第23話「知らなかった距離」
第23話です。
対バン当日。
いつもとは違う空気の中で、思いがけない“事実”が明らかになります。
それぞれの気持ちが揺れる中、ステージはすぐそこまで迫っています。
ぜひ最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
対バン当日。
ライブハウスは、いつもとはまるで違う空気に包まれていた。
人の多さ。
熱気。
ざわめき。
すべてが、今日の特別さを物語っている。
「……すごい人ですね」
ふたばは思わず呟く。
「まあな」
はじめが軽く笑う。
「ほとんどBLACK NOVA目当てだろうけど」
その言葉に、少しだけ胸がざわつく。
でも。
やるしかない。
控室に入る。
準備を進める。
声出し。
確認。
落ち着かない空気。
そのとき――
「お疲れ」
扉が開く。
神崎翼と、BLACK NOVAのメンバー。
一瞬で空気が張り詰める。
「……どうも」
はじめが頭を下げる。
ふたばも慌てて続く。
翼は軽く室内を見渡す。
そして――
れいじを見る。
「……相葉、れいじ」
その呼び方。
少しだけ空気が変わる。
「まだその名字使ってんのか」
軽く言う。
でも、その奥に何かある。
「……関係ないだろ」
れいじが返す。
短く。
ぶっきらぼうに。
翼は少しだけ笑う。
「まあいいけど」
視線が、ふたばに移る。
「ボーカルか」
品定めするような目。
「……はい」
思わず背筋が伸びる。
「へぇ」
一拍。
「そういう感じで組んだんだな」
軽い言い方。
でも、どこか引っかかる。
「……」
ふたばは言葉を返せない。
翼はそのまま、れいじを見る。
「お前にしては、ずいぶん普通だな」
その一言。
空気が少しだけ張りつめる。
はじめが眉をひそめる。
美月は無言のまま、様子を見ている。
「……ちゃんと説明してんの?」
翼が言う。
何気ないトーン。
でも。
意味のある言葉。
「……」
れいじは何も言わない。
視線も動かさない。
沈黙。
その空気が、逆に重い。
翼は小さく息を吐く。
「……ああ、なるほどな」
納得したように頷く。
そして、ふたばたちを見る。
「知らないならいいけどさ」
一拍。
さらっと言う。
「こいつ、AIDAレコードの社長の息子だから」
――音が消えた。
「……え?」
ふたばの声がかすれる。
理解が追いつかない。
「相田守」
翼が続ける。
「聞いたことあるだろ」
ある。
音楽業界のトップ。
「その息子」
れいじ。
目の前の人。
「……うそ」
思わず漏れる。
はじめも固まる。
「……マジかよ」
小さく呟く。
美月はじっとれいじを見ている。
何も言わない。
でも、すべてを理解している目。
ふたばは、無意識にスマホを取り出す。
検索する。
すぐに出てくる。
記事。
動画。
再生する。
映像。
ギターを弾く少年。
歓声。
拍手。
“天才”と呼ばれている。
でも。
顔は同じ。
「……っ」
言葉が出ない。
隣では、はじめも覗き込む。
「……すげぇじゃん……」
でも、その声は戸惑っている。
美月が小さく言う。
「……なるほどね」
静かに。
すべてを受け止めるように。
空気が変わる。
さっきまでと同じじゃない。
同じ場所にいたはずなのに。
距離が、急に遠くなる。
(……知らなかった)
何も。
この人のことを。
どれだけ違う場所にいたのか。
どれだけ遠い存在なのか。
「で?」
翼が口を開く。
ふたばたちを見る。
「それでも一緒にやるのか?」
試すような視線。
言葉。
胸が締めつけられる。
答えが出ない。
そのとき。
「……関係ないだろ」
れいじが言う。
静かな声。
「俺は俺だ」
それだけ。
それ以上は語らない。
翼は少しだけ目を細める。
「……そういうとこだよ」
小さく呟く。
そして。
「そのままいけば、お前が一番だったのにな」
一瞬だけ、本音が混ざる。
でも、すぐに笑う。
「まあいい」
軽く手を上げる。
「楽しもうぜ」
それだけ言って、背を向ける。
BLACK NOVAのメンバーも続く。
扉が閉まる。
静寂。
誰もすぐには動けない。
ふたばはスマホを握ったまま立っていた。
画面には、知らなかった過去。
知らなかった世界。
同じ場所にいたはずなのに。
急に遠くなる。
でも。
もう、時間はない。
ステージはすぐそこ。
逃げられない。
ふたばは、ゆっくり顔を上げる。
そして、れいじを見る。
その距離は――
確かに変わっていた。
近いはずなのに。
遠い。
でも。
ここで立つしかない。
この音で。
この場所で。
すべてを確かめるために。
知らなかった距離が、今、はっきりと見えてしまった。
第23話を読んでいただき、ありがとうございます。
れいじの過去と立場が明かされ、ふたばたちの中で大きな変化が生まれました。
同じ場所に立っているはずなのに、急に感じる距離――その感覚を少しでも伝えられていれば嬉しいです。
この対バンは、ただのライブではなく、それぞれの想いや覚悟がぶつかる場になっていきます。
ここから先の展開にもぜひ注目していただけたらと思います。
よろしければ、感想や評価もいただけると励みになります。
引き続きよろしくお願いします。




