第21話「ぶつかる音」
第21話です。
対バンに向けての練習が続く中、それぞれの想いが少しずつぶつかり始めます。
これまでとは違う空気の中での変化にも注目していただけたら嬉しいです。
対バンが決まってから数日。
スタジオの空気は、明らかに変わっていた。
誰も口には出さない。
でも、全員が同じことを考えている。
――勝てるのか。
「なあ、これ聴いたか?」
はじめがスマホを差し出す。
「BLACK NOVAのやつ」
ふたばは一瞬ためらったが、頷いた。
「……はい」
再生ボタンが押される。
流れてきた音。
一瞬でわかる。
違う。
音の厚み。
まとまり。
無駄のなさ。
すべてが完成されている。
翼の歌が乗る。
強くて、迷いがない。
まっすぐに突き刺さる。
「……すごいな」
はじめが呟く。
誰も否定しない。
ふたばは、言葉が出なかった。
(……違いすぎる)
胸の奥が、冷たくなる。
自分たちの音が、急に遠く感じる。
再生が止まる。
静寂。
「……やるしかねぇけどな」
はじめが空気を切るように言う。
「……はい」
ふたばも頷く。
でも。
その声は少しだけ弱かった。
スタジオに入る。
「いくぞ」
れいじが言う。
すぐにギターを鳴らす。
ドラム、ベースが重なる。
ふたばもマイクを握る。
歌い出す。
でも。
(……違う)
さっきの音が、頭から離れない。
比較してしまう。
自分の声を。
全部。
曲が終わる。
「……ダメだな」
れいじが言う。
いつも通りの言葉。
でも。
今は、刺さり方が違った。
「……すみません」
反射的に言う。
「どこがダメでしたか」
聞く。
ちゃんと聞く。
「全部」
即答。
それだけ。
説明はない。
その一言で、頭が真っ白になる。
(……また、それ)
何度も言われてきた言葉。
でも、今は違う。
何も見えない状態で、その言葉を受ける。
苦しい。
「もう一回」
れいじが言う。
また始まる。
でも。
さっきよりも、さらにズレる。
気持ちがついていかない。
声が浮く。
音に乗らない。
終わる。
沈黙。
そのまま、言葉が出る。
「……ちゃんと教えてください」
気づけば、口にしていた。
空気が止まる。
「全部って言われても、わかりません」
声が震える。
でも止まらない。
「どうすればいいのか、わからないんです」
初めて、ぶつけた。
感情を。
はじめが少し驚いた顔をする。
美月は、静かに見ている。
れいじは、何も言わない。
沈黙。
数秒が長い。
「……」
ふたばは、視線を逸らさない。
逃げない。
怖いけど。
でも、ここで引いたら終わる。
「……じゃあ、ちゃんと聞け」
れいじが、ゆっくり口を開く。
いつもより少しだけ低い声。
でも。
どこか違った。
「今のお前、歌ってない」
「え……?」
「音なぞってるだけだ」
言葉が刺さる。
「さっきの聴いただろ」
BLACK NOVA。
あの音。
「あいつらは、自分の音で歌ってる」
「……」
「お前は?」
問いかけ。
答えられない。
「自分の言葉で書いたんだろ」
ふたばの歌詞。
あの曲。
「だったら、それをちゃんと出せ」
シンプルな言葉。
でも。
急に、見えてくる。
「上手く歌おうとすんな」
「……」
「伝えろ」
その一言で。
頭の中が、整理される。
ふたばは、息を吸う。
少しだけ、震えが止まる。
「……もう一回、お願いします」
自分から言う。
れいじは、少しだけ頷く。
音が鳴る。
同じ曲。
でも。
今度は違う。
上手くじゃなくていい。
ちゃんと。
伝える。
言葉を。
気持ちを。
そのまま。
声にする。
歌う。
さっきよりも、不安定。
でも。
確かに、何かが乗っている。
曲が終わる。
沈黙。
「……」
れいじが少しだけ目を細める。
「……今のだ」
短い一言。
でも。
それだけで、全部が変わる。
「……はい」
ふたばは、小さく頷く。
胸の奥が、熱い。
怖さは消えていない。
差も埋まっていない。
でも。
進み方は、わかった気がした。
BLACK NOVA。
あの音。
あそこには、まだ届かない。
でも。
自分の音でなら、戦える。
そう思えた。
ぶつかったことで。
初めて、見えたものがあった。
その距離は遠い。
それでも、確かに前に進んでいた。
第21話を読んでいただき、ありがとうございます。
プレッシャーの中で、ふたばとれいじの間にぶつかり合いが生まれました。
しかしその衝突が、新たな一歩につながるきっかけにもなっています。




