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【完結】婚約破棄はこちらから。証拠は三つです ——冷静王女は感情で裁かない  作者: 木風


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1/1

婚約破棄はこちらから。証拠は三つです。

「婚約者であるギルベルト殿が、妹君であるミレイユ嬢と不義を働いていました」


ラザールは、いつもと変わらぬ感情が一切混ざらない口調で、淡々とわたくしにそう告げた。



後日、廊下で見かけた二人の姿から確信が生まれるまで三秒。

その後の行動まで三分。


この国の王女である、わたくしセラフィナ・エウフェミア・ド・ロゼールと、公爵家嫡男であるギルベルト・アンリ・ド・モンリュックとの婚約が決まったのは半年前。


いつかは来るだろうと思っていた。

けれど予想よりも早くもたらされたその情報。


わたくしは自室に戻り、予め用意していた書類を取り出した。

婚約契約書、守秘義務契約、貞節誓約書——すべて署名済み。

結婚式の二ヶ月前、彼に『愛の証』と言って署名させた書類だ。

彼は内容をろくに読まなかった。男というのは、そういうものだ。


ミレイユが以前から吹聴していたのを知り、準備していたものが、こんなに早く役に立つとは。


わたくしは淡々と、父のもとへ向かった。

父——この国の王にして、血統と制度を何より重んじる人。


「わたくし、セラフィナとギルベルト様との婚約は、本日をもって婚約破棄成立いたします」


書類を机上に置く。

父の瞳が、書類からわたくしへ移った。


「……根拠は」

「証拠は三つです。第一、この署名。彼の筆跡で間違いございません」


わたくしは契約書の末尾を指で押さえた。

インクに混じる、薄い金の粉——『誓約紋』。教会の公証だ。偽造は不可能。


「第二、貞節誓約。破った瞬間、指輪が黒く変色します」


左手を上げる。

婚約指輪の宝石は、すでにどす黒くなった指輪を外し、目の前の机に置く。

父の指が、ぴくりと動いた。


「第三——『真実の鏡』です」


従者が銀枠の小さな鏡を台座ごと運び込み、床へ置いた。

鏡面に触れた者の『直近の行為』だけが、ぼんやりと浮かぶ魔道具。

調停や裁きで、証拠として使われる。


「……確認なさいますか?本人たちに」


返答より先に、廊下の向こうで甲高い悲鳴が上がった。


「いやぁぁぁっ!」


——来た。


扉が乱暴に開き、妹ミレイユが飛び込んでくる。

後ろから、汗だくのギルベルト様が追いすがった。


「何を言ってるんだ、誤解だ!」


汗を垂らしながら彼は、わたくしではなく父の顔色ばかり見た。

——ああ、この男は最後まで『王家』と結婚したいだけ。


「誤解、で押し通すおつもりですのね」

「お姉様、お願い……ほんの遊びだったのよ。ね? ね? 王家の恥になるから……黙って……」


わたくしが淡々と言うと、ミレイユは一転、甘ったるい声を出した。


足掻きの第二段。取引。

自分が悪いと認めず、損得だけで口を縫おうとする。

ギルベルト様も追随するように早口になった。


「金なら出す。いや、そうだ、君が望むなら公爵家の持ち分も譲る。婚約はそのまま——」

「第三段に移りましたわね」


わたくしは微笑んだ。


「次は脅し、あるいは『王女を狂女に仕立てる』ですわ」

「な、何の話だ!」


彼の声が裏返る。

ミレイユも同時に口を尖らせた。


「だって……お姉様はいつも冷たいもの。お父様に好かれてるのをいいことに——」

「——ああ。やはり」


わたくしは軽く頷いた。


「性格が悪い姉に虐げられた可哀想な妹。として、物語を作るおつもりでしたのね」


ミレイユの瞳が泳ぐ。

その瞬間、ギルベルト様が妹の腕を掴んだ。


「余計なことを言うな!」

「痛いっ!」

「俺たちのことは、誰にも言うなと——何度も言っただろう!」


——口が滑った。


その瞬間、廊下の空気が変わった。

扉の向こうから複数の足音。近衛。従者。侍女。


——この場に偶然居合わせた者たちの、息を呑む気配。


父の執務室は、いつの間にか『観客席』を得ていた。

従者が一歩前に出て、小型の記録魔道具を掲げる。


「陛下。脅迫と暴行の音声記録でございます。先ほどの言葉、全て記録されております」

「う、嘘だ……!」


ギルベルト様が蒼白になる。

ミレイユは『誰かの目』を意識した途端、膝から崩れた。


「待って……待ってよ、お姉様……!」


周囲の侍女が、思わず口元を覆う。

逃げ道は消え、父が立ち上がった。

声は低く、静かだった。


「姦通は死罪。王家に連なる者の名誉毀損も重罪だ。……愛で済む罪か」

「そんなっ! お父様!」

「陛下! 私は、私は……!」


ミレイユが金切り声を上げて泣き、ギルベルト様が取り繕うように叫ぶ。だが、その叫びは薄い。

わたくしは、ただ書類を整え直した。

制度は、整然としている。感情では揺れない。


——その日のうちに、裁きの場が整えられた。


白い石造りの調停室。

判事は無表情で、監査官は数字を読み、教会の神官は淡々と誓約紋を確認する。


わたくしが、提出した。

契約。誓約。指輪。真実の鏡。音声記録。


それだけだ。

判決は、驚くほど簡潔だった。


婚約破棄。

家領没収。

爵位剥奪。

王都追放。

——ミレイユは修道院送り、名を捨てる。


読み上げが終わる前に、ギルベルト様は泣き喚き始めた。

だが誰も耳を貸さない。ここは『制度』が支配する場所だ。


判事席から、先ほど判決を言い渡した裁判官——いえ、裁判官ラザール・ユスト・ド・ロシュフォールが降りてきた。

わたくしの提出書類を一枚も無駄にしなかった男。


「セラフィナ王女殿下」


彼はわたくしの前に膝をついた。


「あなたの勝利は、偶然ではない。準備と判断の積み重ねだ。……よろしければ、その隣に立つ許可をいただきたい」

「そうですわね……」


わたくしは静かに返す。


「条件がありますの。わたくし、浮気は許しませんことよ?」


ラザールは笑わない。

けれど、目だけが柔らかくなる。


「当然です。あなたの信頼を失うくらいなら、最初から跪きません」


鎖の音がした。

元婚約者と妹が、別々の場所へ連れ出される。叫び声が遠ざかる。


論理とは、最強の武器なのだ。


王都の噂は速かった。


「王女殿下、冷酷ではなく——聡明だったらしい」

「王家に喧嘩を売ると、こうなるのね」


空は、驚くほど晴れていた。

わたくしは紅茶を一口飲み、窓辺で笑った。

——静けさは、奪い返した。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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― 新着の感想 ―
魔法と剣の世界観、裁きも清々しく一刀両断ですわね。 こうでなくっちゃ。
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