第15話「守る理由」
第15話です。
いよいよイベント当日。
これまで積み重ねてきたものをぶつけるステージが始まります。
本番前の空気や、少しずつ変わっていく関係にも注目していただけたら嬉しいです。
イベント当日。
ライブハウスは、いつもより少しだけ騒がしかった。
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「うわ、人多い……」
ふたばは思わず呟く。
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「いいじゃん、テンション上がるだろ?」
はじめが笑う。
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「上がりますけど……緊張もします」
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「大丈夫大丈夫」
軽く肩を叩かれる。
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でも。
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確かに、今までとは違う空気だった。
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人も多い。
出演バンドも多い。
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その中で、自分たちがどこまでやれるのか。
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不安と期待が、入り混じる。
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「……ふたば」
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名前を呼ばれる。
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振り向くと、れいじが立っていた。
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「声、大丈夫か」
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「はい、大丈夫です」
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「無理すんなよ」
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それだけ。
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でも。
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その一言で、少しだけ落ち着く。
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「相変わらずだな、お前」
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突然、後ろから声がした。
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「……あ?」
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振り返ると、見知らぬ男が立っていた。
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ラフな格好で、どこか軽い雰囲気。
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「久しぶり、れいじ」
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「……誰だよ」
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「ひどっ」
男は笑う。
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「高校ん時、一緒にやってたじゃん」
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「……ああ」
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思い出したように、れいじが短く返す。
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「元気そうじゃん」
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「まあな」
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軽いやり取り。
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でも。
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その男の視線が、ふたばに向く。
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「へぇ」
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「この子、ボーカル?」
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ふたばは少しだけ身構える。
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「……かわいいじゃん」
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「え……」
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距離が、少し近い。
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「名前なんていうの?」
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「えっと……」
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戸惑っていると――
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「……やめとけ」
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低い声。
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一瞬で、空気が変わる。
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れいじが、一歩前に出ていた。
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「……なんだよ」
男が少しだけ笑う。
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「別にいいだろ、挨拶くらい」
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「いいけど」
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一拍。
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「こいつ、そういうんじゃないから」
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さらっと言う。
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でも。
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その言葉に、少しだけ棘があった。
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「はは、何それ」
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男は軽く笑う。
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「相変わらずだな、お前」
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「……別に」
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それ以上は何も言わず、視線を逸らす。
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「じゃ、またあとでな」
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男は手をひらひらさせて、その場を離れていった。
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少しだけ、静かになる。
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「……ごめん」
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れいじがぽつりと言う。
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「え?」
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「変なのに絡まれて」
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「い、いえ……」
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ふたばは首を振る。
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でも。
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胸の奥が、少しだけ熱い。
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「……大丈夫か」
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「はい」
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れいじは、少しだけふたばを見る。
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「ならいい」
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それだけ言って、いつもの表情に戻る。
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でも。
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さっきの言葉が、頭から離れない。
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『こいつ、そういうんじゃないから』
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あの言い方。
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あの声。
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まるで――
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守られたみたいだった。
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「……っ」
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胸が、強く高鳴る。
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ライブ前の緊張とは、全然違う。
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もっと、近くて。
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もっと、はっきりした感情。
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(……なんで)
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わかっているのに。
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それでも。
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止まらない。
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れいじの背中を見る。
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その距離が、少しだけ近く感じた。
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でも。
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まだ、触れられない距離。
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そのもどかしさが、胸を締めつける。
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そして。
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そのまま。
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ステージの時間が、近づいていく。
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音も。
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想いも。
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すべてをぶつける瞬間が、もうすぐそこにあった。
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心はすでに、次の一歩を踏み出そうとしていた。
第15話を読んでいただき、ありがとうございます。
本番直前の中で、ふたばとれいじの距離にも少し変化が見えた回になりました。
何気ない一言や行動が、ふたばの中で大きな意味を持ち始めています。
次はいよいよライブ本番。
これまでの想いと楽曲がどのように響くのか、ぜひ楽しみにしていただけたら嬉しいです。
よろしければ、感想や評価もいただけると励みになります。
引き続きよろしくお願いします。




