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第22話「夜の音」

第22話です。


これまでのスタジオを離れ、少し違った場所での時間が描かれます。

静かな空気の中でのやり取りや、二人の距離の変化にも注目していただけたら嬉しいです。

対バンまで、あと数日。


 スタジオでの練習は、確実に変わっていた。


「……いいな、今の」


 はじめが言う。


「さっきより全然ハマってる」


「……はい」


 ふたばは小さく頷く。


 前より、ちゃんと乗れている感覚があった。


 れいじは何も言わない。


 でも、さっきより視線が長く残った気がした。


 それだけで、少しだけ胸が落ち着く。


「今日はここまでにするか」


 はじめが言う。


 スタジオを出る。


 夜の空気が、少し冷たい。


 ふたばはそのまま帰ろうとして――足を止めた。


 ふと、上を見る。


 このビルの屋上。


 気づけば、階段を上っていた。


 扉を開ける。


 夜風が、ふわっと頬をなでる。


「……きれい」


 街の灯りが広がっていた。


 遠くまで続く光。


 少しだけ、現実が遠くなる。


 フェンスに手をかける。


 風の音が、心地いい。


 頭の中に、音が浮かぶ。


 さっきの演奏。


 BLACK NOVAの音。


 全部が混ざる。


(……まだ、遠い)


 正直に思う。


 でも。


 逃げたいとは思わなかった。


「……こんなとこ来るんだ」


 後ろから声。


 振り向く。


「……れいじさん」


 れいじが立っていた。


「たまたま」


 短く言う。


 そのまま隣に来る。


 さっきよりも、距離が近い。


 肩が触れそうなくらい。


 でも、触れない。


 その距離が、妙に意識させる。


 風が少し強くなる。


 髪が揺れる。


 ふたばは少しだけ顔を伏せる。


「……どう?」


 れいじが言う。


「今の自分」


「……まだ、全然です」


 正直に答える。


「でも」


 少しだけ顔を上げる。


「前よりは、少しだけ見えた気がします」


 どう歌えばいいのか。


 どう伝えればいいのか。


「……そっか」


 短い返事。


 でも、どこか優しい。


 沈黙。


 風の音だけが流れる。


 ふたばは、少しだけ迷う。


「……れいじさんは」


「ん?」


「勝てると思ってますか」


 対バン。


 あのバンド。


 あの音。


 れいじは、少しだけ空を見た。


「……思ってない」


「え……?」


「今のままじゃな」


 あっさりと言う。


 胸が少しだけ沈む。


 でも。


「でも」


 れいじが続ける。


「だからやる意味あるだろ」


 視線が戻る。


 まっすぐな目。


「勝てる相手とやっても、意味ないしな」


 その言葉に、息をのむ。


「差があるから、頑張れる」


 シンプルで、強い。


「お前もだろ」


「……え?」


「ここでやめるタイプじゃない」


 ふたばは、少しだけ目を見開く。


「……どうして」


「見てりゃわかる」


 その言葉。


 胸の奥が、少しだけ熱くなる。


 でも。


 それだけじゃなかった。


 れいじが、少しだけ視線を逸らして――


「……そういうとこ、好きだな」


「……え?」


 一瞬、時間が止まる。


 意味を理解するのに、少し遅れる。


 顔が、一気に熱くなる。


「え、あの……」


 言葉が出ない。


 れいじは、何事もなかったかのように前を見る。


「……音にちゃんと出てる」


 さらっと続ける。


 でも。


 さっきの言葉は、消えない。


(……好き)


 その一言が、頭の中で繰り返される。


 ふたばは思わず、れいじを見る。


 横顔。


 いつもと同じはずなのに。


 全然違って見える。


 その瞬間。


 れいじがふと、こちらを見る。


 目が合う。


 ほんの一瞬。


 でも――


 心臓が、跳ねる。


「……っ」


 思わず、視線を逸らす。


 顔が熱い。


 何も言えない。


 風が吹く。


 さっきよりも、少しだけ強い。


 でも。


 その風すら、意識できないくらい。


 胸がうるさい。


「……私」


 なんとか声を出す。


「もっと、ちゃんと届けたいです」


 少しだけ震える声。


「今より、もっと」


 れいじは少しだけ黙る。


 そして。


「……それでいい」


 短く言う。


 でも。


 その声は、さっきよりも少しだけ柔らかかった。


 ふたばは、ゆっくり息を吐く。


 不安はある。


 差もある。


 でも。


 それ以上に。


 前に進みたい気持ちが強い。


 そして――


 この人の隣で。


 そう思ってしまう自分がいる。


 夜の街を見下ろす。


 遠くの光。


 まだ届かない場所。


 でも。


 確かに繋がっている。


 隣を見る。


 さっきより、少しだけ近い距離。


 音も。


 想いも。


 揺れている。


 でも。


 その揺れは、確実に前へ進んでいた。


 夜の中で、二人の距離は静かに縮まっていた。

第22話を読んでいただき、ありがとうございます。


屋上という少し特別な場所で、ふたばとれいじの関係にも変化が見え始めました。

何気ない言葉の中にある想いや距離感が、少しずつ近づいているのを感じていただけたら嬉しいです。


対バンに向けた緊張感の中で、音楽だけでなく、それぞれの感情も動き始めています。

ここから先、さらに大きな展開へと繋がっていきますので、ぜひ引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。


よろしければ、感想や評価もいただけると励みになります。

引き続きよろしくお願いします。


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