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第26話「夜の距離」

第26話です。


対バンを終え、打ち上げへ。

少し肩の力が抜けた中で、それぞれの関係や距離にも変化が見えてきます。


ぜひゆっくり楽しんでいただけたら嬉しいです。

ライブが終わったあと。


 そのまま打ち上げになった。


 店長の提案で、ライブハウスの近くの居酒屋。


 テーブルには料理と酒が並ぶ。


「いやー、よかったじゃねぇか!」


 はじめがビールを掲げる。


「今日のライブ、過去一ってことで!」


「それは間違いないね」


 美月が頷く。


「まあ、そのあと全部持ってかれたけど」


「それな」


 笑いが起きる。


 乾杯。


 グラスの音が重なる。


 ふたばも少しだけ口をつける。


 緊張が解けて、体が軽くなる。


「……ほんと、よかったな」


 店長が言う。


「ちゃんと“バンド”になってた」


「……ありがとうございます」


 ふたばは頭を下げる。


「でもよ」


 はじめが笑う。


「BLACK NOVAは反則だろ」


「レベル違いすぎ」


 美月も苦笑する。


「……ああ」


 れいじも短く答える。


 その一言で、少しだけ空気が締まる。


 でも――


 どこか前向きだった。


「まあ、だからいいんだろ」


 店長が言う。


「目標がはっきりした」


「……ですね」


 ふたばも頷く。


 迷いはない。


 やることは見えている。


「しかしよ」


 はじめがニヤっとする。


「今日一番の衝撃は別だよな」


「……オーナーさん?」


 わざとらしく言う。


 れいじを見る。


「やめろ」


 即答。


 でも少しだけ呆れた顔。


「いやいや」


 はじめは止まらない。


「マジでお前のなの?」


 ストレートに聞く。


「……まあ」


 れいじが短く答える。


「“まあ”で済ませるなって」


 笑いが起きる。


「一階のコンビニは?」


 美月が聞く。


「母ちゃんと妹」


「え、あの人たち?」


「うん」


「……普通すぎてびっくりした」


「普通だろ」


「いやいやいや」


 はじめが笑う。


「で、お前も手伝ってんの?」


「たまに」


「マジかよ」


 さらに笑いが広がる。


「二階の楽器屋は?」


 ふたばが聞く。


「外注で入ってもらってる」


「外注?」


「メンテとか色々あるだろ」


「……確かに」


「近くにあると便利なんだよ」


 実用的な理由。


 少しだけ現実感が増す。


「三階からは?」


「三階から九階はマンション」


「で?」


「十階」


 れいじが言う。


「母ちゃんと妹と三人で住んでる」


「……」


 一瞬、全員止まる。


「いや、もうスケールおかしいって」


 はじめが笑う。


「さっきまで普通に一緒に演奏してたのに」


「ほんとそれ」


 美月も頷く。


 でも。


 どこか空気は軽い。


 さっきまでの重さは、もうない。


「てかさ」


 美月がグラスを持ちながら言う。


「私も雇ってよ」


「は?」


 れいじが眉をひそめる。


「バイト」


「人足りてる」


「いいじゃん、ベース弾けるし」


「関係ないだろ」


「じゃあコンビニ」


「もっと関係ない」


 即答。


 笑いが起きる。


「えー」


 美月は少し酔っている。


 そのまま、れいじに少し近づく。


「看板娘とか」


「絶対やめろ」


「ひど」


 笑いながら肩に軽く触れる。


 距離が近い。


「……」


 ふたばはその様子を見ていた。


 胸の奥が、少しだけざわつく。


(……なんで)


 わかっている。


 でも。


 認めたくない。


「ふたばも飲みなよ」


 美月が言う。


「え、あ、はい……」


 グラスを持つ。


 でも味がよくわからない。


 視線が、どうしてもそっちに行く。


 れいじと美月。


 距離が近い。


 自然に話している。


 それが、気になる。


「……どうした」


 れいじがふと聞く。


「え?」


「さっきから静かだけど」


「い、いえ……」


 慌てて目を逸らす。


 顔が少し熱い。


「疲れたか?」


「……ちょっとだけ」


「まあ無理すんな」


 それだけ。


 優しい。


 でも――


(……なんか)


 さっきの距離との差が、余計に気になる。


 胸の奥がざわつく。


「……ふーん」


 美月が小さく笑う。


 全部わかってる顔。


「なに」


「別に?」


 楽しそうに飲む。


 完全に遊んでいる。


 少しだけムッとする。


 でも、言えない。


 店長が笑う。


「若いっていいねぇ」


「うるせぇ」


 れいじが返す。


 また笑いが起きる。


 賑やかな時間。


 楽しい。


 でも。


 それだけじゃない。


 ふたばの中に、新しい感情が生まれていた。


 音楽だけじゃない。


 この場所。


 この関係。


 全部が動き始めている。


 胸の奥が、少しだけ騒がしい。


 その理由は――


 もう、わかっていた。


 でも、まだ言葉にはできない。


 グラスを持つ。


 少しだけ飲む。


 夜は、まだ続く。


 音も。


 想いも。


 ゆっくりと重なっていく。


 その中で――


 確かに、何かが変わり始めていた。


 夜の距離は、少しずつ縮まっていく。


第26話を読んでいただき、ありがとうございます。


ライブ後の打ち上げということで、これまでとは少し違う空気の回になりました。

れいじの生活やこの場所の背景も見え、物語の奥行きが少し広がったのではないかと思います。


そして、ふたばの中に生まれた新しい感情――

音楽だけではない“もう一つの変化”にも注目していただけたら嬉しいです。


ここから物語は、さらに関係性と成長の両方が動いていきます。

よろしければ、感想や評価もいただけると励みになります。


引き続きよろしくお願いします。


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