第3話「集まる音」
第3話です。
新たな出会いが重なり、少しずつ形になっていきます。
それぞれの想いが交わる瞬間を、楽しんでいただけたら嬉しいです。
ライブハウスの扉を開けると、昼の静けさが広がっていた。
奥では、れいじが一人でギターを鳴らしている。
「……来たか」
「は、はい」
短いやり取り。
まだ少し緊張する。
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「……他の方は来るんですか?」
ふたばは少し遠慮がちに聞いた。
「ドラムはあとで呼ぶ」
「そうなんですね」
バンドと言いながら、まだ全然揃っていない。
そのとき――
ドアが開いた。
「……あー、あった」
入ってきたのは、一人の女だった。
ボブヘアに、グリーンとグレーのメッシュ。
無造作なのに、妙に目を引く。
ふたばは思わず目で追ってしまう。
(……誰、この人)
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「……何、いるじゃん」
女がれいじに気づく。
「忘れ物取りに来ただけ」
「そうか」
それだけの会話。
でも、距離が近い。
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「ちょうどいいじゃん」
カウンターから店長が声をかける。
「美月、ちょっと弾いてかない?」
「は?」
女――美月が眉をひそめる。
「どうせ暇だろ」
「……もうやめんだけど」
あっさりと言う。
ふたばは思わず目を見開いた。
(え……やめる?)
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「もったいねぇな」
店長がため息をつく。
「お前のベース、かなりいいのに」
「……別に」
「いいから、ちょっとだけ」
少しの沈黙。
美月は一瞬だけ考えて――
「……まあ、ちょっとなら」
そう言った。
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「決まりだな」
れいじが立ち上がる。
「合わせるぞ」
「え、今から!?」
ふたばは思わず声を上げる。
「当たり前」
やっぱり逃げ場はない。
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スタジオスペース。
れいじがギターを構える。
美月がベースを肩にかける。
「……久しぶりかも」
小さく呟く。
「いくぞ」
ギターが鳴る。
ベースが重なる。
その瞬間――
空気が変わった。
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ふたばはマイクを握る。
怖い。
でも――
声を出す。
震えている。
下手だ。
それでも、止めない。
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そのとき――
「おーい!」
ドアが勢いよく開く。
「れいじ呼んだ?」
大きな声とともに入ってきたのは、長身の男。
「はじめ」
「お、なんかやってんじゃん!」
状況を一瞬で理解する。
「混ぜろ混ぜろ!」
「勝手に入れ」
れいじが淡々と言う。
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ドラムが加わる。
リズムが入った瞬間、音が一気に生きる。
さっきとは、まるで違う。
完全に――
バンドの音だった。
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「……っ」
ふたばの声が、音の中に溶けていく。
まだ未熟。
でも、確かにそこにいる。
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曲が終わる。
一瞬の静寂。
「……いいじゃん」
最初に口を開いたのは、美月だった。
「え?」
「思ったより、全然いい」
少しだけ笑う。
「下手だけど」
「うっ……」
「でも、ちゃんと刺さる」
その言葉で、胸が熱くなる。
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「な?」
店長がニヤリと笑う。
「音、合わせると変わるだろ」
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「どうする?」
れいじが美月を見る。
短い問い。
少しの沈黙。
美月はベースを見て――
小さく息を吐く。
「……まあ、暇だし」
視線を上げる。
「少しだけ付き合ってやるか」
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「よっしゃ!」
はじめが笑う。
「バンドじゃん、これ!」
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名前もない。
まだ何も決まっていない。
でも――
確かに、ここにある。
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偶然みたいな出会い。
バラバラだった四人。
それでも。
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音は、ひとつになった。
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これが、すべての始まりだった。
第3話を読んでいただき、ありがとうございます。
ついにメンバーが揃い、物語が大きく動き出しました。
まだ名前もないバンドですが、ここからどんな音を作っていくのか、ぜひ見守っていただけたら嬉しいです。
次話では、バンドとしての第一歩が描かれていきます。
よろしければ、感想や評価もいただけると励みになります。
引き続きよろしくお願いします。




