第13話「言葉にできないもの」
第13話です。
ふたばが作詞に向き合い、自分の気持ちと正面から向き合っていきます。
静かな中で、少しずつ変化が生まれていく回です。
ぜひ最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
夜。
スタジオの隅で、ふたばは一人ノートを開いていた。
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ペンを持ったまま、止まっている。
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「……書けない」
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小さく呟く。
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頭の中には、いろんな気持ちがある。
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でも。
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それを言葉にしようとすると、全部消えてしまう。
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「……なんで」
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さっきまで、ちゃんとあったのに。
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美月の曲が、頭に浮かぶ。
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“言えないまま 飲み込んだ想い――”
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「……っ」
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胸が、少し苦しくなる。
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(あんな風に、書けない)
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自分の気持ちなのに。
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うまく形にできない。
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「……はぁ」
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ため息をついた、そのとき。
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「まだいたのか」
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後ろから声がした。
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「……れいじさん」
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「帰らないの」
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「ちょっとだけ……」
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れいじは、隣に腰を下ろす。
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「書いてる?」
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「……全然です」
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ノートを少しだけ閉じる。
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「難しいです」
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「そりゃそうだろ」
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あっさりと言う。
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「簡単に書けたら、誰でもやってる」
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「……ですよね」
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少しだけ、気が楽になる。
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「何書こうとしてる?」
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「え?」
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「テーマ」
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少し考える。
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「……好きな人のこと」
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言った瞬間、顔が熱くなる。
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「……へぇ」
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れいじは、特に驚いた様子もなく返す。
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「いいじゃん」
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「え……?」
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「一番、嘘つかなくていいやつだろ」
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その言葉に、少しだけ救われる。
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「でも……」
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「うまく書けなくて」
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「うまく書こうとするなよ」
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「え?」
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「そのまま書けばいいだろ」
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「そのまま……」
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「思ってること」
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シンプルだった。
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でも。
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それが、一番難しい。
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「……怖いです」
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ぽつりと、本音が出る。
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「何が」
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「言葉にしたら」
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一度、言葉を飲み込む。
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「戻れなくなりそうで」
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静かな空気。
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少しだけ、時間が止まる。
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「……いいじゃん」
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れいじが言う。
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「戻らなくて」
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「……え?」
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「変わるために、やってんだろ」
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その言葉が、まっすぐ胸に入ってくる。
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「……っ」
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何も言えない。
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でも。
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逃げていた理由が、はっきりした気がした。
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怖かったんだ。
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変わることが。
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「……書いてみます」
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小さく言う。
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ノートを開く。
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ペンを持つ。
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ゆっくりと。
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言葉を、落としていく。
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“あなたの何気ない一言で”
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手が、止まらない。
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“こんなにも嬉しくなるなんて”
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胸の奥にあったものが、少しずつ形になる。
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怖い。
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でも。
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止めたくない。
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「……いいじゃん」
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横から、れいじの声。
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「ちゃんと届くよ、それ」
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顔を上げる。
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「……ほんとですか」
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「嘘ついてどうすんだよ」
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少しだけ笑う。
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その表情に、胸がまた高鳴る。
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「……ありがとうございます」
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ふたばは、もう一度ノートを見る。
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まだ途中。
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まだ未完成。
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でも。
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確かに、そこにあった。
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自分の言葉。
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自分の気持ち。
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音楽と一緒に。
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少しずつ。
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形になっていく。
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もう。
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止まれない。
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言葉にした瞬間、心もまた前に進んでいた。
第13話を読んでいただき、ありがとうございます。
言葉にすることの難しさと向き合いながら、ふたばは少しずつ自分の想いを形にし始めました。
そしてその過程で、れいじとの距離も少しずつ縮まってきています。
ここからは楽曲の完成に向けて、さらに物語が動いていきますので、ぜひ引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。
よろしければ、感想や評価もいただけると励みになります。
引き続きよろしくお願いします。




