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万華鏡  作者: SORA
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砂漠の城

ジンはグレートの背中に乗ってしばらく行くと海が見えてきた。

空高くから見る海は太陽の光に反射してまぶしいばかり。


「客人よ。我が主の棲家はあの海の近くにある。これから降下するからしっかりとつかまれよ」

グレートはそういうと体を右の方に傾け、降下し始めた。

ジンは下腹部がなんともいえぬ違和感をかもし出していたが、急降下の恐怖に声も出ない。


グレートが少しスピードを抑えたので下の方をのぞいてみると、大きなお城がそびえたっている。

あまりに大きくてジンは言葉を失った。

しかし、色が砂漠と同じ色をしておりこれではグレートが案内しなければたどり着くことは到底できないだろう。

城の真ん中に大きな中庭があり、まるでオアシスのようにそこだけが雰囲気が違った。

そこにグレートは降りていった。

グレートが近づくと池の水が波立った。

ジンがグレートから降りると、グレートは言った。

「私が案内できるのはここまで。ここから先は別の者が案内する」

そう言うと、グレートはまた空高く飛び立って行った。

「ありがとう」

聞こえているかどうかはわからないが、ジンはつぶやいた。

ジンがあたりを見回すと、灰色の瞳をした猫がジンの方をじっと見つめた。

あれか?案内してくれるやつは。

ジンは猫の方へと向かった。

猫は何も言わなくてもわかるようで、ジンの1メートルほど前をジンの歩くスピードにあわせて歩いた。

城の中は大理石が敷き詰められていてとても涼しい。

ジンの耳に響くのは風の通る音とヒタヒタと二人の歩く音だけだ。

こんなに大きな城なのにだれも住んでいないのだろうか?

ジンは廊下の突き当たりの大きな赤い扉の前にたどりついた。

「この先で我が主はお待ちである。ここから先は一人で行くようにとのことである」

猫はそういうと、一礼して元来た道へ戻って行った。

ジンは深呼吸をするとドアを押し、部屋の中に入った。

部屋はとても広く、天井がとても高い。

壁も床も白で統一されていて唯一王座へと向かう絨毯だけが赤い色をしている。

絨毯の先の王座には椅子が一つ。

その椅子に座っているのは何とも言えぬ不思議な生き物だ。

体の形はジンと同じ人間の形をしている。

しかし、肌が全部青いウロコでできてきて指と指の間には水かきがついている。

腰に白い布が巻いてあり、その上に大きなベルトをつけている。

あのベルトは剣をかけるためにあるのだろう。

童話に出てくる人魚というより魚人だ。

「ジン、よく来たな」

魚人はそういうと、立ち上がった。

「我はこの城の主、名はルーシーと申す。そなたが来ることは何年も前から分かっていた。魔神に会いに行くのだろう?」

ジンは黙ってうなづいた。

このルーシーという魚人には何か師匠と同じようなものを感じる。

きっと強い魔力の持ち主なのだろう。

「あの姫君のために仕事をするのは気に食わんが、おぬしのような優秀な命が絶たれるのはもっと気に食わん。」

「姫さまのことを知ってるんですか?」

「あぁ、私に知らないことはない。おぬしがこれから会いに行く魔神は私の古くからの友人でな。君らのことを何年も前から聞いていたんだ」

魔神の友人?!

ならこの旅も少しは楽に済ませそうだな。

ジンは安心した。

「もう出航の準備はできている。しかし、この海はちと危険でな。魔物たちが眠る早朝に出航する。それまで部屋で休むといい。」

ルーシーはそう言うと指をパチンと鳴らした。

すると再び猫が姿をあらわし、ジンについて来いと合図した。

ジンは一礼すると猫に続いて部屋を出た。

思っていた以上に早く魔神に会える。

ジンはうきうきしながら猫についていった。

猫が急に口を開いた。

「そんなに魔神に会えるのがうれしいか?」

「あぁもちろん。これで寿命が延びる」

「魔神はとても恐ろしい。気をつけないと命を落とすぞ」

「・・・・・・え?」

「さぁついた。この部屋は自由に使うがいい。外に出るのは勝手だが、迷子にはなるなよ。見ての通り今日は明日の出航のために乗組員は全員で準備をしていて城にいない。出発の時間に部屋にいなかったら置いていくからな。」

ジンの案内された部屋はとても質素だが使い勝手のよさそうな部屋だ。

大きなベッドが真ん中にあり、横には食事の用意がされていた。

ジンはおなかがすいていたことに気がついた。

今日は今までの人生が凝縮されたようにいろいろなことがありすぎて空腹のことまで頭がいかなかったのだ。

ジンがパンにかぶりついていると窓から風が入ってきた。

今頃師匠は何してるのかなぁ。

ジンは持ってきた粉を調合し始めた。

さすがに何も言わずに出てきたのはまずかったかなぁ。

ジンは手紙を書くとつるの形に折り、そのつるに調合した粉をふりかけた。

「必ず師匠のとこに行くんだぞ。もし他につかまるようなことがあったら手紙の内容を消し去ってくれ」

そういうとつるは飛び立っていった。

手紙を書いたところで何かかわるもんでもないが、とりあえず師弟関係を絶たれないようにとジンは心底祈っていた。

ベッドで横になるとジンはすぐに眠りについた。





ジンが目を覚ますとあたりが暗くなっていた。

いったいどのくらい寝たのだろうか。

ジンは頭をかきながらベッドから降りた。

窓から入る風がジンの体を芯から冷やした。

ジンはテーブルクロスをマフラー代わりにまいて部屋から出た。

迷子にならない程度に・・・・・・。

城にはどこにも明かりがついていないが、窓がたくさんあるので月明かりが入った。

昼間は白く見えた大理石の廊下が月の光に照らされて青白くとても不気味に輝いている。

昼間は聞こえなかった波の音がジンの耳で響いている。


ジンは中庭にたどりつくと花壇のふちに腰を下ろした。

一度眠ってしまったからか眠れそうにない。

ここで待っていれば明日の出発の時に誰か通るだろう。

ジンが空を見上げると眩いばかりの星空が広がっている。

こんなにきれいな星空を見たのは初めてだ。

特に大きく輝く星がある。

ジンがその星を眺めているとだんだんと星が大きくなってきた。

ついに月にならぶほどの大きさになると、星が急に羽を生やした。

「ジーン!」

ジンは耳を疑った。

星がしゃべったからだ。

今日は動く石造やしゃべる猫、魔神と友人の魚人などあらゆる不思議な生物に遭遇したが星が話すのはそれ以上に・・・・・・いや、比べ物にならないくらい不可思議なことだ。

星は月ほどの大きさを保ちながらジンの目の前で止まった。

「このへんでいいかな」

星はそういうとクルッと一回転した。

すると光っていた体から光が消え、星の正体が浮かびあがってきた。

光が完全に消えるとウサギに羽が生えたような生き物が現れた。

「シショウから伝言預かってきた!!」

ウサギはジンのひざの上でぴょんぴょん飛び跳ねた。

「シショウこう言ってた!『頑張れ!』って」

「それだけぇ?」

ジンはウサギの言葉を聞きがっくりと肩をおとした。

「後、『シショウは城で姫のとこにいる。姫の病気がとうとう姫の体を蝕み始めた。もうそんなに長くない。心配だからこいつを送る。』だってサ!それでオレ来た!」

「師匠が君を?何で?」

「オレ師匠とどこでも会話できる!簡単なことしか伝えられないけど」

「えぇ?!それってすごいことだよ!」

「すごい?すごい?オレ褒められた!」

「君の名前はなんていうの?」

「オレ、アース!」

ウサギはそういうと後ろを向いた。

そして、首につけていたバンダナをはずすと青く輝く魔方陣が出てきた。

ジンがウサギを抱き上げて魔方陣を観察していると急に声が聞こえた。

「ジンか?」

「その声は師匠!?」

「あぁよかった。アースが無事にたどりついたのだな」

「えぇ、今さっきこちらに到着しました」

ジンは懐かしい師匠の声に涙があふれた。

「おいおい何を泣いておる」

「今までいろんなことがありすぎて・・・・・・・師匠の声を聞いて安心したんです」

「お前には悪いことをしたな。本当ならわしがやるべきことをお前に押し付けてしまった。すまない」

師匠の言葉にジンは胸が詰まった。

「師匠、俺がんばるよ。だからあの汚い家で待っててくれよ」

「汚いは余計じゃ」

師匠の笑い声が小さく聞こえた。

ジンはウサギをきつく抱きしめた。

俺が頑張らなくちゃ。

これは俺の運命だもん。

師匠やほかの人を巻き込むわけにはいかない。


師匠は両親のいない俺にいろいろなモノを与えてくれた。

ジンは戦争孤児だ。

父も母も優秀な医者だった。

二人とも戦争に呼ばれ、幼かったジンは両親の古くからの知り合いの師匠のもとに預けられた。

そして、二人が帰ってくることはなかった。

身よりもないジンを師匠は快く迎えてくれた。

ジンの薬師としての素質を見抜き魔法も知らなかったジンに一から教えてくれた。

俺はまだ師匠に恩返しをしていない。

だからそれまで死ぬわけにはいかないんだ。


ジンはウサギを放すと言った。

「俺、絶対死なないから」



もう空はうっすらと輝きだしていた。





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