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第20話「交差するステージ」

第20話です。


新たな展開として、物語が大きく動き出します。

これまでとは違うステージへ進むきっかけとなる回です。


ぜひ最後まで読んでいただけたら嬉しいです。

ライブハウスのバックヤード。


 いつも通りの空気のはずなのに、どこか落ち着かない。


「なあ、れいじ」


 はじめが声をかける。


「あいつ誰なんだよ」


 数日前の出来事が、まだ頭から離れていない。


 れいじはペットボトルの水を一口飲んでから、短く答えた。


「昔の知り合い」


「いや、それだけじゃねぇだろ」


「……それだけだ」


 それ以上話すつもりはない、という空気。


 はじめは小さく舌打ちする。


「絶対なんかあるだろ……」


 ふたばも同じことを思っていた。


 あのときの空気。

 あの会話。


 ただの知り合いじゃない。


 でも、それを聞ける雰囲気でもなかった。


 そのまま時間は過ぎていく。


 そして数日後。


 昼過ぎのライブハウスは、いつもより少しだけ慌ただしかった。


「今日、打ち合わせ入ってるからな」


 店長がスタッフに声をかけている。


「はい」


 ふたばもドリンクの準備をしながら、その様子を見ていた。


 そのとき。


 入口のドアが開く。


「お疲れ様です」


 低く、落ち着いた声。


 ふたばが顔を上げる。


 そこに立っていたのは――神崎翼。


 そして、その後ろには三人の男たち。


 同じバンドのメンバーだと、一目でわかる。


 無駄のない動き。

 無言でも伝わる一体感。


 “完成されている”空気。


「BLACK NOVAです。本日はよろしくお願いします」


 翼が店長に名刺を渡す。


 店長も少しだけ表情を引き締める。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 そのやり取りだけで、違いがわかる。


 プロ。


 その言葉が、はっきりと浮かんだ。


 ふたばは思わず息をのむ。


 これが――デビューするバンド。


 打ち合わせは奥で始まった。


 内容までは聞こえない。


 でも、時折聞こえる言葉の端々が違う。


「スケジュール調整」

「セットリスト」

「動員」


 現実的な言葉ばかり。


 夢の中にいるような自分たちとは違う、現実の音楽。


 しばらくして、打ち合わせが終わる。


 翼たちが奥から出てくる。


 そのまま帰るかと思った瞬間――


 翼の足が止まる。


 視線の先。


 そこにいたのは、れいじだった。


「……いたんだ」


 軽く笑う。


 でも、その目はまっすぐだった。


「……仕事だ」


 れいじが短く返す。


 数秒の沈黙。


 空気が、重くなる。


「ちゃんと続いてんじゃん」


 翼が言う。


「まだバンド」


「……まあな」


 それだけの会話。


 でも、その間に流れる空気は明らかに普通じゃない。


 ふたばは息を止めるように見ていた。


「今度さ」


 翼が少しだけ距離を詰める。


「対バンやろうぜ」


 一瞬、意味が理解できなかった。


「……は?」


 はじめが声を漏らす。


「お前らと、うちで」


 さらっと言う。


 でも、その言葉の重さは大きい。


 BLACK NOVA。


 デビューが決まっているバンド。


 それと――自分たちが?


 ふたばの胸がざわつく。


 無理だ。


 そんな言葉が浮かぶ。


 でも同時に。


 やりたい、という気持ちもあった。


 れいじを見る。


 どう答えるのか。


 その一言で、全部が決まる。


「……別にいいけど」


 あっさりとした返事。


 迷いはない。


 その瞬間、空気が変わる。


 翼が少しだけ口角を上げる。


「いいね」


「やっぱそうでないと」


 どこか嬉しそうな声。


 それが余計に、緊張感を強くする。


「逃げんなよ」


 小さく、でもはっきりと言う。


 挑発。


 完全に。


 れいじは、視線を逸らさない。


「逃げねぇよ」


 短く返す。


 その一言で、空気がぶつかる。


 見えない火花が散るような感覚。


 ふたばの心臓が強く鳴る。


 怖い。


 でも。


 目が離せない。


「じゃあ決まりな」


 翼は軽く手を上げる。


「楽しみにしてる」


 そう言って、背を向ける。


 バンドメンバーも無言でついていく。


 ドアが閉まる音。


 静寂が戻る。


 でも。


 さっきまでとは、全く違う空気だった。


「……マジかよ」


 はじめが頭をかく。


「やるのかよ、あれと」


 誰もすぐには答えられない。


 ふたばは、れいじを見る。


 横顔は変わらない。


 でも。


 目だけが、少し違っていた。


 静かに燃えている。


 そんな感じだった。


 そのとき、気づく。


 これはただのライブじゃない。


 過去と、今と。


 全部がぶつかる場所になる。


 そして、自分たちがどこまで行けるのか。


 それを試されるステージ。


 逃げられない。


 でも。


 逃げたくない。


 ふたばは、強く思った。


 このバンドで。


 この音で。


 あの場所に立ちたい。


 さっき見た、あの“プロの景色”に。


 追いつきたい。


 超えたい。


 胸の奥に、小さな火が灯る。


 それは、確かに強くなっていた。


 対バン。


 それはただの勝負じゃない。


 それぞれの音が、ぶつかる場所。


 そして。


 未来を変える、ひとつの分岐点だった。


 ステージはもう、交差してしまった。

第20話を読んでいただき、ありがとうございます。


ついに対バンが決まり、FirstDayにとって大きな試練が始まります。

プロとしてデビューするバンドとの対峙は、これまでとは比べものにならないほどの緊張感をもたらします。


それぞれの想いや実力がぶつかるステージが、ここから描かれていきます。

ふたばたちがどこまで通用するのか、ぜひ楽しみにしていただけたら嬉しいです。


よろしければ、感想や評価もいただけると励みになります。

引き続きよろしくお願いします。


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