第2話「はじめての一歩」
第2話です。
ふたばが動き出し、物語が少しずつ進み始めます。
出会いがどんな形に変わっていくのか、ぜひ見守っていただけたら嬉しいです。
翌朝。
目が覚めた瞬間、昨日のことが一気に頭に流れ込んできた。
「……夢じゃない」
あの歌。
あの声。
そして――
『好きなら、やればいいじゃん』
胸の奥が、まだ少し熱い。
「……やるって、何を」
わかっている。
歌だ。
でも。
「私なんかが……」
そう思った瞬間、あの言葉がよみがえる。
『やらないやつよりはマシ』
「……っ」
悔しい。
でも、逃げたくなかった。
⸻
気づけば、ふたばはライブハウスの前に立っていた。
「……来ちゃった」
扉を開けると、昼間の店内は静かだった。
カウンターの奥から、店長が顔を上げる。
「お、昨日の子じゃん」
「……すみません」
「いやいや、いいライブだったろ?」
ふたばは小さくうなずく。
「あの……れいじさんって」
「あー、奥にいるよ」
軽く指をさされる。
心臓がうるさい。
「……失礼します」
⸻
扉の向こう。
機材の並ぶ小さな部屋。
そこに、いた。
れいじ。
「……何」
相変わらず無愛想だった。
「……あの、昨日の」
「覚えてる」
それだけで、少し救われる。
ふたばは、深く息を吸った。
「……私、歌いたいです」
れいじは少しだけ目を細める。
「……ふーん」
そう言って、近くにあったギターを手に取った。
何も言わず、コードを鳴らす。
静かな部屋に、音が広がる。
「……歌ってみて」
「え?」
「なんでもいいから」
突然すぎる。
でも――
逃げられなかった。
「……はい」
震える声で、歌い出す。
音程も不安定。
声も細い。
自分でもわかる。
下手だ。
でも――
止まらなかった。
歌い終わる。
静寂。
「……下手」
「……はい」
わかってる。
でも。
次の一言で、世界が変わる。
「でも、悪くない」
「……え?」
「刺さる」
短い言葉だった。
でも、確かだった。
⸻
「へぇ、いいじゃん」
不意に、後ろから声がする。
振り返ると、店長が腕を組んで立っていた。
「れいじ、お前さ」
「……何」
「自分のバンド、作りたかったんだろ」
空気が少し変わる。
れいじは何も答えない。
「昨日のライブも、知り合いに頼まれてのスポットだろ?」
「……まあな」
「普段は一人でやってんだし」
店長はふたばの方を見る。
「だったらさ」
一拍置いて、ニヤッと笑う。
「この子、ボーカルにしてバンド組めばいいじゃん」
「……え?」
ふたばは固まる。
れいじは少しだけ黙る。
そして――
「……まあ、ありかもな」
「ええ!?」
思わず声が出る。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「何」
「私、ほんとに初心者で……!」
「関係ない」
即答だった。
「さっき言ったろ」
「……え?」
「刺さるって」
その言葉が、胸に響く。
⸻
「やるなら、ちゃんとやれよ」
店長が笑いながら言う。
「中途半端は一番ダサいからな」
「……はい」
自然と返事をしていた。
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「じゃ、決まり」
れいじがギターを置く。
「バンド、やるぞ」
「……私が?」
「他にいないだろ」
当たり前のように言う。
でも――
その一言で、すべてが動き出した。
⸻
失恋した次の日。
ただ歌いたいと思っただけなのに。
気づけば――
バンドを組むことになっていた。
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まだ何も始まっていない。
でも、確実に何かが動いている。
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これはきっと、偶然じゃない。
⸻
今日もまた、吉日だ。
第2話を読んでいただき、ありがとうございます。
ふたばの「歌いたい」という気持ちが、ついに形になり始めました。
ここからバンドとしての物語が本格的に動き出していきます。
次話では、新たなメンバーとの出会いと、初めての練習が描かれます。
よろしければ、感想や評価もいただけると嬉しいです。
引き続きよろしくお願いします。




