第11話「言葉にするということ」
第11話です。
新たな楽曲作りが動き出し、ふたばにとって新しい挑戦が始まります。
音楽だけでなく、言葉と向き合う時間も増えていく回です。
ぜひ最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
ライブハウスでのバイトと、スタジオでの練習。
気づけば、それが日常になっていた。
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「お疲れー」
はじめがドラムスティックを回しながら言う。
「今日もいい感じじゃん」
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「まだまだです……」
ふたばは息を整えながら答える。
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「でも最初より全然いいよ」
「ね」
美月がベースを軽く鳴らす。
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少しずつ。
本当に少しずつだけど、前に進んでいる。
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「……なあ」
れいじがぽつりと言った。
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「オリジナル、1曲だけだと寂しいな」
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「え、増やすってこと?」
はじめが食いつく。
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「今度、ロックのイベントあるだろ」
「あー、店長言ってたやつか」
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「そこに出るなら、もう2曲くらい欲しい」
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「いいじゃん!」
はじめが笑う。
「やろうぜ!」
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「1曲は、美月」
れいじが視線を向ける。
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「……は?」
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「作れるだろ」
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少しの沈黙。
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「……まあ、できなくはないけど」
美月はそっけなく答える。
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「じゃあ決まり」
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「軽いなぁ」
はじめが笑う。
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「もう1曲は?」
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「それはもうある」
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「え?」
ふたばが顔を上げる。
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「前から作ってたやつ」
れいじはそう言って、ギターを手に取る。
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「これ、ふたばに歌ってほしくて書いた」
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「……え?」
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言葉が止まる。
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ギターの音が、静かに流れる。
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優しくて、まっすぐな音。
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気づけば、最後まで聴き入っていた。
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「……すごい」
思わず口に出る。
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「これ、私が……?」
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「そう」
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れいじは当たり前のように言う。
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「あと」
一拍置いて。
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「歌詞、書いてみない?」
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「え!?」
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一気に現実に引き戻される。
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「む、無理です!」
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「なんで」
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「書いたことないし……!」
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慌てて首を振る。
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「私なんかが、そんな……」
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「……きみの言葉で、歌を届けたい」
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れいじの声は、静かだった。
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「え……?」
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「その方が、意味あるだろ」
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まっすぐな言葉。
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逃げ場がない。
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「……俺も手伝う」
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ぽつりと続ける。
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「一人でやれって言ってるわけじゃない」
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少しだけ、肩の力が抜ける。
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「……やってみます」
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気づけば、そう言っていた。
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「いいね」
はじめが笑う。
「楽しみじゃん!」
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「……まあ、がんばりなよ」
美月が軽く言う。
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その日の練習が終わり。
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ふたばは一人、スタジオに残っていた。
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手には、ノートとペン。
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何を書けばいいのか、わからない。
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「……歌詞」
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ぽつりと呟く。
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頭の中は、真っ白だった。
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“今日が吉日”みたいに。
誰かの心に届く言葉。
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そんなもの、自分に書けるのだろうか。
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「……無理かも」
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ペンが止まる。
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でも。
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思い出す。
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あの日のこと。
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ステージの上で。
歌ったときの気持ち。
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胸が、少しだけ熱くなる。
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(……私の言葉)
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ゆっくりと、ペンを動かす。
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“どうしても、気になってしまう人がいる”
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書いて、すぐに止まる。
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「……っ」
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顔が少し熱くなる。
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(これ……)
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まるで。
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自分の気持ち、そのままだった。
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消そうとして、手が止まる。
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でも。
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その言葉だけは、消せなかった。
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まだ、形にはならない。
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でも。
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確かに、そこにあった。
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自分の中にある、本当の気持ち。
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言葉にすること。
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それは、思っていたよりずっと――
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難しくて。
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でも。
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少しだけ、怖くて。
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そして。
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少しだけ、嬉しかった。
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言葉にした瞬間、何かが変わり始めていた。
第11話を読んでいただき、ありがとうございます。
ふたばが「歌う」だけでなく、「言葉にする」という新しい一歩を踏み出しました。
自分の気持ちと向き合うことで、音楽も、心も少しずつ変わっていきます。
次話では、さらに楽曲作りが進み、それぞれの想いがより深く描かれていきます。
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引き続きよろしくお願いします。




