第24話「やり直す場所」
第24話です。
対バン直前、それぞれの想いがぶつかり、空気は最悪の状態に。
そんな中で、これまで語られてこなかった過去が明かされます。
ぜひ最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
開演まで、あとわずか。
ステージ裏の空気は、張り詰めていた。
さっきまでのざわめきが嘘みたいに、静かだ。
「……いくぞ」
れいじが低く言う。
軽い音出し。
確認のはずだった。
でも――
合わない。
はじめのリズムと、美月のベースがわずかにズレる。
れいじのギターも、どこか硬い。
そして――
ふたばの声が、浮く。
(……ダメだ)
集中できていない。
頭の中にあるのは――
さっきのこと。
AIDAレコード。
社長の息子。
知らなかった過去。
知らなかった距離。
全部が、邪魔をする。
曲が止まる。
沈黙。
「……ちっ」
はじめが舌打ちする。
「バラバラじゃねぇか」
誰も否定できない。
そのとき。
「……その状態で出るのか?」
低い声。
振り向く。
神崎翼。
「話にならねぇな」
静かに言い切る。
言い返せない。
事実だった。
空気が凍る。
そのとき。
「……話すか」
れいじが口を開く。
覚悟のある声。
「……さっきの話」
「全部、本当だ」
逃げない。
「昔、デビューした」
「親の力でだけどな」
淡々と。
「曲も方向性も全部決められてた」
一拍。
「自分の音じゃなかった」
空気が重くなる。
「……俺は」
そして。
「逃げた」
その一言が、深く刺さる。
「全部投げて、やめた」
沈黙。
そのとき。
扉が開く。
「……俺はな」
店長だった。
ゆっくりと中に入ってくる。
「ガキの頃からこいつを見てきた」
れいじを見る。
「昔、親父さんの下で働いてたんでな」
軽く言う。
でも、その言葉には重みがある。
「バンド辞めたって話を聞いてな」
一歩前に出る。
「しばらく、何も手につかなかったらしい」
ふたばの胸が少しだけ締めつけられる。
れいじは何も言わない。
「その話を、親父さんにしたんだよ」
店長は続ける。
「そしたらな」
一拍。
「こいつが二十歳の時に」
「お詫びと、お祝いを込めて」
「このビルを贈ったんだ」
――沈黙。
「……え?」
ふたばの声が漏れる。
「……全部?」
はじめも驚く。
「マジかよ……」
現実感がない。
このビル。
今、自分たちがいる場所。
それが――
れいじのもの。
店長は続ける。
「でもな」
「こいつは断った」
その一言で空気が変わる。
「……え?」
ふたばが思わず聞く。
「受け取る理由がねぇってな」
店長が苦笑する。
「らしいだろ」
はじめが小さく呟く。
確かに、そういう人だ。
「でも」
店長が続ける。
「いつまでもそんな顔してても仕方ねぇだろって話になってな」
一拍。
「母ちゃんと妹にも説得された」
「……」
れいじは少しだけ視線を落とす。
「それで、渋々だ」
自分の口で言う。
「最初はな」
静かな声。
「正直、どうでもよかった」
でも。
少しだけ周りを見る。
スタジオ。
この場所。
「……何かやるなら」
「ライブハウスだと思った」
はっきりと言う。
ふたばの胸が動く。
「それで」
店長が引き取る。
「親父さんに言われて、その手伝いをしてるうちに」
少しだけ笑う。
「気づいたら、ここの経営を任されてたってわけだ」
あっさりと言う。
でも。
その裏にある時間と想いは、重い。
ふたばはれいじを見る。
遠い人じゃない。
違う世界の人でもない。
迷って。
逃げて。
それでも。
自分で選び直した人。
「この場所はな」
店長が静かに言う。
「逃げ場所じゃない」
一拍。
「やり直す場所だ」
その言葉が響く。
ふたばの中で、何かがはっきりする。
距離が変わる。
遠かったものが、近くなる。
同じ場所に立っている。
「……」
息を吸う。
迷いはない。
「……もう一回、やりませんか」
ふたばが言う。
強く。
まっすぐに。
れいじが見る。
そして頷く。
「……ああ」
はじめが笑う。
「やっと戻ったな」
美月も構える。
「遅いよ」
でも優しい。
音が鳴る。
今度は違う。
ズレない。
重なる。
気持ちが揃っている。
完璧じゃない。
でも。
“バンド”だ。
曲が終わる。
誰も言わない。
でも、わかる。
いける。
アナウンスが流れる。
時間だ。
ふたばはマイクを握る。
ステージへ向かう。
隣には、れいじ。
もう距離は同じ。
過去も。
立場も。
全部知った。
それでも。
一緒に音を鳴らす。
それが答えだ。
この場所で。
この音で。
証明する。
ここは、やり直す場所だ。
第24話を読んでいただき、ありがとうございます。
れいじの過去や、この場所に至るまでの経緯が明らかになりました。
一見すると遠い存在に見える彼ですが、その中には迷いや葛藤、そして“やり直したい”という強い想いがあったことが伝わっていれば嬉しいです。
このライブハウスは、ただの舞台ではなく、それぞれがもう一度立ち上がるための場所でもあります。
ここからのステージで、彼らがどんな音を鳴らすのか、ぜひ見届けていただけたらと思います。
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引き続きよろしくお願いします。




