばれてしまうでしょう。
少年は泣きそうな顔で道化師を見ていました。
少年と道化師の目が合いました。
道化師は、そこで全てを悟りました。
道化師は、頷きました。
少年は、助かったという思いと、罪悪感でいっぱいでした。
翌朝、道化師が冷たくなっているのを目にして、少年は泣き崩れました。
それから少年は、道化師に助けてもらったこの命を人のために使うと決めて、一生懸命に働きました。
「だから、街が大きくなったのは、その道化師のおかげなんだ」
街の人々で、道化師の事を知っている人はもういません。
しかし、おじいちゃんが懸命に働いていたのは知っています。
それから、街では冬になると、道化師の姿をして、お祭りをすることにしました。
何十年、何百年と時間がたっても、お祭りは行われるのでした。
普段書いている物とはまったくジャンルが違うので上手く書けたかわかりませんが、感想をいただけたら嬉しいです。
童話ってこんな感じでいいんでしょうか・・?